鏡に映った体を上から下まで入念にチェックする。うん。間違いなく、あたし。ヒロコの体だ。元に戻ったんだ。
ホッと胸を撫で下ろしていると、ノック音が聞こえてきた。きっと、ダイゴだ。
……少しだけ、イタズラしてやろうかな。
「ヒロコちゃん……?」
少しだけ控えめに、ダイゴは扉から顔を出した。あたしがヒロコに戻ったのか、それともレインのままなのか、まだ判別できていないだろうから、慎重なのも無理はない。
えっと、レインならどうするかな。両手を胸辺りで握って、小首を傾げて、ニコッと微笑む。こんな感じかな?
「おはようございます。ダイゴさん」
「…………」
「ダイゴさん?」
「ヒロコちゃんでしょ?元に戻ったんだね。よかった」
「え!?なんでわかったの?」
「わかるよ。ヒロコちゃんのことだからね」
なぁんだ、つまらない。でも、嬉しい。あたしがあたしだと告げなくても、中身を見抜いてくれる存在なんて、きっとダイゴ以外に存在しない。
だから、大切にしていこう。今まで以上に、もっと、ずっと。一日ぶりのダイゴの手のひらの温もりを感じながら、そう思った。
「おかえり。ヒロコちゃん」
「ただいま。ダイゴ」
「色々聞きたいことはあるけれど、まずはこれだね」
握られた手を引かれ、リップ音と共に軽いキス。悪戯っぽい色の中に、熱情を秘めたダイゴの瞳と視線が絡み合う。
「昨日一日分のキスとハグをたっぷりしないとね」
「……もう。仕方ないんだから」
今日はたくさん抱き合って、飽きるくらいキスしてあげよう。ダイゴが隣にいる幸せを噛み締めながら。
◆
聞きなれた潮風と波の音。太陽の光をたっぷり浴びた海の香り。うん。やっぱり、私はナギサシティの海が一番好き。
いろんなところに出掛けたり、遠い地方を旅するのも好きだけれど、帰るべき場所とも言えるこの海があるナギサシティが、私の在るべき場所だと強く思った。
「マナフィ。いるんでしょう?」
鳴き声がした。水が落ちるようなきれいな鳴き声。
水面が盛り上がって、弾ける。水のような潤いを持った青い体に、二本の触角。大きな瞳。
海の中から現れたのは、間違いなく私がホウエンで会った幻のポケモン、マナフィだった。
「やっぱり今回の入れ替わりはあなたが?」
『そう!楽しかった?』
「ええ。ヒロコちゃんがとっても素敵な人だって改めて知れたし、それに」
ヒロコちゃんだけじゃない。彼女の回りにいる人たちもみんな素敵だった。
それに、私の隣にいつもいてくれる人も。
「自分の傍にいてくれる人の大切さを、改めて感じることが出来たから」
私の言葉を聞くと、マナフィはにこりと笑って、溶けるように海へと消えた。
マナフィはもしかしたら、 教えてくれようとしたのかもしれない。他の人を羨ましがったり、憧れたりしなくても、私は私なんだよ。姿形は換えられても、他の人には換えられない幸せを持っているんだよ、って。
「レイン?」
「デンジ君!」
そして、私は私の幸せの源へ。デンジ君の腕の中へと飛び込んだ。
#ヒロレイチェンジ end 2019.4.30