エイプリルフール?

改めて不思議な光景だと思う。オレの隣にいるレインは、ふて腐れた様子で腕を組んでいる。モニターの向こうにいるヒロコは、眉を八の字にして落ち着かない様子だ。
うん。やっぱり不思議だ。世界珍光景に登録されてもおかしくないくらい不思議だ。こうも二人らしからぬ表情や仕草を見せられたら、このあり得ない現象を疑いようがない。

『とりあえず、整理してみようか』

モニターの向こうにいるダイゴが、苦笑しながら口を開いた。

『にわかには信じがたいことだけれど、ヒロコちゃんの体の中にいるのがレインちゃんで』
『はい……』
『レインちゃんの体の中にいるのがヒロコちゃん、と』
「そうみたいね……」

レイン……いや、ヒロコか?体はレインなんだからレインか?中身はヒロコなんだからヒロコか?ああ、もう、ややこしい。とにかく、ヒロコ(レイン)が盛大にため息をついた。

『二人とも、今日がエイプリルフールだからってボクとデンジをからかおうってことではないよね?』
『ち、違います!』
「からかうくらいでこんな手形つけられてたまるかよ」

オレの左頬を見て欲しい。エンジュシティの紅葉に負けないくらい赤くきれいな手形が残っていることだろう。この手形を残した張本人は、再び大きなため息をついた。

「だから、謝ったじゃない。ごめんって。でも、考えてみて?誰だって恋人以外の顔が近付いてきたらひっぱたくでしょ?いくら相手が有名人だろうと、イケメンだろうと、恋人以外からキスされるなんて寒気がするわ」
「……」
『ヒロコちゃん、言い方には気を付けてあげよう?デンジはレインちゃんにそういうこと言われたことも、ましてやビンタなんてされたこともないだろうに』
「じゃあダイゴはあたしがデンジにキスされてもよかったっていうの!?」
『それは嫌だけど』
「ほら!それにレインだって嫌でしょ?レインの体とはいえ中身はあたしよ?」
『え?えっと……』
「もう、いいから。その話はもういいから」

オレはただ、ねぼすけな恋人をいつも通り起こそうとしただけなのに、何でこんな恥ずかしい思いをしないといけないんだ。

『とりあえず、こうなった原因を考えてみようか。レインちゃん』
『は、はい』
『……』
『どうしたんですか?』
『いや、なんだかヒロコちゃんに敬語を使われてるみたいで不思議だなぁと思って』
「いいから、ダイゴ。話を進めてよ」
『そうだった。レインちゃんは波導っていう力を使えるんだよね?その力が関係している可能性はあるかい?』
『……いいえ。ないと思います。波導を使えば人の考えや感情を読み取ることは出来るけれど、人の魂……心……といえばいいのかしら。それを入れ替えるなんて、出来るはずがないもの』
「波導という線はなし、か」
「ねぇ、ダイゴ。ポケモンが進化の石に影響を受けて変化するみたいに、人にも何らかの影響を及ぼす石があったりしないの?」
『世界中を探せばあるかもしれないけれどボクは手にしたこともお目にかかったこともないよ。もしそんな石があるなら是非教えて欲しいくらいだよ。あるとしたらいったいどんな輝きを秘めているんだろうね。きっととても』
「わかった!わかったわよ、ストップ!」

しまった、といった表情でヒロコ(レイン)はダイゴの話を遮った。ダイゴというこの男に石の話を一つ振れば十になって返ってくるということは、恋人であるヒロコが一番良く知っている事実だ。止めなければ脱線した列車のごとく、どこまでも話し続けたに違いない。
四人で頭を抱えること数分。行き着いた結論は、やはりここだった。

『他に考えられることがあるとしたら……やっぱりポケモン、だよね』
「不思議な力を持つ存在と言えば、そうなるよな」
「ポケモンの技に心を入れ替えるような技なんて、あったかしら?あったとして、誰かこうなった原因に心当たりはあるの?」
『うーん……』

またしても全員で頭を抱えて考え込むことになりそうだ、と思ったとき。

『……ハートスワップ』

レイン(ヒロコ)がそう、呟いた。どうやら、この不可思議な現象を解決するための糸口は、意外と早い段階で見つかりそうだ。






2019.4.2

- ナノ -