出逢いはまるで雷撃のごとく




 サイユウシティと隣街を繋いでいる、3番道路にある保育園の前を通りかかったとき、必死な形相をした保育士から「あなたたち、トレーナー!?」とすがりつかれた。なんでも、今日は園児たちとポケモンバトルの練習をする日だったが、保育士が数名体調不良で欠勤し、人数が足りていないとのことだった。
 そこに、偶然通りかかったトレーナーであるオレたちに声をかけたらしい。「どなたか一人でいいんです。お給料は払いますから」とその保育士は頭を下げたが、レインはやんわりと首を振ってボランティアとして園児の世話を承諾した。ナギサシティの孤児院で子供たちの世話に慣れているレインが、確かに一番適任ではある。
 そんなわけで、一日保育園の手伝いをすることになった代わりに、一泊させてもらうという交換条件で商談は成立した。

 レインが園児の相手をしている間、暇を持て余したオレとオーバはその辺の草むらに入りポケモンを探すことにした。未だ、オレたちはイッシュ地方に来て一匹もポケモンを仲間にできていない。そろそろ手持ちを増やしておかなければ後々のジム戦に響くし、ここいらで新しくポケモンを仲間にしようと思ったのだ。
 アララギ博士からイッシュ図鑑機能を追加してもらったポケモン図鑑を、レインから借りていざ出陣。オレは三十分ほど草むらの中を歩き回った。その間、マメパト、ミネズミ、ヨーテリー、チョロネコなど新しいポケモンにはたくさん出会えたが、図鑑を見る度にオレは肩を落とした。どれもでんきタイプのポケモンではなかったからだ。
 オレはでんきタイプのジムリーダーだし、でんきタイプのポケモンが好きだ。どうせ仲間にするならでんきタイプがいい。
 イッシュリーグに挑戦するにあたって様々なタイプのポケモンを連れていたほうがいいとはわかっているが、そこはオレの拘りだった。初めてジムバッジを手にしたその日から、オレはでんきタイプのポケモンたちと強くなることを心に決めたのだから。
 どうしてもでんきタイプのポケモンを仲間にしたかったオレは、それからさらに三十分ほど草むらを探索した。すでに飽きて保育園に戻っていったオーバは子供たちから遊ばれるようだった。ときおり「髪は引っ張るなー!」という悲鳴が聞こえてくる。子供は好奇心が旺盛なんだ。そんなの、物珍しい髪型をしているおまえが悪い。
 しかし、静かにしてもらいたい。野生のポケモンが逃げ出してしま……ん? 今、何か草むらの奥で光らなかったか?
 オレはモンスターボールを片手に、そこへ向かって慎重に歩いていった。

 そして、オレたちは出会った。それは体中に雷が走るような、運命的な出会いだった。

 体格や大きさはルクシオに似ている。四足歩行のそのポケモンは、軽やかにオレの前へと姿を現したのだ。体中を覆う黒と白の短毛、黒く艶々とした蹄、白くトゲトゲした鬣、じっとオレを見つめる青い瞳。オレは一瞬にして心を奪われてしまった。
 ゲットしたい。高揚していく心が止まらない。でんきタイプのポケモンかどうか確認する必要はなかった。美しい姿の中でも一際目立つ雷のような白い鶏冠! ときおりそこからバチバチと放たれる光は間違いなく電気だ。こいつが電気ポケモンじゃなくてなんだと「おぉー! デンジ! いいやつ見付けたじゃねぇか!」ビクッ。目の前のポケモンが驚いたように一歩後ずさった。

「おいおい! 早くゲットしないと逃げちまうぞー!」
「誰のせいだと思ってるんだ! 大声を出すな!」
「デンジ君! 危ないわ!」
「!」

 そのポケモンは、なんと炎を纏ってオレへと突進してきたのだ。寸前のところでそれを避ける。ふむ、臆病かと思いきやなかなか好戦的な性格のようである。ますます気に入った。
 しかし、ほのおタイプの技を使うことが少し気になったので、一応ポケモン図鑑で確認することにした。
 名前はシママ。先ほど使ってきたほのおタイプの技は恐らくニトロチャージという技だろう。しかし、間違いなく電気タイプ単体のポケモンらしい。
「なあなあ! さっきのほのおタイプの技だよな? ほのおタイプのポケモンかな?」「どうかしら。見た目はでんきタイプみたいだけれど……」「おにいちゃーん! がんばれー!」
 高台にある保育園の柵内からオレたちのことを見ているのだろう。レインとオーバの話し声や園児たちの声援が聞こえてくる。これは、ゲットするしかないだろう。

「よし。いけっ、サンダース! 10まんボルトだ!」

 電気がたまったサンダースの体毛から高電圧が迸る。それは一直線にシママへと向かっていった。同じでんきタイプの技で効果は今一つだろうが、ポケモン同士のレベルの差があるのでそこそこ体力は減らせるはずだ。
 激しい音と同時にシママは10まんボルトを受けた。正しくは、シママの鶏冠が10まんボルトを受けたようだ。
 おかしい。いくら効果は今一つだからといっても、オレのサンダースの10まんボルトを受けてああもピンピンしていられるだろうか。むしろ、心なしか鶏冠が放っている電気の量が増えた気がする。特殊攻撃力が上がった……? ポケモン図鑑には……。

「……避雷針。それが、あのシママの特性か。シンオウのポケモンにはない特性だな」
「サンサン!」
「サンダース! シママに電気技は効かない! 別の技で攻めるぞ! でんこうせっか!」

 目にも留まらぬ速さでサンダースはシママへと接近し、そのままぶつかっていった。シママは若干よろけたようだったが、すぐに電撃波を放って反撃してきた。しかし、蓄電を持つこちらにもでんきタイプの技は効かないんだ。悪いな。

「決めろ、サンダース! シャドーボール!」

 影を集めた球体がシママへと飛んでいき、直撃した。シママがよろよろと膝を突いた、今がチャンスだ。
 オレはモンスターボールを投げ付けた。シママの鶏冠に当たり、カパッと開いたそれはシママを吸収し、閉じる。一回、二回と揺れて……とうとう、その揺れは止まった。頭上からは歓声が降ってきた。
 モンスターボールを拾い上げて中に入っているシママと目を合わせる。「おまえのこと認めてやるよ」とでもいうように、シママは笑っていた。どうやら、ガッツのある頼れる仲間が増えたようだ。



2011.02.28
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