vsトライアルトライアングル




「で? ここのどこがポケモンジムなんだよ」

 スプーンを使ってミートソースドリアをすくい上げながら、オーバが言った
 カノコタウンから一番近いジムがあるというサンヨウシティに着いたオレたちは、地図に従ってサンヨウジムへと辿り着いたはずだった。
 しかし、そこにあったのはジムではなくレストランだったのだ。
 レストランに足を踏み入れた瞬間に「いらっしゃいませ! 三名様ですね! こちらへどうぞ!」と、赤い髪のやたらと暑苦しいウェイターに通されるがままに席に着き、「ご注文はお決まりでしょうかー?」と、緑の髪のやたらとのんびりしたウェイターに注文を取られ、今に至る。
 ナポリタンスパゲティをくるくるとフォークに巻き付けながら、レインが首を傾げた。

「普通のレストランに見えるわね」
「でも、確かにジムはここだと思うんだ」
「街の人に聞いて確認したものね」
「ああ」
「やー、しかしここの料理は美味いなぁ」
「失礼いたします。お冷やはいかがでしょうか?」
「あ! お願いしまーす!」

 今度は青い髪のやたらと格好を付けたウェイターが水を注ぎにやってきた。
 他のウェイターやウェイトレスとは違い、オレたちに接客をしてきた三人は何かが違う気がする。全員が全く違う性質を持つようで、しかしどこか似通っている。兄弟か何かだろうか。

「当店の料理はいかがでしょうか?」
「すごく美味しいです。お店の雰囲気もとてもいいし、接客は丁寧だし」
「お褒めに与り光栄です。ありがとうございます。是非、またいらっしゃってください」
「……ちょっといいか?」

 オレがそんなことを考えているとこの青髪、あろうことかレインに話しかけて来やがった。まあ、ちょうどいい。話を遮断させるついでに疑問を解決させることにしよう。口調が尖ってしまうのは致し方ない。

「はい?」
「ここはただのレストランなのか? ポケモンジムだと聞いて来たんだが」
「はい。間違いなくこちらはポケモンジムになっております。チャレンジャーのかたですか?」
「ああ」
「では、あちらへどうぞ。仕掛けを解いてレストランの奥へとお進みください」

 青髪のウェイターが示した方向に向かう。店の最奥だと思っていたそこには大きな垂れ幕があり、炎と思われる絵が描いてある。そして、足下には三つのパネルだ。それぞれに炎、水、草の絵が描かれている。
 オレの両脇からレインとオーバが顔を覗かせてきた。

「これがジムの仕掛け? ジムってレストランと隣接しているのかしら」
「この仕掛け、どういう意味だろうな」
「簡単だろ。ここが初心者向けのポケモンジムなら、おおかた、垂れ幕に描かれたタイプと相性のいいタイプを選べってことだな」

 オレは迷わずに水が描かれたパネルの上に乗った。すると垂れ幕はするすると上がり、目の前に次の仕掛けがある部屋が現れた。その部屋もレストランの一室のようで部屋の両脇にはテーブルが並び、ウェイトレスや食事をしている客がいる。
 こうやってタイプの相性を答えて進んで行くというわけか。納得しつつ一歩進む。すると、接客をしていたウェイトレスがオレの目の前に立ち塞がってきた。

「お客様、ジムのチャレンジャーですか?」
「ああ」
「では、ジムリーダーにチャレンジする資格があるか判断させていただきますね」

 なるほど。レストランがポケモンジムであるここのジムトレーナーはウェイトレスやウェイター、だということか。
 しかし、ポケモンジムとレストランを融合させるとはなんとも合理的だ。ポケモンバトルを観戦できるようにすれば、チャレンジャーだけではなくバトルを見ることが好きな一般人もジムに来やすい。また、ジム戦を終えて食事をしたり、オレたちのように食事中にここがジムであることを知りジムに挑むトレーナーもいるだろう。稼いでるだろうなぁ、このジム。
 下世話ことを考えながらも、オレはあれよあれよという間にジムトレーナーたちを倒していった。オレはシンオウリーグに続く門を守るジムリーダーだ。他地方のジムとはいえ、ジムトレーナーに負けるわけにはいかない。

「次で最後か」
「おっ! いよいよジムリーダーのお出ましか!?」
「って、おまえたちついてきてたのか」
「当たり前だろ! デンジがイッシュ地方のジムを制覇するところ、見届けないとな!」
「私たちまでチャレンジャーと間違えられてバトルを仕掛けられちゃったけどね」
「いいじゃねぇか! レインもせっかくだからイッシュのジムに挑戦しちゃえよ! 俺もそのつもりだしな!」
「そうね。せっかくだし……」
「よーし! じゃあ、最後の仕掛けは……これだな!」

 オーバはオレを押し退けて最後のパネルを踏んだ。こいつはさっきからテンションが上がりすぎていると思うのだが。まあ、燃え尽きられて面倒なことにならないだけまだマシか。
 最後の垂れ幕がするすると上がっていく。そこには今までのようなレストランを兼ねたバトルフィールドではなく、それよりもさらに広いバトルフィールドが広がっていた。
 そして、そこにいたジムリーダーはオレたちを接客した三人のウェイターたちだった。薄々感づいていたが、やっぱり、か。

「ようこそ。こちら、サンヨウシティポケモンジムです」
「おれはほのおタイプのポケモンで暴れるポッド!」
「みずタイプのポケモンを使いこなすコーンです。以後、お見知り置きを」
「そしてぼくはですね、くさタイプのポケモンが好きなデントと申します」

 赤い髪の男がほのお使いのポッド、緑の髪の男がくさ使いのデント、青い髪の男がみず使いのコーンというらしい。わかりやすくて結構。で、どうしてジムリーダーが三人もいるわけだ? と、オレが問う前にオーバが勢いよく手を挙げた。

「ここのジムリーダーは三人なのか? どうやって戦うんだ?」
「あのですね、ぼくたちはですね、どうして三人いるかと言いますと……」
「もう! おれが説明するっ! おれたち三人はっ! 相手が最初に選んだポケモンのタイプにあわせて誰が戦うか決めるんだっ!」
「そうなんだよね。というわけで、あなたたちが最初に選んだポケモンは?」
「えっと、私は水タイプ……でいいのかしら」
「では、くさタイプのポケモンを使うぼく、デントがお相手します。あなたは?」
「俺のパートナーはほのおタイプだぜ!」
「それでは、このコーンがお相手しましょう。それで、あなたは?」
「でんき」
「え?」
「だから、でんきタイプだ」
「…………」

 なんなんだこの空気は。オレが答えた途端にジムリーダーの三人は額を寄せ合いこそこそと話し合いを始めてしまった。「でんきタイプとは想定外ですね」「コーンは相手できないよな」「相性的にはぼくが戦うのが一番いい……」「えぇー!? そしたらおれが戦えなくなる!」
 どうもあのポッドというほのお使いからは嫌なにおいがする。いや、実際の香りがどうこうではなく、なんとなくオーバと同じにおいがするのだ。こう、変なところで空気が読めないというかなんというか。

「はいはいはーい! こういうのはどうだ!?」

 こんな風に突拍子もなく叫び出すところとか、もはや同じにおいしかしない。キャラが被ってるぞおまえら。

「ジムリーダーは三人、チャレンジャーも三人、ってことでトリプルバトルしようぜ!」
「えっ!?」
「いいだろ! イッシュ地方といえば、トリプルバトルの発案地だろ?」

 いやいや、できるわけがないだろう。ジムリーダーとは、チャレンジャーと一対一で向かい合い、その実力をはかることが仕事だ。ホウエン地方にはタッグバトル専門のジムがあるらしいが、それがあのジム本来のスタンスだし、そもそもあそこのジムリーダーは双子だ。タッグバトルが最も戦いやすいスタイルなのだろう。
 そことは違い、このジムは本来、チャレンジャーのパートナーポケモンのタイプ相性から戦うジムリーダーが決まるらしいじゃないか。今までそうやって来たというのに、いきなり例外が認められるわけ「いいねぇ! それ乗ったぜ!!」は?

「いいじゃんいいじゃん! トリプルバトルってのも楽しそうだな! 俺様も戦えるしその方法で行こうぜ!」
「っしゃ! ポッドだっけ? おまえ物わかりいいなー! 気に入った! 気が合うな俺たち!」

 なにやら空気が読めなくて暑苦しい赤二人が意気投合したようである。もう知らん。戦えるならどうでもいい。勝手にしてくれ。

「やれやれ。ポッドも困ったものですね。どうします? あなたたちはよろしいのですか?」
「オレは戦えれば何でもいい」
「私も、少しトリプルバトルっていうのをやってみたいなって」
「そっちはいいのか? いきなりジムのスタイルを変えることになるぞ?」
「うーん。よくわからないけど、大丈夫だと思いますよ。トリプルバトルのほうがぼくたちも得意だしね」
「そうなの?」
「三つ子だからね。ぼくたち」

 やっぱりか。しかし、こうも似ているようで似ていない三つ子もいるもんなんだなと、頭の片隅で思いつつバトル位置に着く。
 バトルは三対三の一発勝負らしい。つまり、一人が使用するポケモンは一体だ。どちらかが全滅したら負け。オレたちが勝てば三人全員にジムバッジがもらえるらしい。
 さて、どのポケモンを出そうか。と、いつもだったら悩むところだが、オレは今回、イッシュ地方のジムを巡るに当たって一つだけ自分自身で決めたことがある。それは、シンオウ地方から連れてきたポケモンは一体しか使わないということだ。
 ジムリーダーとしての公式ジム戦外のバトルでチャレンジャーとして戦う場合、こちらの手持ちにはレベルの制限がない。いつもだったらシンオウ地方最後のジムとして挑んでくるトレーナーが多いため、チャレンジャーのジムバッジの数に合わせてレベルを制限して戦っているが、それがないのだ。
 だから、普段のメンバーでイッシュ地方のジムを巡れば簡単に攻略できてしまう。このジムのジムリーダーだって、恐らくイッシュ地方のジムバッジゼロという、オレたちのレベルに合わせられたポケモンを使ってくるだろう。そんなジム、オレのフルメンバーで挑めばなんてことない。しかし、それではわざわざチャレンジャーとしてここまで来た意味がない。
 だから、イッシュ地方でのバトルに使うオレの手持ちはこいつ一体だけ。いわゆる縛りプレイである。これからは、イッシュ地方で仲間にしたポケモンを鍛えて、新しくパーティを組み、イッシュリーグを目指すのだ。
 オーバとは違って空気が読めるオレは、シンオウ地方から連れてきたの一体をこいつと決めていた。レインも同じだろう。レインが握っている、普段は使われていない綺麗なモンスターボールには、あのポケモンが入っているはず。

「いけっ! バオップ!」
「ヤナップ、出番だよ」
「いきなさい、ヒヤップ」

 三つ子のジムリーダーはそれぞれが得意とする分野のポケモンを繰り出してきた。初めて見るポケモンだったが、わかりやすい外見のおかげでどのポケモンが何のタイプなのかは一目瞭然。トリプルバトルのルールはよく知らないが、用は相手を倒せばいいだけのことだ。

「さぁて! イッシュ地方での初バトル! 一勝決めるぜ!」
「ああ」
「頑張りましょう」
「ブースター!」
「サンダース!」
「シャワーズ!」

 三人で顔を見合わせてニッと笑う。やはり考えていたことは同じだったようだ。
 さあ。このバトル、勝たせてもらおうか。



2011.02.27
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