vs竜の心を知る娘&スパルタンメイヤー




 一時間以上に渡った激闘の末に、倒れたのはニ体のオノノクス。ソウリュウジムの頂点である二人のジムリーダー――シャガさんとアイリスちゃんとのジム戦は異例のダブルバトルだった。
 二人のドラゴン使いを相手に、決して相性がいいとは言えないでんきタイプとみずタイプのポケモンで、私とデンジ君は戦った。それでも、審判がバトル終了を告げた今、バトルフィールドに立っているのはシビルドンとブルンゲルだ。

「レイン!」
「デンジ、君」
「オレたちの勝ちだ!」

 ジム戦に勝利した実感が沸かなくて、ぼーっとしているところに、背中を叩かれて、緊迫していた空気から意識が解き放たれた気がした。気付くと、まるで向日葵のように眩しい笑顔を浮かべたアイリスちゃんが、私たちにジムバッジを差し出していた。

「おにーちゃん! おねーちゃん! おめでとう! アイリス、こんなにつよいトレーナーさんとたたかえてすっごくうれしー。はい! レジェンドバッジだよ!」
「ああ。ありがとうな」
「ありがとう。アイリスちゃん」
「アイリスねー! とってもつよかったおねーちゃんたちのこと、ぜったいにわすれないよ! だからね、またポケモンバトルしようね! やくそくだよ!」

 アイリスちゃんが小さな小指を差し出してきたので、自分の小指をそれに絡めた。デンジ君とも同じように指切りをすると、アイリスちゃんは「シャガおじいちゃんのポケモンもアイリスのポケモンといっしょにかいふくさせてくるね!」と言って、シャガさんからモンスターボールを預かり、ジムの下層へ降りて行った。
 「すごいな」と、デンジ君が呟いた。

「あの子。今こそ年相応という感じだが、バトル中の気迫といったら凄まじかった。また十もいっていないような年齢で、相手を圧倒させる術を知っている。正直、最後の最後まで緊張しっぱなしだった」
「ええ……デンジ君と一緒だったから何とか勝てたけれど、私一人だったらわからない。本当に強かったわ。アイリスちゃん」
「そうだ。アイリスは強い。元は他地方にある竜の里の一族の子だったが、わたしがここに連れてきた。さらに強いトレーナーとして育てるために、な」
「なんだ。血は繋がってないのか。どうりで似てないと」
「でも、本当の家族みたいにお二人は仲が良いんですね」

 私がそう言うと、シャガさんは微かに表情を綻ばせた。

「ああ。アイリスはわたしを慕い、訓練にもよくついてきてくれる……もっとも、今やバトルの実力はアイリスのほうが上かもしれんが、若い世代が育ってくれることは本当に喜ばしいことだ。あの子は必ず、イッシュ地方を担うトレーナーに成長するだろう」
「そうですね……さっき約束した通り、またアイリスちゃんと戦いたいです。今度はジム戦以外で。本気のアイリスちゃんを見てみたい」
「……さて。ということで、何はともあれ、これでイッシュ地方のジムバッジが、八つ全て揃ったわけだ」
「そう……ね。そうだわ。これでイッシュ地方のジムを全部制覇したのね、私たち」
「次はいよいよイッシュリーグだぜ!」
「あ、そのことだが」
「行くぞ!」
「ええ! シャガさん、今日はありがとうございました! 失礼します!」
「あ」

 このときの私たちは、イッシュリーグに挑戦できるということしか頭になくて、シャガさんが何を言いかけたのかなんて気にしていなかった。その真意は、四天王を倒した後に知ることとなるのだった。



2012.08.16
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