vsナチュラルボーンママ




「みずタイプのポケモンが好きなのかい?」

 声が降ってきたので顔を上げる。アロエさんは私の正面に立ち、私が読んでいる本を覗き込んでいる。『イッシュ地方に住むポケモンの生態』というこの本の中で、私はみずポケモンに関するページを食い入るように読んでいた。
 こくり、と首を縦に振る。

「はい」
「理由を聞いてもいいかい?」
「理由は……私のパートナーであるシャワーズが初めて進化した姿だから。……本当は私、みずポケモンが苦手だったんです。でも、イーブイがシャワーズに進化したことをきっかけに、私はみずポケモンのこの子たちと強くなりたいって、思ったんです」
「いいね。その気持ち、忘れちゃいけないよ。初心を振り返ることはとても大切なことだからね。何かに対して頑張っていると、どうしてそんなに頑張っているのか、わからなくなって途方に暮れるときがある。そういうときは、立ち止まって、深呼吸して、ゆっくり振り向いて、今まで自分が歩いてきた道と、スタート地点を思い返すんだ。それはきっと、レインが頑張るための力になる」
「……はい」

 アロエさんとお話ししていると、シンオウ地方にいる母さんを思い出してなんだか懐かしくなる。母さんも、いつもさりげなく私の背を押してくれたな。ポケモンセンターに戻ったら電話してみよう。久しぶりに、声が聞きたい。
 ――パタン。本をそっと閉じて、それを本棚にしまい、改めてアロエさんと向き合う。

「さて、レイン。いや、シッポウシティジムのチャレンジャー。クイズは解けたかい?」
「はい。バトルフィールドに続く扉を開ける答えは……」

 私がクイズの答えを口にすると、このシッポウ博物館の館長であり、シッポウシティポケモンジムリーダーであるアロエさんは、好戦的な笑みを浮かべて脱いだエプロンを肩に掛けた。



2012.07.09
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