Legends

 生れたときから、私の傍には眩しい二つの光があった。その光は時に優しく、時に厳しく、時に導くように、私のことを照らしていた。
 けれど。あまりにも強く、あまりにも眩しすぎる光は、時に私の足元に濃い影を落とした。私では二人を超えるどころか、追いつくことだってできない。そのくらい近くて、遠い存在。
 その光はいつ、どんなときも、私の傍を離れなかった。

 例えば、スクールでいい点数を取ったとき。ポケモンバトルでスクールの誰よりも強くなったとき。先生や友達は私のことを口々に褒めてくれたけれど、最後にはこう言った。「さすがデンジさんとレインさんの娘ね」と。
 パパとママのことを恨んだことはない。むしろ、二人の間に生まれたことは私にとって、生を受けて初めての幸福だと思えるくらい、素晴らしいことだと思っている。その気持ちはずっと変わらない。
 でも、眩しすぎる光は、こうして私の足を竦ませる。

 友達が次々にポケモンジムへの挑戦を始めるようになっても、私はその流れに乗らなかった。ポケモンジムへ挑戦するということは、パパとママに挑戦するということを意味する。幼いころから二人の背中を見てきた私は「もう少し強くなってから」「今のままではまだ勝てないから」と言い訳を重ねて、ジムトレーナーとして修業をさせてもらっているキッサキジムに籠り、大好きなスケートをしながらポケモンバトルの腕を磨き続けた。スケートをしているときだけは、私の周りにパパとママという光はなくなるから。
 大好きな二人に追いつきたい。でも、強すぎる光のほうへ一歩踏み出すことが怖い。

 そんな葛藤を抱えていたとき、私はライトと一緒に、ディアルガとパルキアの力によって「もう一つのシンオウ地方」へと渡った。

 はじめは、本当はこわかった。周りにいるのは知っている人たちに似た知らない人ばかり。知っているところに似た知らない場所で、どうやって生きて行ったらいいのか。元の世界に帰る方法は見付かるのか。不安で仕方なくて、泣いてしまいそうだった。
 でも、春の陽ざしを浴びた雪が溶けるように、不安はすぐになくなってしまった。未知の世界へ一歩踏み出してしまえば、不安は好奇心へと変わり、私の世界は一気に広がった。
 知らない景色を見たこと。知らない場所を冒険したこと。知らないポケモンと巡り会えたこと。そして、この世界でデンジさんとレインさんに出会えたことは私の糧として、私の中に降り積もっていった。
 だから、もう迷わない。勇気を出して一歩踏み出せば、可能性はどこまでも広がっていることを知ったから。

 ――ひとひらの勇気を抱きしめて、この世界に残っている最後の未練に、挑む。

「よし! このバトルで六連勝だ!」
「やったね、ライト! 次はいよいよ特別なトレーナーと戦えるね!」

 私とライトは再びバトルタワーを訪れていた。挑戦しているのは、前回よりも一ランク上のマスターランクのタッグバトルだ。マスターランクは初戦から一筋縄ではいかないトレーナーが立ちはだかり、私たちの行く手を阻んだ。それでも、姉と弟。こおりとでんき。私とライトならではの連携と、ポケモンたちの力で、なんとか連勝を叶えた。
 次は七戦目。特別なトレーナーと戦うことができる階へと進む。この扉の向こうには、私たちが想像している通りの対戦相手がいるはずだ。

「姉さん」
「うん。ライト、行こう」

 二人は私たちを見て、どう思うのだろう。

「! 貴方たちは……!」

 きっと、すごく驚いて。

「まさかこんなところまで辿り着くとは、な」

 でも、嬉しそうに笑って。

「だが、相手がリッカとライトだろうと手加減はしない。行くぞ、レイン!」
「ええ! デンジ君!」

 バトルタワー、マスタークラス。七戦目の対戦相手――デンジさんとレインさんは、闘志という火花を瞳の中に散らせ、私たちの前に立ちはだかる。
 バトルの開始を告げる合図が響く前から、私は一つのモンスターボールを手に取っていた。デンジさんとレインさんに挑むと決めたときから、最初の一手はこのポケモンを繰り出すと決めていた。最初から全力で、でも意外性のある一手を繰り出して、二人を驚かせたかったのだ。

「力を貸して、フリーザー!」
「一緒に戦おう、ライコウ!」

 ハマナスパークで縁を結んだ伝説を相手に、デンジさんとレインさんは目を見開いた後――笑った。

「こちらも全力で行かせてもらおう。さあ、スパークしようぜ! サンダー!」
「水の調べを奏でましょう、スイクン!」

 雷鳥と氷鳥。そして水の君と雷の皇。ポケモンたちの能力には互角。あとは、トレーナーがどれだけ力を引き出してあげられるか。

 ――さあ、勇気をもって、踏み出して。

『バトル、スタート!』

 勝つことができたとしても、万が一負けたとしても。私たちが踏み出した勇気は無駄にならない。この戦いが終わったとき、きっと、私たちの中で何かが変わっている。そんな予感を感じて、やまないのだ。



2022.11.12