スターライト・レイン



 星が降る。キラキラ、キラキラと降り注ぐ。

「あ〜?」
「お星さま。きれいね、リッカ」

 リッカは柔らかく小さな手を伸ばして星に触れようとする。まだ距離感を掴むことに慣れていない手は何度か空を掴むけど、1本の指が星に触れるとそれは弾けて星屑になり、リッカのセレストブルーの瞳を綾なす。

「デンジ、なんか今日はやたらとメルヘンチックな技ばかり使わねぇ?このスピードスターもそうだし、さっき使ってた甘えるなんて普段は絶対使わねぇし」
「ふふっ。そうよね。きっと今日が特別なんだわ。リッカがお仕事を見に来たから」
「ああ!なるほどな!普段使わない技を流れるように出せるあたり、サンダースも流石だな」

 私達以外は誰もいない観戦席にオーバ君の声が響くと、バトルフィールドでサンダースに指示を出しているデンジ君は一瞬だけこちらを見て、また目の前に意識を戻した。
 なんだか不思議な気分だった。4年ほど前、私がまだポケモントレーナーになったばかりだった頃、ナギサシティを旅立つ前にこうしてデンジ君のバトルを見ていた。隣に幼馴染のオーバ君と彼のブースターがいることは変わりないけど、足元にいるかつてはイーブイだったこの子はシャワーズに進化した。そして、デンジ君との関係は幼馴染から恋人へ、恋人から婚約者へ、そして夫婦という間柄になった。さらには、私の腕の中には愛する人との間に授かった宝物が……リッカがいる。
 人生にはいくつもの分岐があって私達はそれを選びながら進んでいく。選んできた答えの末、今この時に辿り着いたのだとしたら、私は私自身の選択に胸を張りたい。そして、私の人生に関わってくれる全ての人に感謝を示したい。こんなに幸せな時間があるなんて、きっと、あのときの私には想像もできなかったから。

「ああ?あ〜っ!」
「ふふっ。リッカ。パパはね、お仕事中なのよ。サンダースに指示を出して技の練習をしているの」
「おっ!またスピードスターが来るぞ!な、リッカちょっとこっち来いよ!」
「どうぞ」
「あ〜?」

 オーバ君はリッカを抱き上げて肩に乗せる。目の前に現れたフカフカの赤にリッカは目を輝かせてオーバ君の髪を引っ張ろうとしたけれど、意識はすぐにそれた。サンダースが放ったスピードスターが観戦席まで届き、頭上で散って星屑になる。それにリッカは手を伸ばし、顔をクシャクシャにして嬉しそうに笑うのだ。

「当たり前のようにポケモンたちがいてくれるこの景色を、リッカはどう見ているのかしら」

 その無垢な眼に映っている今の景色は、幼すぎるリッカの想い出として彼女の中に残ることはない。それでも、ポケモンと触れ合うこの時間はリッカをトレーナーへと導く手助けになる。当たり前のようにそこにいてくれる大切な友のような、家族のような、恋人のような存在。ポケモン。きっとリッカもいずれ、彼女だけのパートナーと一緒に物語を紡いでいくのだ。

「どわっ!?」

 オーバ君が悲鳴を上げたのとバトルフィールドに雷鳴が轟いたのは同時だった。サンダースが落とした雷はバトルフィールドを穿ち無残にも破片が散らばっている。焦げ臭い煙の臭いが漂ってくる。

「オーバ。おまえ、誰の許可を得てリッカを抱いてるんだ」
「抱くくらいいいだろ!?つか、いきなり雷なんて落とすなよ!?リッカ泣くぞ!?」

 オーバ君はリッカを降ろして顔を覗き込む。大きな音にビックリして泣いていると思ったかしら?それとも、怖くて固まっていると思ったかしら?
 たぶん、オーバ君が想像しているようにはならない。

「ああぁぁーーーっ!!!」

 思った通り。リッカは興奮して声を上げ、目を輝かせ、バトルフィールドに向かって身を乗りだそうとしているのだ。

「へっ?」
「ふふっ。すごい声ね、リッカ」
「さすがオレの娘だ。雷くらいなんだっていうんだ。将来は立派なでんき使いになるぞ」
「親バカかよ!いや、でもほんとにリッカ!お前は大物になるぞー!強くなって俺のところに挑みに来い!」
「リッカとバトルするのはオレが先だ」
「デンジ君もオーバ君も気が早いんだから」
「ああーー!!」

 まるでリッカ自身がポケモンに指示を出そうとしているように、高らかに叫ぶ。リッカがでんき使いになるのか、みず使いになるのか、そもそもトレーナーになるのかもわからない。ポケモンと生きる道はたくさん存在する。それでもきっと、あともう4年も経ったら、リッカの隣に彼女だけのパートナーがいることはきっと間違いないのでしょう。





2020.12.07


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