真っ白なあなたに祝福を



「そろそろ、三歳のお誕生日プレゼントを考えておかなきゃね」

昼食を食べ終えて、ふぅと一息ついていたときのことだった。食べ終えたばかりだというのにすぐさまポケモン達と遊び出したリッカを眺めながら、レインはそう呟いた。リッカは寝転がったエレキブルの上に乗り、キャッキャとはしゃいでいる。
リッカの誕生日まであと一ヶ月少しといったところ。オレとレインにとって、記念日といえば結婚記念日とお互いの誕生日くらいなものだった。そこに加わった、新しい記念日。今年も大切に祝ってやりたいし、リッカにとっても楽しい一日になるようにしてやりたい。

「そうだよな。モノによっては取り寄せたりしないといけないかもしれないし。何が欲しいとか、年齢的にもう色々と分かってると思うし、本人に聞いてみるか」
「そうね。あまり早く聞きすぎて、当日間際になって別のものを言われないといいけれど……」

それは確かに困るな、と苦笑を漏らし、レントラーを手招く。エレキブルの上に乗っていたリッカが、今度はレントラーの背に跨がり、あっちへ行けこっちへ行けと誘導していたからだ。それは良いとして、たてがみは引っ張らないでやって欲しい。

「ねぇ、リッカ」
「なぁに?」
「もうすぐ三歳のお誕生日。お姉ちゃんになるでしょう?何か欲しいものはある?」
「イチゴ!」

思わず、吹き出した。我が娘ながら、可愛すぎる。
最近は普通に喋れるようになってきたり、トイレも成功するようになってきたりして、すっかり子供だなとしみじみしていたのだが、欲しいものを聞いて真っ先に食べ物が思い浮かぶ当たり、まだまだ本能に忠実な赤んぼう部分が抜けきれていないらしい。ああ、可愛い。

「ふふっ。じゃあ、イチゴのケーキを用意するわね」
「うん!」
「それとは別に、何か欲しいおもちゃとかないのか?誕生日なんだからなんでも買ってあげるぞー」

脇に手を差し込み、抱き上げる。リッカはキャーッと身じろぎながら、オレのあぐらの中でゴロゴロ転がり回った。そんなオレ達を、レインは宝物を見守るような眼差しで見ている。

いつだったか、レインが話してくれた。リッカを産んで一番幸せだと感じるのは、オレとリッカが仲良く笑っているところを見ることだ、と。
なんとなく、オレにも分かる気がした。レインとリッカが寄り添って眠っていたり、絵本を読んでいるところを見ると、これ以上ない愛しさが込み上げてくる。きっと、それが幸せなのだ。

オレの膝でゴロゴロしていたリッカは突然、閃いた!というように目を輝かせた。

「あのね、リッカね、リッカのポケモンがほしい!」
「え?」
「ポケモン?」
「だってね、ほいくえんのおともだちはね、もうじぶんのポケモンがいるのよ」

それはオレにとって、そして恐らくレインにとっても、予想していなかった答えだった。
オレの膝から抜け出し、リッカはまたポケモン達の輪の中に飛び込んでいった。次の標的にされたのはライチュウで、最近太り気味の腹をつつかれてケラケラと笑われている。

「初めてのポケモン、か……まさかそう来るとは」
「ね。一歳の時はおもちゃのピアノ、二歳の時はおままごとセットだったから、今年もおもちゃのつもりでいたわ」
「ああ……でも、そうだな。トレーナーになるのはまだにしても、自分だけの特別な存在がいるのもいいのかもな」
「となると、誰がいいかしら……」

親心というものはとても単純で、子には自分と同じ趣味を持って欲しいと思ってしまうものだ。オレは電気使い。そして、レインは水使い。そこから導き出されるポケモンといえば。

「「ランターン」」

目を合わせて、笑い合う。やっぱり、考えていることは一緒だったようだ。

「私達にとって一番身近な水、電気タイプのポケモンといったら、やっぱりランターンよね」
「ああ。となると、進化前のチョンチーを一緒にゲットしに行くか……それとも」

ふと、もう一匹、別のポケモンの姿が脳裏に浮かんだ。
何にも染まっていないまっさらなポケモン。たくさんの可能性を秘めたポケモン。それは、オレがリッカの将来に願う姿、そのものかもしれない。

「イーブイ、かな」
「イーブイ……」
「イーブイはいろんな進化の可能性があるからな。リッカ自身、どんなトレーナーになるかは分からないけど、親が電気使いだからとか、水使いだからとか、ジムリーダーだからとか、そういうことに縛られず、好きな道を選んでくれたらいい……そう思ったんだ」
「デンジ君……そうね。そういう考え、とっても素敵。イーブイだったらおうちの中でいつも一緒にいられるしね」

イーブイは現在、分かっている範囲でも八種類の進化の可能性を秘めている。これから、もっとその可能性は増えるかもしれない。見えない可能性がたくさん秘められているポケモンなのだ。
そんなイーブイのように、リッカの前にも道はいくつも広がっている。自分の可能性を自分自身の手で見つけ、自分の好きな道を目指して欲しい。
我ながら、父親らしくなったと思う。少し照れ臭い。でも、本当に、リッカにはそんな風に生きてほしい。

「あら。シャワーズとサンダース、そこにいたのね。どうしたの?」

別室にいたサンダースとシャワーズがリビングにやって来た。ここ数日、シャワーズの調子があまりよくなかったらしく、サンダースが付き添って安静にしていたのだが、もう治ったのだろうか。

「え!?本当に!?」
「どうした?何て言ってるんだ?」

二匹は何やら嬉しそうに、レインに報告しているようだった。二匹の表情はもちろん、それを聞いたレインの表情からも、それが良いことだと伺える。

「シャワーズが卵を持っていたんですって!」
「本当か!?」
「ええ。それに、サンダースとシャワーズも、同じことを思っていたみたい。いつかまた自分達のところに卵が来たら、今度はリッカにパートナーになってあげてほしい……って」

オレとレインの子であるリッカのパートナーに、オレとレインのポケモンであるサンダースとシャワーズの間に産まれた卵を、なんて。運命のような話だ。でも、きっとこの巡り合わせも必然なのだろう。

「なぁにー?どうしたのー?」
「何でもないわ」
「誕生日プレゼント、楽しみにしておいてくれって話だ」
「うん!リッカ、たのしみ!」

小さな愛しい命同士が巡り合う瞬間を、そこに生まれる絆を、早くこの目で見てみたい。そして、彼女達にとっての未来が、いくつもの可能性に満ちた輝かしいものであることを願っている。





title:誰そ彼

2019.12.12


PREV INDEX NEXT

- ナノ -