劣情に溺れる


『今すぐに会いたい』

ユゥイさんから連絡があり、ワタシの部屋でキスを交わすまでそう時間はかからなかった。

キスにも相性ってあると思う。唇の形とか、厚みとか。それが、ワタシ達は良いほうだと思う。今まで関係を持ったどんな人のキスより、ユゥイさんとのキスは心地良い。彼もそう思っているのかは分からないケド、彼とキスをするときはたいてい長期戦になる。
腰に回されていた腕の片方が上へと移動していき、ワタシの髪を撫でる。ヘタな愛撫よりも、髪を撫でられるほうがワタシは好き。ユゥイさんがヘタと言っているワケではない、むしろ彼はウマイ……というか、悔しいケド、やっぱりこれも相性の問題なのか、ユゥイさんに触れられると体の奥がジンと疼いてしまう。
そもそも、髪は女の性感帯の一つでもあるらしい。ゆっくりと髪を梳かれていくと、どうしようもなく満たされた気持ちになる。そんなコト、本人には言ってあげないケド。

「イリスさん……」
「今日は、急でしたネ」
「本当、突然会いたくなって。そう思ったら、いてもたってもいられなくって、電話しちゃったよ」
「ふふっ。彼氏が、彼女に、言うようなセリフ、ですね」
「ボクはいつもイリスさんのことを本当の恋人にしたいって思っているよ?」
「そう」
「そっけないなぁ。これでも必死なのに」
「そうは見えませんケド」
「本当だよ。余裕なんてこれっぽちもない」

苦笑と共にユゥイさんの唇が歪む。そこに、今度はワタシからキスをした。彼の首に腕を回して、爪先立って、引き寄せて。
彼と恋人同士になるつもりはない。でも、彼の傍は心地いい。だから、会いたい時に会って、触れ合う。そんな関係がちょうど良い。
彼の気持ちを弄んでいると思われるかもしれないケド、この関係は彼から提案してきたコト。恋人と言えなくても良いから、傍に、と。
だから、もう恋愛で傷つきたくないワタシは彼の提案に甘えているだけ。単にワタシが臆病なだけ。知っている。承知の上で、ワタシ達は偽りの愛を確かめあう。

「それなら、アナタのワタシに対する愛、見せてくださいね」
「良いよ」

耳から低い、欲情しきった声が体の中に染み入ってくる。熱っぽい目を向けられると、心の奥に眠っていた劣情が疼く。あとはワタシもただの女になるだけ。本能のままに彼を求めるだけ。
今までいろんな人と関係を持ってきたけれど、今まで感じたことのなかった劣情を目覚めさせたのは、他の誰でもない、アナタ。





END

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