ある月の学園新聞にて


十二月に入り本格的に冷え込みだした。窓の外にはちらほらと雪が降っている。室内との気温差で窓は曇り隅には結露を作っている。
教室ほど空調が効いていない廊下を急ぎ足で歩き、次の教室へと向かっていたさくらとひまわりは掲示板前で立ち止まった。そこにたくさんの人だかりが出来ていたのだ。

「みんな何を見ているのかな」
「あ、あれじゃない?さくらちゃん。月に一回出る学内新聞。確か、今日が発行日だもん」
「あ!そうかも!」
「あとから配られるだろうけど、見たいよね?」
「うん。次は授業だけど、ちょっとだけいいよね」

人だかりの前にいる人たちと入れ替わるようにさくらとひまわりは前に進んだ。
堀鐔学園新聞とは新聞部が発行する月刊新聞だ。主に記事となる出来事は、最近の行事のことだったり、活躍した部活動のことだったり、誕生月の教師へのアンケートだったり、様々だ。侑子先生から「面白いことは何でも記事にしていい」との許可を得ている新聞部は、写真部などと協力して常に特ダネを探しているという。
新聞の内容は一般的な学校新聞の内容から、芸能界のスクープ並みの記事までと幅が広い。数か月前は黒鋼先生の部屋に突撃取材をした新聞部により、その部屋の全貌が明らかにされた。会話が学内放送で流される堀鐔学園にプライベートも何もない。
このように、学園内の有名な生徒や教師の記事が掲載されることも少なくはなく、他学の生徒からも評判が良いという。

「あ。サッカー部のことも載っているね。小狼君もいる」
「うん」
「かっこいいね」
「う、うん……あ。今月が誕生日の先生に質問するコーナー、レン先生とイリス先生が特集されてる」

新聞の一面には揃いの服を着たレンとイリスの写真が掲載されている。服やポーズが似ており双子を意識した衣装で撮られているが、そのポーズや表情でそれぞれの性格や個性が彼女たちを知らない者でもわかるような写真だった。その写真の下には『先生達に一問一答』というコーナーが設けられており、その名の通り質問に対する二人の答えが会話形式に書かれていた。
『Q.特技は?』「L:歌を歌うこと」「I:外国語を話すコト」といったメジャーな質問や、『Q.自分が生徒になって受けてみたい先生の授業は?』「L:ユゥイ先生の調理実習!プロにお料理を習える機会なんてそうないし」「I:侑子先生の古典。日本の文化を、学ぶのがスキだし、授業で博物館なんかにも、行っているみたいで、楽しそう」といった教師ならではの質問や、『Q.プライベートでも仲の良い先生は?恋人を除く』「L:恋人を除くって条件付けられているあたり、色々ばれてるよね」「I:バレるでしょ」「L:えーっとね、一番仲が良いのはやっぱり社会科のルナ先生かな!この前は一緒にお茶しに行ったし、その前はお買い物に行ったし。クリスマスパーティーに着ていくドレスを一緒に選びに行ったのー。それから」「I:ノロケはいいわ」「L:もっと聞いてよー」「I:ファイ先生との話はしないくせに……ワタシは、美術のありす先生。絵をいただいたコトもあるの。休みの日に、お互いの家に遊びに行って、お料理を作ってくれたり、メイクの研究をしたり……」「L:いいなー!私も呼んでよ!」「I:イヤ。ワタシとありすの時間を、ジャマしないで」……など、プライベートな質問まで盛りだくさんだった。

「ふふっ。レン先生とイリス先生、仲良いね」
「ね。あ、さくらちゃん、見て。この質問」
「『Q.一番仲が良い生徒は?』」

そういう質問もあるのだと思いながら、さくらは目で記事の内容を追った。レンの場合は一人に絞りきれないらしく、交流のある生徒の名前を次々と挙げていきインタビューアーからストップをかけられていた。
しかし、イリスはどうだろうか。さくらから見ても、イリスは公私を混合しないタイプだとわかっていた。特別に仲の良い生徒はいないのではないかと思いつつ、その先を読む。
すると、予想外にそこには一人だけ名前が挙げられていた。ひまわりも同じところを読んでいたようで、微かに口元を緩めた。

「ねえ、イリス先生の答え」
「うん。そういえばそうかも……あ、ちょうどいいところに!」

さくらは、廊下を歩いてきたある女子生徒を手招いた。その女子生徒は首を傾げながら二人のもとに歩いていく。そして、言われるがままにその記事を読むと女子生徒……葵は微かに目を見開いた。
「I:三条葵さん。中庭で、一緒にネコと遊ぶ時間が、スキ」さくらとひまわりは顔を合わせてにっこり笑った。葵の頬は微かにピンクに染まり、唇が緩く弧を描いていた。





END

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