新しい光の中で


新しい年になって、初めての勝負事といっても良いくらい、隣の彼女は真剣だった。
お参りよりも早く、くじ引きを引きにきた彼女。オレは早々と9の番号が付いた棒を引き、真剣にくじを選ぶ彼女の横顔を凝視する。
ふわりとまとめ上げられた髪が、彼女の洗練した横顔を美しく見せる。抜けるように済んだ項を他の男に見せたくなくて、レースのストールじゃなく真っ白なファーを勧めた。けどやっぱり、今年はストールが流行なのと彼女はストールを選んだのだけど。
淡い色合いの高級感のある着物は、煌びやかな帯で締められている。帯飾りは、彼女が動く度に儚く揺れる。
ああ、この人は本当は妖精か天使じゃないかと思うほど、彼女は美しかった。

「よーしっ!これっ!」

……と、オレの脳内ビジョンの妄想は、張り上げられた彼女の声に遮断された。
うん、たまに男前の声を出すんだよねー。てか、オレが尻に敷かれる事が多いほど、たくましい時もあるんだけどねー。
まあ、そんなところも結局大好きなんだけど、っていう惚気。

「あ。やったー。大吉だ」
「……」
「レンレンはー?」
「……」

棒と引き替えに、巫女さんからもらった紙を、彼女は無言でオレに見せた。
うん、表情から何となく見当が付いてたけど『大凶』っていう文字がありありと書かれている。大凶って本当にあるんだね、黒様から滅多に出ないって聞いてたんだけどな。ある意味、凄い。

「貸してー。結んであげるから」
「……思いっきり高いところにお願い」
「了解ー」

とりあえず、オレが届く限りの一番高い枝に結ぼうとした、ら。「背伸びしたらもう一つ上に届くよ」と、容赦のないことを言われたので、背伸びをしてわき腹をつらせそうになりながら、二人分のおみくじを結んだ。

「そんなに気にする事ないってー」
「でも、新年早々縁起悪い……」
「大丈夫だよー」
「……自分が大吉だからって」
「だから、今年もずっと一緒にいたら、合わせて小吉くらいにはなるんじゃない?」

言葉と共に、レースの手袋で包まれた手を握る。きょとん、と目が見開かれた後、嬉しそうに細められた。
可愛い、抱き締めたい。でも、抱き締めたりしたら「こんな人前で!」って、怒られるんだろうなぁ。頭を撫でよう……にも、せっかく綺麗にセットしてあるんだから、ダメだよねぇ。
仕方ないから、握る手の力を強めるだけにしておいた。

「初日の出までまだあるねぇ」
「お参りしなきゃ」

オレ達はようやく初詣の一番の目的である拝殿に向かった。けど、参道はこれでもかと言うほど人で溢れ返っていた。
はぐれないように、彼女が埋もれてしまわないように、肩を抱いて傍に寄せる。「寒いね」と言って、手元を息で暖める彼女。いや、この仕草はヤバいでしょ、可愛すぎでしょ。
真白い頬がピンクに染まって、その頬に長い睫毛の影が落ちてる。もう片手も彼女に回してぎゅうってしたくなったけど、ちょうど良く順番が回ってきた。

5円玉を賽銭箱に投げ入れて、手を合わせて、目を閉じて、しばし黙祷。

「……」
「……」
「……よし」
「……」
「長いねぇ、レンレン」
「真剣にお願いすれば、神様もきっと聞いてくれる……よしっ」

満足そうに笑う彼女の手を引いて、人で溢れ返る参道を抜け出した。

最後は日の出だ。黒様からあらかじめ聞いておいた、人が少ない穴場スポットに移動する。
カラカラ、カラカラ、彼女が履いてる草履が、石畳と心地よい音を奏でる。着物で、履き慣れない下駄で、ちょこちょこ歩く彼女。やっぱり、可愛い。オレの頬は弛みっぱなしなんだろうな。

「ねっ。何をお願いしたの?」
「今年も幸せに過ごせますように、ってー。レンレンはー?」
「えっと。教師として成長しますように、健康でいられますように、お金が貯まりますように、みんな幸せでいられますように……」
「あはは。多すぎだよー。だから長かったんだぁ」
「まだあるよ?」
「何ー?」
「今年もファイと一緒にいられますように、って」

悪戯っぽく、そしてはにかんだように、笑いながら彼女は駆けだした。
手すりの遠く向こう、山の間から光が見える。前方から、彼女の歓声が聞こえた。
まるで、たった今、世界が生まれたような光景だ。

ああ、そんなに一生懸命に願ってくれてたんだ。願うまでもないよ。頼まれたって、離れてやらないから。
帯が邪魔で、後ろからは無理だったけど。隣に並んで、彼女を抱き締める。周りに誰もいないからか、彼女は嫌がったりしなかった。

「今年もよろしくね、レンレン」
「うん。よろしく」

朝の光が二人を包む。また新しい年が始まった。こうして、何年も何年も二人で年を重ねられたらと、曙光に願った。





──END──

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