2.お昼の放送にドッキドキ!


小『さ、さあ。気を取り直して……四月一日君』
四『はい。ここでもう一通メールを紹介します。事前に『今回の堀鐔学園内のゲストに来て欲しい人一位にやって欲しいこと』を募集しておきました』
ソ『募集したときは四人の先生達だってわからなかったんだよね』
龍『そうだな』
フ『わーい、なんだろー』
ユ『お手柔らかに』
レ『ドキドキする』
イ『……なんか、イヤなヨカン』
四『その内容は!』
ソ『『この漫画の役になりきって演じてください!』だー!!』

わー!と、学園の至る所で盛り上がる声が聞こえてきたが、黒鋼先生はいまいち具体的な内容を理解しきれずに首を傾げた。

黒「は?」
侑「まぁ!面白そうじゃない」
黒「漫画を演じる?」
侑「アニメーションとかに声を当てるようなものよ。ラジオだしちょうどいいじゃない」

つまりは、アフレコのようなことを行えばいいのだ。『この企画を考えてくださったのは堀鐔ネーム『美幸』さんです』というさくらの声に、侑子先生は目を輝かせ、パチンと指を鳴らした。

侑「美幸ちゃんグッジョブ!よくパン食べながら駆け込んでくるけど、このナイスアイディアに免じて遅刻二回まで見逃してあげてよ」
黒「待てこら!」

体育教師兼運動部総括顧問、及び生徒指導部主任黒鋼先生、大激怒である。

フ『おっもしろそー!』
レ『私もやりたい!……役によるけど』
さ『大丈夫ですよ。先生方、凄くいい声だし』
ユ『いや、本当にボクは無理だから……そうだ、ファイ。お願い、ね?』
ソ『ユゥイ先生は?』
ユ『本当にこういうの苦手だから。ごめんね』
フ『じゃあ、オレ、ユゥイの分まで頑張るよー」
レ『イリスは……』
イ『しない』
レ『少しくら……』
イ『やらない』
レ『どうしても……』
イ『What a pest you are!』
レ『えー』
イ『……』
フ『レンレン先生の泣き落としが通じない人がここにいたぁ』
四『ん?『貴方はなんとペストでしょう!』?』
ひ『『しつこい子ね!』って意味だよ、四月一日君』
レ『むぅー……』
フ『じゃあ、オレとレンレン先生で頑張りますー。で、どれ読めばいいの?』
ソ『えっとね!これなの!!』
ユ『……ツバサ?』
ソ『あともう一つ』
フ『ホリック。どっちも知ってるー』
四『今、ヤングマガジンと週刊少年マガジンっていう雑誌でやってる漫画です』
ユ『四月一日君も読んでるの?』
四『一応』
フ『どっちもー?』
四『?はい』
ひ『四月一日君、どっちも読んでるんだ』
四『へ?あ、う、うん。そうなんだけど』
百『表紙の水着率の高い方も読んでる、と』
ラ『中身のグラビアがさらに肌色率が高いのも勿論知っている、と』
百『いや。望むところだ、と』
四『ぎゃあああ!ち、違ぁあぁぁあ……!』
ひ『そうなんだ』
四『……っ!』
ひ『本屋さんとかコンビニで見かけると、冬とか寒そうだなぁって思うよね』
さ『そうなの?わたし、マガジンは何度か見たけど、ヤングマガジンはないの。小狼君は?』
小『いや。おれもマガジンは読んでいるんだけど、もう一つは……』
龍『おれが買ってる』

一日にしてこれほど多数にわたり学園が揺らいだのは、創立以来ではないだろうか、小龍の男らしい、いや、潔い発言に、黒鋼先生は本日3杯目の緑茶を無駄にした。

黒「ぶふーーっ!!!」
侑「言い切ったわ!」

侑子先生と同様に、堀鐔学園高等部全男子生徒が拍手を送った。下心を隠すことなくさらけ出し、だからといって彼にいやらしさは感じない。誰もが彼を崇め、ほめたたえた瞬間だった。

フ『そうなんだー』
ラ『袋とじは?』
龍『開けるだろ』
百『開けるな』
ひ『開けるんだ』
さ『袋とじって?』
小『いや、あの……え、あっ、その……』
四『違うんだ!おれはけして肌色で……!』

本日、原稿をもっとも無視した展開が、今まさに繰り広げられている。もはや誰が発言しているのかも分からないような状態の中、ただ一人、四月一日が必死に言い訳をしている声だけは聞き取れた。青春、むしろ思春期とはこう言うことか、と黒鋼先生は遠い目をした。

黒「止めろよ。この会話を」
侑「こういうのをグダグダって言うのよねー」
百『じゃあ、どっちの漫画から行きますか』

突拍子もなく、百目鬼は発言した。こうして、いささか暴走を始めていた放送室は、はっと我に返ったようだった。

侑「さすが、百目鬼君。見事な流れ遮断っぷり」

パチン、と侑子先生は指を鳴らし、次の展開を今か今かと待った。パラパラと、ページをめくって台詞を物色している気配が、スピーカーを通して伝わってくる。

フ『どっちでもいいよー』
ソ『じゃあ、モコナが決めるね……この台詞読んでー』
レ『どれどれ?』
ソ『ツバサ一巻、64ページと65ページ、68ページと119ページでーす』
フ『はーい、まずはオレからー。この子の台詞を読めばいいんだね』
ラ『おう、そうだ』
フ『行っくよー!……『貴方が次元の魔女ですか。さくらを助けてください!さくらはおれの一番大事な人だ。これからもずっと、一番大事な人だ。だから、なにがあっても何をしても、絶対に死なせない。例え、さくらがおれを忘れても!』』
さ『すごーい』
ひ『すごーい』
ソ『すごーい』
小『すごいです!』
四『むっちゃうまいじゃないですかぁ!』
レ『ほんと!びっくりした!』
フ『えっへへー。ありがとー』
ユ『ファイは学校演劇の主役も何度もやってるしね』
ひ『すごいですね。演劇部だったんですか?』
フ『ううん、違うよー』
ユ『商業演劇に出ないかって誘いもあったのに』
フ『ユゥイとの遊び時間がなくなっちゃうと思ったから断ったのー』
さ『本当にずっと仲良しなんですね、先生達』
フ『うん。でも、漫画の中の名前、さくらちゃんと同じで、ちょっとドキドキしたよー』
さ『わたしもです』
ソ『ねぇ!もう一人分読んで読んで!』
フ『うんー?誰ー?』
ソ『あのね、ここ。一巻68ページ!』
フ『………『はーはははっ!弱ぇ!弱ぇ!てめぇら!仮にも刺客だろ!?もうちょい骨のあるヤツぁいないのか!?』』
ラ『すごいな』
イ『ファイ先生……じゃない、みたい』
龍『さっきと全然声が違いますね』
フ『ははっ。なんか、それっぽいので身近な人を真似してみましたー』
『『『『『『『『『『『あー』』』』』』』』』』』

一同、むしろ、全校生徒大納得だ。ただ、ファイ先生が誰をマネたのか、理解できていない人物が約一名。侑子先生は、無言でその人物を見やった。

黒「……」
侑「……じーっ」
黒「あ?なんだ。ジッと見て」
侑「いやぁ、やっぱり自分のことは自分ではなかなか分からないものなんだなーって」
黒「え?」

そこまで言われても気付かないとは、黒鋼先生は変なところが鈍感というか、頭の回転が緩やかなのか。自覚症状がないというのも、ある意味恐ろしいことである。

ラ『レン先生はここだ!まずは一巻の69ページ、70ページ、73ページ、75ページ!』
レ『この子ね、了解!……『また言いつけを守りませんでしたわね、黒鋼。無駄な殺生はせぬようにと、申しつけておいたでしょう。仕方ありませんわね。これから、貴方を異界に飛ばします。貴方はきっと、たくさんの人々に出会うでしょう。そこで、本当の意味での強さを知るでしょう。旅が……始まりますわ』』
ソ『すっごーい!』
さ『わぁ……わたし、鳥肌が立っちゃいました』
フ『レンレン先生すごーい。そんな風におしとやかなシリアス声も出せるんだねー』
レ『ちょっと!褒めてるのかけなしてるのかどっちかにしてください!』
ユ『でも、本当に上手いね』
レ『両親の影響が大きいかも。詳しくは言えないけど、ずっとお芝居をしている人たちだから』
イ『小さいコロから、ずっと、二人の演技を見てきたものネ』
レ『うん』
ラ『次はこれがいいな!ツバサ二巻の91、92、102、103、104ページ!』
レ『……えぇっ!?なんか恥ずかしい』
ソ『大丈夫だよー!期待してるみんなのために、早く早く!』
レ『ううっ……ふぅ……っ!『マイ巧断ちゃんカモーン♪あたしの巧断の攻撃、受けてみなさーいっ!!みんな!元気ー♪こうなったらチェンジよ!!マイ巧断ちゃん変身!マイ巧断ちゃんがスタンド型になったからには逃げられないわよぅ!!みんなあたしに夢中〜〜〜〜♪いぇい!!』っ…はぁ、はぁ……』
龍『す、すごい』
百『すごいとしか言いようがない』
フ『オレでも、レンレン先生のこんなにきゃぴきゃぴした声、初めて聞いたー』
ひ『でも、すごく可愛かったです。違和感ゼロでしたよ』
四『良かったんじゃないですか?男子生徒にいいサービスになって』
レ『も、もういいよね……?』
ラ『最後はこれ!83ページと107ページ!』
レ『ん?あ!歌なら任せて!……『ゆれるーゆれるーふーせんのようなワ・タ・シv風さんふっけふっけ♪もっとふけー♪まわるーまわるー水ふーせんのようなワ・タ・シvくるくる〜♪』』
小『うわぁ……声はすごく綺麗……だけど』
四『歌詞が……強烈過ぎる……』
イ『……レン』

レン先生が3変化したと同じように、全校生徒も3回色んな意味で驚愕した。彼女の手にかかれば、どんな文章だって歌になるに違いない。そう、その文が例えどんなに混沌としていようとも。

侑「さすが音楽教師!即席でメロディーをつけるなんて、やるわね」
黒「いや、いっそデタラメに歌ってくれた方がなんかこう……」
侑「それにしても、レン先生は上手いわねー。さすがアメリカの大女優、セレーネの子。イリス先生もやればいいのに」
黒「いや、そこは勘弁しといてやれよ」

教師の中の良心、黒鋼先生である。

フ『ねーねー。これさ、他のみんなもやってみてよー』
四『え!?えぇ!?』
フ『みんなも色々なページの台詞、読んでみてー』
レ『そうよ!私達ばっかりじゃなくって!』
ソ『面白そう!』
ラ『だな』
小『えっ』
フ『ええっとねー。じゃあまず……これ!ひまわりちゃん』
ひ『わたしですか』
フ『ツバサ一巻21ページ』
ひ『えっと……『あのね……わたし……えっと、小狼にね、言いたいことが、ある、の。あの、あの、ね。わたし、小狼のこと……』』
四『かーわーいー!!』
ユ『うん、可愛いね』
レ『和むー』
百『うまいんだな、九軒』
ひ『中学の時は掛け持ちだけど演劇部にもいたから』
龍『そうだったのか』
ラ『でも、この主役、小狼っていうんだな』
ひ『そうなんだね。ごめんね、さくらちゃん』
さ『え?ええ?どど、どうして?』
ひ『小狼君、呼び捨てにしたりして』
さ『えっ、あ、ええ、えと……え……あの……』

あわあわと動揺するさくらの声色に、生徒達は温かい目で行方を見守った。もはや、ファイ先生×レン先生、と同様に、小狼×さくら、も堀鐔学園名物カップルとして、全校生徒公認のようなものだった。

侑「あっはははは!さらにグダグダ展開にー。いいぞー!もっとやれー!」

侑子先生のお望み通り、これからさらに混沌とした展開が繰り広げられることになる。

ソ『次々!』
ラ『これにしよう。四月一日これ、これ読んで!』
四『え!?お、おれ!?』
ソ『はい、ここ。120ページ』
四『え、ああ……ってこれ小動物!!』
ラ『早く!』
四『……『ぷぅ、みたいな』』
百『……今のはありなのか』
龍『どうなんだろうな』
四『うっ!ちょ、ちょちょ!』
ソ『はい、ここ!』
四『ええ!?……『モコナ分かる!今の羽根、凄く強い波動を出してる。だから、近くなったら分かる。波動をキャッチしたら、モコナこんな感じになる。めきょっ!』』
百『……なしだな』
龍『それは厳し過ぎるんじゃないかな』
四『そこ!!!勝手にジャッジすな!!』
レ『……っ』
四『レン先生!笑うならいっそ大声で笑ってください!』
レ『ぷっ!』

『あーっはっはっは!』と、レン先生の気持ちがいいほどの大爆笑が学園中に響きわたった。このとき、学園は大きく3つに分かれていた。一つは、レン先生のように笑い転げる者達。一つは、百目鬼のように冷静にアウトかセーフか判断する者達。そしてもう一つは、いたたまれない気持ちに襲われて思わず耳を塞いでしまった者達だ。

侑「ないでしょ」
黒「いや、ありにしといてやれよ。精一杯やったんだからよ」

侑子先生と黒鋼先生は、二番目に当てはまったんだそうな。

ソ『ねぇ、せっかくだからやっぱりユゥイ先生とイリス先生もやろうよー』
ユ『いや、本当にボク、昔から発表とか苦手だし』
ラ『大丈夫だ。読むだけだし、な?』
イ『そういうの、好きじゃナイし』
ラ『演じなくても、ただ読んでみるだけでも』
ソ『お願ーい』
ユ『……』
イ『……』
レ『おねがーい』
イ『……レンがすると、なんかイラってくる』
レ『ヒドい!』
ユ『演技抜きでなら……いいよ。イリス先生がやるならボクもするよ』
ソ『本当?』
ラ『イリス先生ー』
イ『……わかりまシタ』
フ『じゃあー、これ。二巻の66、67ページを二人で』
ユ『読むよ?』
イ『ドウゾ』
ユ『……『大丈夫ですか?姫』』
イ『敬語、ヤだって言った』
ユ『『すみませ……いや、あの、ごめん。でも、本当に大丈夫か?』』
イ『『平気。ちょっと熱が出ただけなの。寝たらすぐ下がるってお医者様も言ってたし。あ、でもね……手、握ってくれたらもっと早く良くなると思う。だめ?』』
ユ『『えっと……眠った方がいいよ』』
イ『『居てくれる?』』
ユ『『うん』』
イ『『こうやって眠ったら、目が覚めて最初に見るのは小狼だね』』
ユ『……ふぅ。どうだったかな?』
さ『ふわぁ〜……』
ひ『ふわぁ〜……』
ソ『ふわぁ〜……』
レ『……こんなにデレてる台詞を言うイリス、相当貴重よ。テープ永久保存版にしなきゃ』
四『上手いというか、お二人とも素で言ってるんだけど……なんかすごくしっくりくる!』
小『原作じゃ中学生くらいの二人なのに、なんかすごく大人っぽいと言うか』
百『雰囲気が妖しいというか』
ラ『なんか、エロい』
龍『それだ』
レ『なんで双子でこんなに声が違うかなぁ。私、あんなに色っぽい声出せないよ』
フ『だいじょーぶ!レンレン先生、実は……』
レ『きゃあぁぁあ!なに言おうとしてんのよバカ!』

スピーカーが壊れてしまうのではないか、と思うほどの絶叫だった。これで、よからぬ妄想を展開させた男子生徒が何人いたことやら。黒鋼先生は口角をヒクヒクとさせながら、呟いた。

黒「こりゃ放送事故だろ」
侑「いいじゃない。このくらいの方が聞いてて楽しいし」
黒「いや、よくねぇだろ」

一通りアフレコをしてしまい、これで終わるかと思いきや、そうはいかないのがこのメンバーだ。

フ『面白いねー。じゃあ、次はー』
ラ『ホリック行こう!こっちも一巻がいいな』
ソ『小狼とさくら、これ!』
小『ええ!?』
さ『ど、どこ?』
小『え、ええっと……』
さ『こ、この女の人?』
小『14ページ……』
さ『ここから?『……名前』』
小『『ああ?』』
さ『『貴方の名前』』
小『『四月一日君尋……え?ああ!もう訳わかんねぇ!兎に角お邪魔しました!!』』
さ『『言ったでしょ、必然だって。この世に偶然はないわ。あるのは必然だけ』』
四『……なんか、これならいつもより騙されたり、酷い目に遭わないで済みそうな気がする』
さ『ごめんなさい。凄く変だったよね!』
小『おれも、なんかよくわかんなくて!』
四『いや、二人とも可愛かった』
小『ええー!?』
さ『ええー!?』
ソ『モコナもやるー!』
ラ『モコナも』
フ『何やりたいのー?』
ラ『四月一日が『セフト』だったからモコナに挑戦するぞ!』
四『だぁ!それどっちなんだよ!』
イ『『safut』?そんな単語、あった……?』
ユ『たぶん、outとsafeを混ぜた造語じゃないかな』
イ『ナルホド。日本人って、発想が、オモシロイ』
四『あの、改めて解説されると恥ずかしいので止めてください……』
ソ『モコナ、こっちの黒いモコナ!』
ラ『モコナ、こっちの白いモコナだ!』
小『ん?それってどう演じ分けるんだ?』
ラ『ふふ。まあ、見てなって。行っくぞ!小龍、手伝って!』
龍『おれか』
ラ『二巻19ページ!』
ラ『『ぷぅ、みたいな』』
龍『『なんじゃそりゃ』』
ソ『『いや。みたいな、は余計だろ』』

……ん?

黒「あ?」

素っ頓狂な声を上げ、思わず首を捻ったのは、黒鋼先生だけではないはずだ。

四『え?』
ラ『やり切ったな』
ソ『やり切ったね』
四『どこが違うんだよ!いつものおまえらと!』
ソ『モコナがちょっと男の子っぽいモコナを演じたんだけど、やっぱりモコナだから女の子なの!』
ラ『モコナがちょっと女の子っぽいモコナを演じたんだけど、やっぱりモコナだから男の子なんだ』
四『意味わかんねぇよ!』
フ『あっはは。モコナたち可愛かったよー。さすが、うちの学園のアイドルー』
ソ『えへへ』
ラ『えへへ』
フ『さーて、小龍君は』
龍『一緒にやりましたよ。モコナたちと』
四『え?あれ?』
レ『そういえば、モコナ達の間の台詞』
ひ『小狼君と小龍君、同じ役なのに全然違ったね』
四『そ、そうだね。小龍、一言だけど』
フ『じゃあ、次はー』
ユ『百目鬼君かな』
四『なんか変な役にしましょう。変なの!』
フ『えーっと、じゃーあー。変じゃないけど可愛いのー』
四『へ?!』
フ『百目鬼君、可愛いからー』
四『ええ!?』
フ『はい、これ』
百『『ど、どどどどうしよう』』
四『ちょ!それ女の子の役!』
フ『四月一日くーん、この台詞読んでー』
四『ええ!?お、おれ終って!』
百『『こ……こんな所で会えるなんて……』』
四『『な、なにか落としたのかな?』』
百『『い、いえ。あの、探しものなんです。すごく素敵な人だから……特別なチョコレートあげたくて。でも、全然なくて困ってたんです。でも、ありました。ここに』』
四『ぎゃああああああ!!!』
フ『はは!シャツに手突っ込んじゃダメだよー』
レ『びっくりしたぁ』
ひ『台詞言ってると、つい体が動いちゃうよね』
百『おう、つい』
四『ついでやって良い事と悪い事があるだろ!!』

カオスと化した放送室の光景が目に浮かんでくるようで、黒鋼先生は頭を抱えた。

黒「てか、これほんとに放送していいのか?」
侑「いいに決まってるじゃない。きっと今日の放送後のラジオのウェブサイト、掲示板もメールも大盛況よ」
黒「この理事長にしてこの学園あり」
侑「何か言って?」
黒「……」
侑「でーもー、漫画読むのはなかなか楽しかったわね。あたしもやってみようかな」
黒「やりゃあいいじゃないか。なんでも」
侑「あの漫画二作なら何がいいかしらね。あえて男子役もいいわよね。んー、あったあった。ツバサ一巻78ページ」

ふと時計に目をやれば、ラジオ放送開始から30分になろうとしていた。昼休憩もそれと共に終わりを迎える。午後は特に準備をしなくてはならない授業はないが、いつも早めの移動を心がけている黒鋼先生は立ち上がった。

黒「さて、そろそろ昼休みも終るな。俺ぁ帰るぞ」
侑「ちょっと待って。付き合いなさい」
黒「ああ?」
侑「付き合わないと、黒鋼先生のベッドの下にある秘密を明日、全生徒にメーリングリストで流すわよ」

……ベッドの下の秘密を、全校生徒にメールで流す?男にとってのベッドの下に隠されたものと言えば、一つしかない。あれだ………心のオアシス、だ。黒鋼先生も、どうやら例外なく当てはまるようだ。

黒「はぁぁーー!?」
侑「ほーら、早くー!『これしか方法がなかったからなぁ』」
黒「ちょっ、おまえ、ベッドってなんでおい!?』
侑「この台詞よ」
黒「これ女じゃねぇか!」
侑「黒鋼先生はー、ベッドの下にー」
黒「ああああああああああああ!『こ、これからどうするの?ファイ』」
侑「『もう、この国にはいられないなぁ。いや、この世界には、か』」
黒「『せ、世界?』」
侑「もっと可愛く!『チィに頼みたいことがあるんだ』」
黒「『な゙ぁに゙?』」
侑「『もしも、王が目覚めたら教えて欲しいんだ。だから、ちょっと姿を変えてもらっていいかなぁ』」
黒「『ゔん、い゙いよ。チィはファイが創ったん゙だから゙』」
フ『そうだったんだー。オレ知らなかったー。黒様先生を作ったのがオレだなんてー』
黒「……は?」

思わず、黒鋼先生は素の声の高さに戻ってしまった。何故か、自分の言葉に対応するような言葉が、スピーカーから流れてきたのだ。ここは理事長室、そしてラジオ放送は放送室で行われているはず。
どういうことだと侑子先生に目をやれば、そこには呼吸困難に陥るほど身を捩らせてひーひー笑う彼女がいた。
……嫌な予感がする。

フ『これからはオレのこと、お父さんって呼んでねー。でー、お母さんはレンレン先生ー』
レ『えー?私、自分よりこんなにおっきい子を育てなきゃいけないの?……なぁんて!てか、また校内放送でなに言ってんの!』
フ『ノったくせにー。今更じゃんー』
黒「はぁ!?」
ソ『さて、モコナたち8人とファイ先生ユゥイ先生、レン先生イリス先生!そして!』
ラ『侑子理事長、黒鋼先生でお送りしたお昼のラジオ、いかがでしたか?』
四『あのー、ホントにすみません!黒鋼先生!』
小『何度か言おうと思ったんですが……』
さ『侑子先生が絶対ダメって』
ひ『でも、楽しくなりそうでしたし』
龍『実際、楽しんでもらえただろうし』
百『おう』
侑「おお!サイトが凄い反響よ!理事長室にいっぱいマイク仕掛けて、放送室に繋げたかいあったわ!」
黒「はぁあああああ!?」
ソ『と、いうわけで!』
ラ『と、いうわけで!』
『『『『『『『『『『堀鐔学園お昼のラジオ。放課後までまてない!でした!』』』』』』』』』』

黒鋼先生の表情が、どんどん青ざめていく。つまりは、侑子先生との今までの会話も、彼がプライドを捨てて出した女声も、全てが全校生徒に筒抜けという事で。

ユ『あ、今日夕飯どうするかメールで教えてくださいね。黒鋼先生』
フ『今晩はパスタだよー』
イ『パスタ……カルボナーラなら、ワタシも食べマス。少し、辛めで』
ユ『了解。楽しみにしてて』
レ『えー!やっぱり王道のミートソースの方がぁ……』
黒「……なんじゃそりゃぁああああ!!!」
侑「ほーら、言った」

してやったり、と侑子先生は笑った。サラサラと灰になる黒鋼先生を尻目に、うんと伸びをする。今日も程良く平和を乱して生徒たちを楽しませることか出来た、とどこか間違った充実感に浸るのだ。

侑「さーて、次は何して遊ぼうかなー。堀鐔学園、今日も平和ね」

そしてその日の午後、黒鋼先生が担当する授業は全て自習となり、彼の姿を見た者はいないのだった。





──END──

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