1.お昼の放送にドッキドキ!


──理事長室──

残暑をようやく過ぎて、秋を感じさせる涼風が開け放たれた窓から室内に入ってくる。今の時期、空調機器は必要ないので、学校側にとっても非常に有り難い季節なのだ。
暑さで外に出るのが億劫だった生徒達も、昼休み時間になれば我先にと外へ飛び出していく。男子生徒は汗を気にすることなくサッカーボールを追いかけ、女子生徒は日焼けを気にすることなく昼食後の談笑に没頭するのだ。
そんな光景に、侑子先生は緑茶を口に運びつつ、目を細めた。

侑「はぁ、今日もいい天気ねぇ。この理事長室にも、気持ちいい風が入ってくるし。まさに秋晴れって感じ。生徒たちも楽しそうに校庭で遊んでて、お昼休みを満喫中。こういうの見てると、ほんとに平和が一番だってつくづく思うわよねぇ。黒鋼先生?」
黒「ああ。だが今、空耳が聞こえたな」
侑「えー?何にも聞こえなかったわよ」
黒「平和がなんとか。ま、幻聴だろ」
侑「幻聴じゃないわよ。ちゃんと言いました。平和が一番って」
黒「いっつも乱れろ平和とかっと叫んどいて信じられるか!そんな戯言が」
侑「戯言じゃないもーん。今この時はほんとにそう思ったんだもーん」
黒「『もーん』ってそれが理事長の話し方か!ったく!」

口調をマネといてなんなのだが、黒鋼先生は自身の声色に寒気がした。ポツポツと浮き出る鳥肌を抑えようとしながら、侑子先生にお代わりの緑茶をいれる。生徒なら誰しも一度は恐れる体育教師をここまでこき使えるのは、彼女くらいしかいないのだろう。

黒「おらよ」
侑「んー、ありがと……はぁ、やっぱり黒鋼先生がいれる緑茶は最高ね」
黒「そのためだけに校内放送で俺を呼び出すな」
侑「だってー、今日は月曜日でしょ?お茶係の四月一日はお昼のラジオの担当日なんだもーん」
黒「その『もーん』を止めろって!!」
侑「あら。そろそろ始めるわね」

侑子先生が時計を見やった、次の瞬間。学園内中の天井に設置されているスピーカーから、放送が始まるときに流れるお決まりの音楽と、放送委員会の生徒達の声が流れてきた。

四『みなさんこんにちは!四月一日です』
さ『さくらです』
小『小狼です』
龍『小龍です』
ひ『ひまわりです』
ソ『モコナです』
ラ『モコナです』

シーン、と静まり返ること、約五秒。

百『…………………百目鬼です』
四『おまえ、なにそのローテンション!ラジオは三秒以上無言だと放送事故だと思われるってあれほど!』
ラ『さあ、今日は週の最初の月曜日!』
ソ『気持ちも新たに、気合入れて頑張ろう!』
小『はーい』
さ『はーい』
ひ『はーい』
龍『はーい』
四『いいから間を空けずに喋れ!』
百『……空けてねぇ』
四『空いてるっつーの!』

通常、ラジオ放送というものには大まかな原稿というものが存在するのだろう。しかし、この堀鐔学園高等部の放送部員達の放送では、アドリブが9割型を占めているような気がする。予定していた段取りをぶち壊し、誰も予測できない展開を繰り広げるのだ。それが、一般の生徒や先生達には逆にウケるのだが。

侑「あっははは。相変わらずのノリねー」
黒「しかし、なんでラジオで8人も……」
侑「生徒たちのリクエストにお答えしたの。女子はもちろんだけど、男子連中もあの子達人気あるからねー。最近は転校生の小龍兄が人気急上昇中よ。なんとなくクールで素敵ーって」
黒「なんじゃそりゃ」

呆れるように呟いた、黒鋼先生の何気ない一言だった。しかし、何故か侑子先生は、キラリと目を光らせて口角をつり上げ、黒鋼先生をビシッと指さした。

侑「予言するわ!黒鋼先生はお昼休みが終る頃、『なんじゃそりゃ』と言う」
黒「そりゃなんの新しい遊びだ」
侑「ジョジョごっこ?」
黒「何で疑問系なんだよ」
侑「遊びよ、遊び。というわけで、月曜日はお茶入れてくれる人がいないのよ。ほんとは四月一日には、毎日お昼にはがっつりおさんどんさせたかったんだけど」
黒「おさんどんってここ学校だろ!つか、あいつは生徒だろ!あんたは理事長だろ!」
侑「理事長だからこそ、その特権でここで四月一日のお手製のお昼ごはんを食べようとー」
黒「理事長が生徒に飯作らせる特権なんざねぇよ」
侑「えー、つまんないー。黒鋼先生だって、最近ユゥイ先生に夕飯ご馳走になってるくせにー」
黒「あれは、あのへにゃへにゃ化学教師とやかましい音楽教師が毎晩俺の隣の弟の部屋に押し掛けるから、三人分作るのも四人分作るのも五人分作るのも同じだって」
侑「あらぁ?一人多いじゃないの」
黒「音楽教師の妹が、弟の隣部屋なんだよ。あいつはほっとくとなにも食わねぇから、毎回姉が連れてくるんだ」

ああ、と侑子先生はぽんと手を打った。堀鐔学園教師陣は、特別な事情がない限り、職員宿舎で暮らす決まりなのだ。強制と言っても、部屋の広さも最低1DKはあり、他にも1LDKや2Kなど2人で暮らしても十分快適に過ごせるだけの広さがある。
いずれの部屋も家賃は割安、防音設備完備、オートロック付き、バストイレは別、ベランダ付き、ペット可、駐車場付き、家具設置済みといった条件が揃っている。さすがは、超がつくほどの私立巨大学園都市だ。こんな有り難い条件を断る人物は、創立以外いないという。

侑「ファイ先生とレン先生は701号室、黒鋼先生は702号室、ユゥイ先生は703号室、そしてイリス先生は705号室。みんな見事に集まったものね」
黒「部屋割り決めてるのはどこのどいつだったっけなぁ?」
侑「うふふ。なんにせよ、作ってもらってるじゃない。じゃあ、あたしだっていいはずよ」
黒「よくねぇだろ!」

侑子先生と黒鋼先生がコントを繰り広げている間にも、ラジオ放送は進んでいく。

さ『さて、今日はゲストがいらっしゃるんですよね』
ひ『そうなんです。先週、このラジオに堀鐔学園の誰にゲストに来て欲しいか、ウェブサイト宛てにメールで投票していただきました』
ソ『男女別の投票で、それぞれ見事一位に輝いたのは!…………女性部門の一位はレン先生とイリス先生!』
ラ『そして、男性部門の一位はファイ先生とユゥイ先生だぁー!』

ピタリ、と侑子先生と黒鋼先生の言い合いが止まった。しばし沈黙し、スピーカーに耳を傾ければ、聞き慣れた声が部屋中を満たす。『こんにちはー』『こんにちはっ!』『こんにちは』『コンニチハ』同じ挨拶を繰り出した4人だったが、それぞれの話し方や声の高さから、彼らの一人一人の個性がかいま見れた。

侑「あーら」
黒「あ?」
侑「噂をすれば、ねぇ」
黒「あいつ、午後の実験準備もせずになにやってるんだ」
侑「いいじゃない。ユゥイ先生も午後から調理実習だし、レン先生とイリス先生も午後は合同授業でオペラ鑑賞とその翻訳をするそうよ」
黒「なおさら、なにやってるんだ!あいつらは!」

理事長がそんなんでどうするんだ、と黒鋼先生は怒鳴りつつ、耳はしっかりと音を拾う。なんだかんだで、放送が気にならないわけがないのだ。

小『今日はお越しいただき、有り難うございます』
フ『いえいえー。呼んでくれて有り難うー』
レ『一人ではゲストとして来たことがあるけど、こんなに大人数って初めて!楽しそう!』
龍『ファイ先生とユゥイ先生、レン先生とイリス先生。それぞれ、全く同票の一位だったんです』
さ『さすが、仲良しな先生達ですね』
フ『嬉しいなー』
ユ『有り難う』
レ『双子ってすごいよね』
イ『やっぱり、そのせい?』

ふと、侑子先生は窓の外に目を向けた。「今日の放送ゲスト、レン先生だぜ!」「イリス先生がゲストってのも貴重じゃん!」と、ボールを追いかけていた足を止める男子生徒達。「きゃー!ファイ先生の声好きー」「えー?ユゥイ先生の方がカッコいいよ」と、さらに談笑に花が咲く女子生徒達。早くも生徒達からの評価は好評、と侑子先生は満足そうに笑った。

侑「あの双子達は人気あるわねー。同じ顔でもキャラが分かれてるのがポイントかもね。小狼兄弟もそうだし」
黒「ふんっ!」
侑「特に、あの二組は恋愛事も絡んでるから、生徒達も気になるのよねー」
黒「おい。またややこしくなるようなマネをするなよ」
侑「ふふーん。どうかしらねぇ」

ニヤリ、と悪そうな笑みを浮かべる侑子先生を見て、黒鋼先生は全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。自分にまでとばっちりを食らってはたまらない、触らぬ神に祟りなしだ。黒鋼先生は閉口し、流れてくる談笑に耳を傾けた。

四『そんな四人の先生方に、さっそく学園のみんなから質問のお便りが届いているので読みますね』
フ『わーい、楽しみー!』
ひ『堀鐔ネーム『ファイ先生愛してる』さん』
フ『嬉しいなー』
レ『……なぁにニヤニヤしてんだか』
百『レン先生、小声でも声は拾われてます』
レ『え!?いや、あの!えっと!』
フ『ごめんねー。オレの彼女、ヤキモチ焼きさんだからぁ』
レ『べっつに焼いてなんか!ううー……もう!進めてください!』
ひ『ふふ、はい。『ファイ先生、ユゥイ先生、こんにちは』』
フ『こんにちはー』
ユ『こんにちは』
ひ『『お二人は本当にそっくりですが、小さい頃はよく間違えられたりしましたか?』』
フ『間違われたよー。ていうかー、わざと間違えるようにいたずらしてましたー』
龍『ユゥイ先生も一緒に?』
ユ『そうだね。服を取り替えたり、教会の合唱会でボクがアルトでファイがソプラノだったのに、逆になってみたり』
イ『なんか、意外、デス』
フ『ははっ!あったねー。声もそっくりだったからねー』
さ『でも、今はちょっと声の雰囲気も高さも違いますよね』
レ『ファイ先生はなんか、喋り方へにゃへにゃしてるもん』
フ『今も同じに出来るよー。『ね?黒鋼先生』』

全身の鳥肌、再び。

黒「ぶっ!」
侑「あっははは!」

黒鋼先生が吹き出した緑茶が、重要書類の隅を濡らしたことを気にもせず、侑子先生は腹を抱えて笑い転げた。どこか遠くで、一部の趣向の女子が黄色い声を上げたような気がした。

小『本当だ。今喋ったのファイ先生だったのに、ユゥイ先生みたいでした』
レ『いやー!なんか鳥肌が立った!今頃、黒鋼先生は緑茶あたりを吹き出しちゃってますよ!絶対!』
ソ『ユゥイ先生も出来るの?ファイ先生のマネ』
ユ『小さい頃は出来たんだけど、今は無理かな』
龍『そうなんですか』
百『出来そうな気もしますが』
四『ちょ、無茶ぶりするな!』
レ『そうよ。ユゥイ先生が可哀想。罰ゲームじゃあるまいし、ある意味拷問だし』
フ『そこー、いくら声を低くしても聞こえてるからねー』
四『あ、さくらちゃん。次のメール行こうか!』
さ『あ、ああ。はい!えーっと、次のメールは堀鐔ネーム『ユゥイ先生、指綺麗過ぎ』さんから』
ユ『あはは。そんな事ないよ』
ソ『見せて見せてー!わー、本当!』
小『指長いですね』
さ『ピアノ弾いてらしたんですよね』
フ『そうなんだ。ユゥイ、すっごい上手いんだよー』
レ『本当に。ユゥイ先生の伴奏、すごく歌いやすいの』
百『でも、スポーツもやってましたよね?何か指を使う』
ひ『どうして分かるの?』
百『節のあたり、おれと同じような指に力を入れる競技をやってると、こうなることが多い』
龍『流石だな。百目鬼君』
ユ『うん、本当だね。昔、アーチェリーをやってたんだよ。料理人になることを決めた後は、ほとんどやってないんだけど』
小『そうだったんですか!』
レ『へぇ、イリスと同じですね』
ユ『本当?』
イ『ハイ。学生時代、たまに引いてマシた。というより、アーチェリーに限らず、運動はたくさんしてたケド』
レ『イリスって、そこらの運動部員より足が速かったし、武道系部員より力あったしね。何でも出来るもん』
フ『でもー、イリス先生って今は英会話部の顧問。文化系だよねー』
龍『お二人とも、またやらないんですか?』
ユ『機会があればね』
ラ『日本の弓道もいいぞ』
ユ『射る姿とか、美しいしね』
イ『Japanese archery……kyudoは、ステキ。アーチェリーより、ずっとキレイ。日本ならではの、礼儀作法とかも、あるんでショウ?』
百『はい。良かったら、いらしてください。小龍も来週から弓道部に顔を出しますし』
ソ『そうなの?』
龍『ああ。この学園は部活は二つまで許されているから』
ひ『バスケットと弓道ね』
四『小狼も、もう一つやるんだよな』
小『うん。剣道』
フ『黒るー先生のとこだねー。厳しそー』
イ『でも、日本の武道は、ステキね。ワタシも、なにかやりたいな。kyudoやkendoもいいし、karateとかjudoとか』
ユ『本当に何でも出来るんだね、イリス先生』
レ『ユゥイ先生。あんまりイリスを怒らせないようにね。ボッコボコにされちゃうかも!』
フ『それはレンレン先生もじゃんー。威力のない、ねこパンチでさぁ』
レ『うるさいな!』

そう、堀鐔学園は今年度から新しい校則が出来て、部活動は二つまで掛け持ちOKとなったのだ。小狼のようにサッカー部と剣道部、小龍のようにバスケットボール部と弓道部と、運動部同士の掛け持ちはもちろん可だが、フィギュアスケート部とコーラス部のように運動部と文化部の掛け持ちも可能だ。
堀鐔学園の部活動を活性化し、生徒がより活躍できる場所を作り、新しい人の輪を生み出すことを主旨とした理事長の提案らしい……というのは建前で、単にそっちの方が面白そうだからである。

侑「あら。小狼、剣道部に入るの」
黒「ああ。サッカー部とどっちもやってみたいと言ってきた」
侑「ますます人気者になっちゃうわねぇ、小狼。さくらちゃん、ちょっと心配かなぁ」
黒「生徒間の事に口つっこむなよ」
侑「あー!ケチぃ!」
黒「ケチとか言う問題じゃねぇだろ!」

他人の恋愛事を気にする前にてめぇの事を気にしろ、と思わず口にしかけた黒鋼先生だったが、言ってしまえば重い制裁が待っているだけなので、寸前でそれを飲み込んだのだった。

小『次は、似たような質問だから2通同時に紹介しますね。堀鐔ネーム『レン先生は俺の嫁』さんと『イリス先生、その美声で僕を叱ってください』さんから』
フ『はーい。今日から最初の彼は化学の成績を1にしまーす』
レ『なに言ってるんですか』
ユ『ファイも結構嫉妬深いよね。昔と違って』
フ『まぁね。冗談だけど、9割方本気だからねー』
百『ほとんど本気じゃないですか』
四『いや、ツッコむべきは後者だと思うんすけど』
イ『叱って欲しいなら、いくらデモ』
四『こっちも爆弾発言きたー!』
レ『イリス、どっちかっていうとSだもんねぇ。ファイ先生とはまた違う意味で』
小『えっと、質問読みますね?『レン先生とイリス先生は中身は正反対ですけど、お互いにここを直して欲しいというところはありますか?』』
さ『これって、言っちゃっていいのかな?』
四『姉妹間の関係にヒビが……』
レ『大丈夫でしょ。ねっ?』
イ『ワタシは全然』
龍『じゃあ、お互い腹を割って』
ひ『どうぞ』
レ『えっとねー、一番は生活面を改善して欲しいな。ほっとくとご飯全然食べないからね、この子。睡眠時間とか4時間くらいって言ってたし』
フ『それは確かに体に悪いよー。よく寝てよく食べなきゃー』
イ『そういう、時間があったら、言葉の勉強に使いたいデス。最近は、小狼君達から中国語、ユゥイ先生達からイタリア語の話相手をしてもらってマスし』
小『たまには喋らないと、発音とか文法とか忘れますもんね』
ソ『ねー、何か外国語喋ってみて!』
ラ『英語以外のが良いな!』
イ『じゃあ、一番得意なフランス語で』
ユ『それなら、ボクが会話相手になろうか?フランスはイタリアの隣国だから、少しはわかるよ』
イ『わかりました。教科書に載ってるくらいの、簡単な文法で』
ユ『了解』
イ『『Bonjour Monsieur,Hotel Marcear,6,rue Jules-Cesar,s'il vous plait.』』
ユ『えっと……『Vous etes...Americaine?』』
イ『『Oui,je suis Americaine.』』
ユ『『Et vous etes voyageurse?』』
イ『『Oui.』』
ユ『『Bienvenue a Paris!』』
四『すげー!なんて言ってるか全然わからなかったけど』
フ『パリに旅行にきた女の子と、フランス人の男の子の設定かなぁ?』
イ『一応、そのつもりで話しまシタ』
ひ『なんだか、言葉かすごく綺麗でした』
ユ『フランス語は、世界一綺麗な言語と言われているからね』
ラ『他にも話せる言葉があるのか?』
イ『日常会話に困らないくらいなら、たいていの国を話せマス』
龍『勉強熱心なんですね』
レ『でもね、やっぱりご飯はちゃんと食べた方がいいと思うの!健康体じゃなきゃ勉強できないんだよ?』
イ『ワタシ、アレルギー持ち以外、健康ヨ』
ひ『アレルギー?』
イ『甘いモノを食べると、ジンマシンでたり、熱でたり、するカラ』
さ『甘いものがダメなんですね。でも、チョコとかケーキとか美味しいのに……』
イ『食べ物食べて、あまり美味しいとか感じたコト、ないデス』
四『そんなー、なんかもったいないですよ!』
イ『あ。デモ、ユゥイ先生の作る料理は、好きデス』
ユ『え?本当?』
イ『ハイ。甘いものでも、工夫して出してくれるカラ、ジンマシンでないし、美味しい』
ユ『有り難う』
四『ちなみに、自分では作らないんですか?』
レ『っ!四月一日君!それはダメ!』
四『へ?』
レ『忘れもしない10歳の頃……初めてイリスが作った手料理を食べたお兄ちゃんが、集中治療室に運ばれて……なんとか一命を取り留めた』
『『『『『『『『『『え!?』』』』』』』』』』
レ『そう……イリスの料理の腕はまさに殺戮料理兵器!イリスには料理を作らせない、触らせない、味見させない!これが我が家の家訓!』
フ『うわぁ……』
ユ『……へぇ』
イ『ワタシ、あれ食べたトキ、何ともなかったんだケドな』

そのとき、この放送を聞いていた者全員が悪寒を覚えたという。
米を洗剤で洗った、卵をチンして爆発させた、という話は聞かなくもないが、真面目に作って人体に影響を及ぼすような料理が出来上がるのだろうか。それに加えて、人が病院送りになった料理を食して何ともないというイリス先生の体内構造も、ある意味恐ろしい。

黒「恐ろしい話を聞いちまった……」
侑「これは、イリス先生は料理上手で主夫になってくれる人を見つけるしかないわね。ユゥイ先生とか」
黒「だから、あまり他人事に首を突っ込むなっつの!」

そして、妙な空気が静まった頃、ようやく話題は次へと移った。

小『イリス先生からレン先生には?』
イ『……ファイ先生とケンカするたびに、ワタシの部屋にきてグチるのは止めて』
レ『えー!だって、イリスのところか社会科のルナ先生のところしか、避難所がないんだもん!』
イ『聞くところによると、ルナ先生のところには、化粧品とか着替えとか私物も置いてるらしいケド』
レ『うん。イリスとは体型が同じだから借りれるけど』
イ『メイワク!』
レ『ひどーい!そんなことないもん!ルナ先生、いつだって私が好きなレモンティーいれて、笑いながら待っててくれるんだよ!愛だよね、これって』
フ『何度も同じようなことがあれば、そろそろレンレン先生が来るころだーって分かるようになるよねぇ』
ユ『そして、笑いながらっていうのは失笑の事じゃないかな』
レ『ちーがーうーもん!』
さ『それにしても、そんなに喧嘩するんですか?』
フ『喧嘩っていうかー、レンレン先生が一方的に怒って出て行ったりー、オレが追い出されたりー』
小『一緒に住むのも大変なんですね』
フ『そうなんだよー。一番くだらないのは、タオルのたたみかた一つで大喧嘩だったからねぇ』
龍『そんなことで』
レ『そんなことじゃないの!タオルのたたみかた、新聞の折り方、掃除の仕方でも人格を否定する大喧嘩に発展するんだから!』
ひ『へぇ』
レ『将来、みんなも同棲するかもしれないんだから、気をつけた方がいいよ?』
百『同棲って認めましたね』
レ『え!?いやあの!学園の決まりで仕方なく』
ひ『でも、幸せですよね』
レ『ふぇっ!?えっ、えっと、その、幸せじゃないことはないけど、えっと』
イ『ネ?結局、ノロケになる。ワタシのトコロにくるたびに、これだから』
フ『あははー。ごめんねぇ』
レ『ああもうーっ!』
小『……あ。メールの下の方に追加質問が』
レ『なぁに?』
イ『なに?』
小『いや、これは……』
ラ『なになにー?『お二人のスリーサイズを教えてください』だってー!』

その瞬間、生徒達の動揺や歓声によって、学園全体が揺れたという。

黒「ぶはっ!!」
侑「男子生徒らしい質問ねー」

健全と言えば健全だが、校内放送で聞くのはいかがなものだろうか。こういう質問をする者は、やんちゃな部類の男子生徒か、もしくは彼女たちの真のファンか、いずれかなのだろう。

レ『えええ!?ダメダメダメ!』
フ『あはは。彼はどうしても来年もう一度みっちり化学を受けたいらしいね』
四『ファ、ファイ先生の笑顔が黒い……!』
イ『前に測ったときは83-55-80くらい。ちなみに、胸はD』
ユ『イリス先生!?』
レ『ちょっと!!』
イ『別に、ヘるものじゃないし』
龍『ということは、似たような体型のレン先生も』
イ『レンはワタシより食べるカラ85-58-82くらいじゃナイ?』
レ『ああもうっ!イリスのバカー!』

レン先生の大絶叫が、キンキンとスピーカーから降り注ぐ。肩耳に指を突っ込みつつ、黒鋼先生は苦虫を噛み潰したような顔をした。

黒「これはアウトだろ!」
侑「いえ、『セフト』よ」
黒「どっちだよ!!」





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