1.お誕生日会にドッキドキ!


──校庭──

校庭をぐるりと一周囲むように植えられている桜の木は、春になり可愛らしい桜色の花を満開に咲かせた。晴れ渡った空からこの場を見下ろせば、桜色のカーペットが敷かれているかのように見えるかもしれない。

冬の寒さは完全に過ぎ去り、ほかほかと暖かい陽射しが降り注ぐ今日は四月一日。校庭の片隅では立食式のパーティーが行われている。赤い花びらが重なったようにも見えるドレスを着た侑子は、シャンパンを片手に咲き誇る桜を見上げた。

侑「晴れて良かったわねぇ」
フ「ほんとですねー」
レ「桜もちょうど良い感じに咲いたし、日本のお花が見られて良かったね!イリス」
イ「ええ。本当に、キレイ」
フ「二人もねー」

えへへとレンは照れ笑いして、イリスは上品に微笑み返した。二人は色違いの袴を身につけており、レンは髪をハーフアップに、イリスはサイドアップにしている。

侑「誕生日はやっぱりこうじゃなくちゃ。ね、四月一日!」
四「そう、です、ねっ!」
侑「まあ、何。そのふくれっつら」
四「だから、正月の時も言いましたけど!なんで自分の誕生日に!誕生日会の為に働かねばならんのですか!!それも校庭で!放課後に!もうみんな帰ったのに!」
侑「まぁまぁ、今年は手伝ってもらえたじゃない。小龍君と小狼君に」
ラ「二人とも誕生日だもんな!」
小「そうだな」
ソ「みんな4月1日なんだよね!誕生日!」

本日の主役達がどうして自分たちのパーティーの準備をしているのだろうか、という疑問を持つのはもはやこの場に四月一日しかいなかった。目の前にずらりと並べられている料理にひたすら貪りつく百目鬼を「くらぁ!!二人は誕生日なのに手伝ってくれたのに!おまえはなんでそうなんだ!動かざること百目鬼の如しか!」と怒鳴るも、当の本人は聞かざる状態だった。

そこに、黒鋼とユゥイがやってきた。黒鋼はなぜか、この場に似つかわしくない緊張感の漂った顔つきをしているが、その理由は彼が持っているものにある。黒鋼が運んでいるのは、ユゥイ特製の巨大なケーキだ。ケーキは二段になっており、白いクリームが塗られた周りには砂糖で作った花が飾られている。

ユ「お待たせしました」
「「わーい!ケーキだー!」」
四「すごいですねー!」
ユ「せっかくのバースデイケーキだからね。喜んで貰えたら嬉しいんだけど」
「「「有り難うございます!」」」
ユ「でも、4人とも同じ誕生日なんてすごいね」
ラ「そう!四月一日と小龍と小狼とさくら!」

「ちゃんと崩さないで持ってきてえらいねー。なでなでしてあげるー」「このケーキおろしたら覚えてろよてめぇ」「ケーキ落としたらダメだから!許さないから!」「落とされたくなかったらおまえら近づくないやマジで」
ファイと黒鋼とレンがそんなやりとりをしている傍ら、ユゥイはイリスに、果物がたくさんのせられたホールケーキを差し出した。イリスが首を傾げると、ユゥイはにこりと微笑んだ。

ユ「イリスさんの分は、別に用意したから。無糖だけどフルーツをたくさん乗せたから、自然な甘みになってると思うんだけど」
イ「……ええ。これなら、ワタシでも、食べられそう、デス。有り難うございマス。ユゥイさん」
ユ「綺麗な袴姿を見せてくれたお礼だよ」

にこり、とイリスも微笑み返す。黒鋼いじりに飽き、シャンパンをぐびぐび飲みながらその様子を見ていたレンは、すすっとファイに近寄って唇を彼の耳に寄せた。

レ「ねね。ユゥイさんとイリス、どう思う?」
フ「どうってー?」
レ「なんか、一見いい感じに見えるんだけど」
フ「じゃあ、良いんじゃない?ユゥイがイリスちゃんを好きなことはもうみんな知ってるし、イリスちゃんも満更でもないみたいだしー」
レ「だと良いんだけど……ちょっと気になることがあるんだよね、イリスは」
フ「?まぁ、なにかあるにしても、二人の問題だし。中学生じゃないんだし、なるようになるでしょー」
レ「なんかファイ、冷たい?双子の弟のことなのに……まさかユゥイさんが私にキスしたことまだ根に持ってるんじゃ」
フ「やだなー。そんなこと、あるわけないじゃない」

そう言い切ったファイの笑顔は、彼のファンが見たら卒倒するほどのものだったが、その笑顔の真意を見抜いたレンは一言「ユゥイさん、頑張って」とだけ呟いた。

四「あり?そういえば、ひまわりちゃんとさくらちゃんは」
侑「誕生日の男の子たちにプレゼントよー!可愛いお姫様たちの花嫁姿!しっかりと目に焼き付けるがいいわー!」

桜の木の陰から現れたさくらとひまわりは、真っ白なドレスを身にまとっていた。二人がいるその空間だけ別世界ではないと思うほどで、そこだけ現実から切り取られたようだ。

イ「ウェディングドレス、デスね」
フ「わー!オレも着るー」
レ「黒鋼、よろしく」
黒「おう」

ケーキを置いた黒鋼の拳がファイの後頭部を直撃する。もはやこの光景も日常と化し、誰もファイの安否を案ずる者はいなかった。
「二人ともかわいいね」とユゥイが言うと、百目鬼こくこくと頷き同意を示す。そして小狼はというと、二人……主にさくらに見惚れるばかりで、気の利いた台詞一つ言えずにいたが、顔を真っ赤にしたさくらが目の前まで来たところでようやく我に返ったようだ。

さ「あ、あの、ヘン……かな」
小「似合ってる。すごく素敵な花嫁さんだ」
四「ひまわりちゃんも可愛いよー!素敵だよー!」
ひ「ありがとう」
四「今すぐお嫁さんにもらいたいくらいだよ!」
侑「まぁ。お付き合いも未経験のくせに」
四「悪かったですね!そりゃ、小狼にはさくらちゃんがいるけど!小龍だっておれと同じで……」
龍「いや、おれ付き合ってる人いるから」

一緒にするなと言わんばかりにばっさり切り捨てた小龍の発言に、その場がしーん……と静まりかえる。直後、その場は数名の絶叫が響きわたった。

四「ちょ!ま!だれ!?」
龍「さて、ケーキ切り分けましょうか」
小「ににににいさん!?」
レ「どう思う?イリス。私ほんとだと思う。小龍君モテるもん」
イ「じゃあワタシは、エイプリルフールだから冗談を言ってみた、に一票」
ユ「ボクも」
イ「外れは、昼食一週間奢り、ネ」
レ「え!何それそっち二人じゃん!ずるい!ファイー、ねぇねぇ」
フ「……」
レ「あ、ダメだ。まだノビてる」
ユ「堀鐔学園、今日も平和だねぇ」





──END──

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