4.宝探しゲームにドッキドキ!


──音楽室──

音楽室へと続く階段を、一段、また一段と上がっていく。全てが静止していると錯覚させるその空間は、酷く静かだった。余りの静けさに、飲まれてしまうのではないかとさえ感じる。
自分のシャツの裾を控えめに掴み、寄り添うレン先生を隣に感じ、ファイ先生は小さく笑った。恐がりな彼女の為に、わざと明るめに声を出す。

フ「黒様先生の野生の感は凄いねぇ」
黒「……今度ああいうのがあったら……てめぇがやれよ……」
フ「えー。こういうのは、生命力が強い人の方が向いてると思うなぁ」
レ「黒鋼先生、殺しても死ななそうだものね」
黒「おい」

彼氏が彼氏なら、彼女も彼女だった。この二人は自分を何だと思ってるのだろう、化け物か何かか。
あいにく、少なくともこのカップルよりは普通だと確信している黒鋼先生は、小さくツッコんだ後さらに小さい溜息をついた。

黒「……しかし、さっきから行き先指定されるばっかで、肝心の宝物が何なのかさっぱりわかんねぇな」
レ「ですねぇ……」
フ「そうだねー」

と、その時。静寂が破られた。人の声でも何でもない、それは鍵盤楽器特有の音色。

フ「あっ。ピアノ」
黒「音楽室からか」
フ「夜の音楽室からピアノって、ちょっと怖いねー」
レ「う……ん……」

さらに強く、レン先生はファイ先生のシャツの裾を掴んだ。怯える彼女を見て、保護欲がわくと同時に、彼の中にあるサディストの部分がニヤリと笑う。

フ「そういえば、黒りん先生聞いてー」
黒「ん?」
フ「この前、夜中にレンレン先生から起こされてさぁ」
レ「!」
フ「携帯を音楽室に忘れてきて、夜の学校怖いから取りに行くの付き合ってって、涙目で言われてー」
黒「夜中に一人でトイレに行けないガキか、てめぇは」
レ「もう!言わないでよっ!ファイのバカっ!」

怖がっていた事も忘れ、ファイ先生の背中をポカポカと叩く。それも、ファイ先生にとっては楽しむ要因でしかなく、あははと笑ってレン先生の攻撃をかわしていた。
何いちゃついてんだこのバカップルは、という言葉を黒鋼先生が飲み込んだのは、レン先生の怒りの矛先が自分に向くのを防ぐ為だった。

そんなこんなしているうちに、ようやく着いた音楽室。ピアノの音が外まで聞こえていたのは、若干戸が開いていたかららしい。残りを、ファイ先生は思いきり開け放った。

フ「さくらちゃん、ひまわりちゃん」
レ「今晩は、2人とも」
さ「今晩は」
ひ「今晩は」
フ「ここのヒント係りは、二人?」
さ「はい」
黒「女子までこんな遅くに……」
フ「終わったら、なるべく早く宿泊施設の方に行ってね」
レ「近頃物騒だから」
さ「はい」
ひ「はい」

ファイ先生は、ピアノに視線を移した。今し方まで弾かれていた形跡があり、演奏者はピアノの一番傍にいるひまわりだろう。

フ「今弾いてたの、ひまわりちゃんだったんだぁ。上手だねぇ」
レ「当然。だって、音楽の成績優秀だもの」
ひ「有り難うございます」
フ「音楽室でピアノって事はー……わかった!次は、ひまわりちゃんの伴奏で、さくらちゃんと黒みー先生のデュエット!」
レ「それいい!絶対見たい!」
黒「もし本当にそうだったら、俺ぁこの場で帰るからな」

そう言う黒鋼先生は、早くも踵を返そうとしている。
いつだったか、校内放送で彼の鼻歌が全校生徒の前でオンエアされた。音源を提供したファイ先生がボコボコにされたのは、言うまでもない。そんな黒鋼先生が人前で唄うなど、考えられるはずもなかった。

さ「あっ、えっと……違います」
フ「残念……」
さ「今からひまわりちゃんが、ピアノで3つの音を出します」
ひ「ドとかラとか」
さ「それを聴いて、何の音か答えて下さい」
フ「聴音かぁ。レンレン先生がいるから、余裕だねー。絶対音感、ってやつがあるんだしー」
レ「そんなのでいいの?私、外さないよ?」
ひ「それだと面白くないから、レン先生の手を借りるのは禁止で、黒鋼先生とファイ先生で答えて下さいって、侑子先生が」
フ「あはは。だよねぇ」
黒「ちょっと待て。俺ぁわかんねぇぞ」
ひ「じゃあ、始めますね」
黒「や、だから待てって……」

問答無用で、ひまわりは次々に鍵盤を叩いた。?を浮かべるのは黒鋼先生。目を閉じて考え込むのはファイ先生。答えを言いたくてウズウズしているのはレン先生だ。

さ「どうですか?」
レ「頑張って!二人とも!」
黒「や、だから……」
フ「レ。シのフラット。ファのシャープ」

正解音が鳴り響く。第1問目のクイズに続き、ここでもファイ先生がストレートに当てた。
クイズは理論で考えれば何とかなる話だったが、聴音は別次元のクイズだ。それなりの音楽知識がないと、素人では早々当たらない。
一同、驚愕しつつもファイ先生に拍手を送った。

ひ「正解です!」
さ「ファイ先生、凄いです!」
レ「何で分かるの!?歌は下手なのに!」
フ「ひどいなー。聴くのと、自分で声を出すのはまた別次元なんだから仕方ないじゃんー」
ひ「楽器、何かやってらっしゃるんですか?」
フ「オレはやってないよー。でも、ずっとピアノを習ってた人が傍にいたからね」

その、些細な言葉。それが後に、重大なヒントに繋がる。この時、もちろんファイ先生は無意識に言ったのだろうけど。

さ「じゃあ、次のヒントは体育館です」

さくらとひまわりに別れを告げ、3人は次の関門である体育館を目指して、上がってきた階段を下りていった。

現時点でのヒント
『同じだけど同じじゃないもの』
『そっくりな天使と悪魔』
『見た目は同じで片方が正解』
『ピアノを弾ける人』




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