ソ「まっかせて!」
ラ「まっかせろ!」
黒「うわっ!?」
ぴょこんと、どこからともなく現れたのは、モコナコンビのソエルとラーグ。思わず後ずさった黒鋼先生の両肩に飛び乗るった二人は、休日だというのに制服を着ていた。
ソ「モコナ達が、ヒントをあげる」
ラ「クイズに答えたらな」
黒「今日は休みだろう。それもこんな遅くに」
ソ「侑子先生に頼まれたのっ」
レ「生徒まで使うなんて、流石というか何というか」
ラ「今日はみんなで、学園内の宿泊施設にお泊まりだ」
フ「いいねー。オレも一緒に泊まりたいなぁ」
ソ「宝探しが終わったらねっ」
ラ「じゃ、行くぞ!」
ルルとララという、二人の女の子がいます。二人はそっくりだけど、どちらかが天使で、どちらかが悪魔です。天使はいつも本当の事を言いますが、悪魔はいつも嘘をつきます。どちらが天使で、どちらが悪魔なのか知りたい時。どちらか一人に、一回だけ質問出来ます。
さあ……
ソ「なんて質問すればいい?」
ラ「なんて質問すればいい?」
しばらくの、間。しかし、真剣に考えているのはファイ先生だけ。黒鋼先生とレン先生は、目を点にして間抜けに口を開いているだけ。問題の意味すらも理解出来ていないようだった。
黒「あぁ?」
レ「はぇ?」
フ「『貴方はルルちゃんですか?』」
間抜け面の二人の隣で、ズバリと問いを当てたファイ先生。放送から正解の音が鳴り、モコナコンビは両手を叩き、あとの二人の先生はぎょっと目を見開いた。
ソ「せいかーい!」
ラ「正解!」
レ「嘘!?一発で!?」
黒「なんでだ?」
ソ「次のヒントは、調理実習室ですっ」
フ「了解。ありがとね」
ソ「がんばって!」
ラ「がんばれー!」
モコナコンビに手を振って別れると、3人は調理実習室に急いだ。たったったっ、と軽快に駆けていくが、黒鋼先生とレン先生の眉間にはしわが寄ったまま。問題の意味も、最終的に辿り着いた答えの真意も、理解出来ていないのだ。
黒「なんで、あれで分かるんだ?」
レ「私、ぜんっぜん分からなかった」
フ「あれはねー……」
ルルが天使だと仮定する時。答えたのがルルならば、天使なので正直に「はい」と答える。答えたのがララでも、悪魔なので「はい」と嘘をつく。
ルルが悪魔だと仮定する時。答えたのがルルならば、悪魔なので「いいえ」と嘘をつく。
答えたのがララでも、天使なので「いいえ」と正直に答える。
即ち、ルルは天使なら答えは「はい」に、ララは悪魔なら答えは「いいえ」になる。
フ「……って事ー」
レ「……は?」
黒「……何でだ?」
フ「さぁーて!調理実習室に行かなきゃね」
黒「だから、何でだよ!」
レ「むー!モヤモヤするー!」
理解に苦しんで悶絶する二人の前を、ファイ先生はあははと笑って駆けていった。
現時点でのヒント
『同じだけど同じじゃないもの』
『そっくりな天使と悪魔』
*
──調理実習室──
校舎に入り、明かりのない廊下を走る。闇に溶けてしまいそうな中、調理実習室には明かりが灯っていて、そこだけ闇から浮き出ていた。
次の関門にさしかかろうとしているのに、黒鋼先生とレン先生は未だ前の問題を引きずっていた。
黒「ルルと……ララで……?」
レ「二人はそっくりで……」
フ「今晩はー」
黒「天使で……悪魔で……?」
レ「質問は一人に一回だけで……」
フ「あっ!四月一日君と百目鬼君」
調理実習室にいたのは、四月一日と百目鬼だった。その存在に気付いたのはファイ先生だけで、後の二人は先ほどの問題について、自分達なりの討論を続けている。
百「今晩は」
四「今晩は。ファイ先生、黒鋼先生、レン先生」
フ「休日にご苦労様」
百「いえ」
フ「二人が、次のヒント担当ー?」
四「はい……でも……っすみません!」
若干顔色を青ざめて、四月一日は勢いよく頭を下げた。百目鬼はいつものようにポーカーフェイスのままだが、四月一日は何度も何度もペコペコと頭を前後させている。
フ「なんで?」
四「これ、おれが考えたんじゃないですから!」
フ「ん?」
黒「ルルが天使で……ララが悪魔……いや、天使か?」
レ「え?もう一人が天使にならない?」
今回の関門を全く無視して、理解出来る見込みのない問題を理解しようとしている、二人。そんな二人に、特に黒鋼先生に、悲劇が降りかかろうとしていた。
四月一日は、テーブルの上にある皿を指さして、もう一度頭を下げた。その皿の上には、美味しそうな角煮饅頭が乗っている。
美味しそう……そう、見た目、は。
四「この角煮饅頭、二つのうちどちらかに、死ぬほど辛子が入ってます!」
フ「あぁ。辛子が入ってないのを当てればいいのかー」
百「違います」
フ「んん?」
百「辛子が入ってる方を当てて、完食して下さい」
フ「あははははっ!」
そこまできて、ようやく黒鋼先生とレン先生も我に返った。辛子入りの角煮饅頭を当てるなんて、とんだロシアンルーレットだ。それを百目鬼が真顔で言うものだから、ファイ先生のように爆笑する事も出来ず、レン先生は顔をひきつらせた。黒鋼先生の形相も凄まじく、四月一日は慌てて自分に罪がない事を弁解する。
四「侑子先生が考えたんですからね!?おれじゃねっすから!」
フ「ヤンチャするなぁ、侑子先生。でも、ヒント欲しいし……やるしかないね。さっ、どうぞ。レンレン先生」
レ「普通恋人にやらせる!?しかも、私が辛いの死ぬほど嫌いって知ってるくせに!」
フ「冗談だってー。じゃあ、黒ぴょん先生、どーぞー」
黒「俺かよっ!!」
「お決まりの展開じゃんー」と、ヘラヘラ笑いながらファイ先生が流そうとするものだから、黒鋼先生の怒り皺はくっきりと浮き出てしまった。黒鋼先生を怒らせて、ただで済んだ生徒はいない。そう理解している四月一日は、さらに顔面を蒼白にさせてひたすら謝った。
四「すみません!本当に!」
黒「四月一日が悪いんじゃねぇだろ。全部あの我が儘魔女のせいだ……」
その時、校内放送の電源が入った音がした。先ほどの経験から、もう全員がわかっている。言わずもがな、彼女だ。
侑『だぁれが魔女ですって?』
黒「うわあっ!?」
フ「侑子先生、すごぉい!」
レ「何処から聞いてるんだろ……」
四「つか、恐ろしいです……」
侑『早くしないと、ヒント出す生徒達が待ちくたびれるわよー』
フ「タイムリミットもあるしねー」
黒「……くそっ!これだ!」
追い詰められ、覚悟を決めた黒鋼先生は、向かって左の角煮饅頭に手を伸ばす。男らしく、一口でそれを口に放り込む彼を見て、レン先生は自分の事のように両手で口を覆った。
レ「おおっ!行きましたね!」
フ「どうかなー?どうかなー?」
四「だだだだだぃっ!大丈夫ですか!?」
黒「……!!!」
レ「うっ、わ」
本来、辛子はおでんなどと一緒に食べる香辛料だ。こんなに、一度に食べるものではない。
辛子のツンと来る味が、口内一杯に広がっていく。味を認識するに従い、額に汗が滲み、耳から首まで真っ赤になる。目も充血して、若干潤んだ様子を見せつつ、黒鋼先生は一気に喉を鳴らした。
黒「……はぁ!食ったぞ!」
ピンポーンと正解の音が鳴り、喜びに手を合わせるのはファイ先生とレン先生。正解、なのだが。黒鋼先生にとって喜ばしい事だったのかは、謎だ。
フ「やったぁ!」
レ「黒鋼先生、凄いっ!……でも、ご愁傷様」
四「先生!水!水っ!」
四月一日に渡された水を、黒鋼先生は一気に飲み干した。それだけでは足りず、2杯目も催促すれば、すでに四月一日が準備していた。良く出来た生徒だ、と黒鋼先生が感心してほっと息を吐いていると、化学教師のいつもの余計な一言を入れてきた。
フ「涙目の黒ぴっぴ先生、可愛かったねー」
黒「っ……てめぇっ!一発殴らせろ!」
百「次のヒントは音楽室です」
レ「……冷静だね、百目鬼君」
現時点でのヒント
『同じだけど同じじゃないもの』
『そっくりな天使と悪魔』
『見た目は同じで片方が正解』
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