2.宝探しゲームにドッキドキ!


──校庭──

キラキラ、キラキラ。都会の真ん中だというのに、頭上に輝いている星達がよく見える。ファイ先生とレン先生は並んで夜空を仰いだ。

フ「綺麗な星空だねぇ」
レ「うん。天気がいいから空気も澄んでるし」
黒「……」
フ「夜でも、宝探し日和って言うのかなー?」
レ「日和?うーん……どうかな。日本語難しー」
黒「……」

和やかに会話をする2人とは対照的に、黒鋼先生は腕を組んで終始しかめっ面だった。顔を伏せ気味に目を閉じているのを良い事に、ファイ先生はニヤリと笑い両手を伸ばす。

フ「黒るん先生も!お話しようよー。うりっ!」

その両手が掴んだのは、自分の背より少しだけ高い位置にある、彼の頬。体育教師と納得出来る筋肉質な体とは反して、意外と頬の肉は柔らかく、よく伸びた。ぎょっと目を見開く黒鋼先生を見て、レン先生は思わず吹き出した。

フ「うりうりうりうりー!」
レ「ぷっ!あははっ!変な顔!」
黒「止めろ!」
フ「やっとお話してくれたー」

ファイ先生がようやく手を離すと、黒鋼先生は赤くなっているであろうそこを懸命にさすった。
彼のスキンシップは、黒鋼先生にとっては逆の効果しか生まないというのに、何度やっても学ばないのがファイ先生。いや、頭の良い彼は自分が何かすれば黒鋼先生が怒ると理解しているはず。という事は、理解していてなおかつ行動に移すのだからタチが悪い。
全てをチャラにするように、へにゃりと笑う。

フ「せっかくみんなで、夜の校舎で宝探しするんだから、仲良くしようよー」
黒「俺ぁやるなんて一言も言ってねぇ!」
レ「でも、やらないと運動部も文化部も予算減らすって、侑子先生言ってたし」
黒「うっ……」
フ「オレ、せっかく動きやすいようにシャツとジーンズで来たんだよー?」
レ「私も。タートルニットとスキニーデニムで」
フ「黒りん先生は、いつものジャージだけど」
黒「俺はこれが一番動きやすいんだよ!」

そう怒鳴りつけた後、黒鋼先生はファイ先生のシャツに目を留めた。それには見覚えがあったからだ。思った通り、ボタンと生地を結ぶ糸の色が一ヶ所だけ違った。

黒「おまえだって、それ、前にボタンひっかけてぶっ飛ばしたやつじゃねぇかよ」
フ「ああ。そんな事もあったねー」
黒「俺の目の前で痴話喧嘩を始めた挙げ句、誰かさんに掴みかかられて。あれはほんっとに、くだらねぇ喧嘩だったな」
レ「そうそう。私が3人で飲もうと買ってきたお酒を、ファイ先生が一人で勝手に開けたから。あの時は思わず口より先に手が出ちゃって……てか、忘れて!」
フ「ちゃーんと繕ったもーん。レンレン先生は怒ってどっか行っちゃったから、仕方なく自分でー」
レ「あはは……そうなんだ?」
黒「ああ。しかも、俺の裁縫道具持ち出してなぁ」

ぎょろり、と目を細めてファイ先生を睨みつける。黒鋼先生の部屋に裁縫道具がある事も意外だが、他人のものを勝手に借りるファイ先生もどうだろう。
ファイ先生は、悪びれた様子もなくあははと笑った。

フ「職員宿舎でお隣同士なんだから良いじゃーん」
黒「こいつだって持ってるだろ。同棲してんだからこいつのを使えばいいものを」
レ「同棲っていうか!侑子先生が恋人なら職員宿舎は同室でいいわねっていうから!」
フ「照れない照れない」
レ「付き合うまで、教師同士が付き合う場合は職員宿舎を同室にする、なんて決まり知らなかったんだもんー!」

と、あくまでも同棲は仕方なくしている事を主張するレン先生だったが、2人には華麗にスルーされる事になった。

フ「勝手に色々イジったら、また怒らせそうだったからー。別にいいでしょー?ほら、袖擦り合うも多勢に無勢ってね」
黒「意味わかんねぇぞ!」
フ「あははっ。まっ、3人で頑張ろうよ。侑子先生、何処で見てるかわからないから、やる気見せないと」
黒「くっそー……あの我が儘理事長め」

そう、黒鋼先生が呟いたその時。校内放送のスイッチが入った。

侑『だぁれが我が儘ですってぇ!?』
レ「うっそぉ!?」
黒「校内放送でツッコむなぁ!!」
フ「見てるだけじゃなくて、聞いてたぁ」

もはや、しでかす事が人間の限界を超えてきた侑子先生を、誰も止められない。こんな夜に放送を入れられて、さぞや近所も迷惑だろう。と、この中で一番の苦労人である黒鋼先生は痛む胃をさすった。

侑『20時30分。時間ぴったりね』
黒「1分でも遅刻したら罰金だとか言ってたのはそっちじゃねぇかよ」
侑『はい。私語は慎んで』
黒「だからどっから聞いてんだよ!!」
レ「地獄耳……」
侑『レン先生?』
レ「!」

独り言の声量で呟いたというのに、侑子先生は一言一句聞き逃していないようで。盗聴器でも仕掛けられてるのかと服をまさぐったが、着替えてきたのだからあり得るはずがない。
人間業ではない芸当に、レン先生は軽く鳥肌を立てた。対照的に、侑子先生は相変わらずのハイテンションだった。

侑『では!「ドッキドキ!堀鐔学園へ宝探し!見つからなかったらお仕置きよー!行列が出来る湯煙殺人事件!」を始めまーす!』
フ「うわぁーい」
レ「宝探しー!」
黒「明らかにタイトルの後ろらへん関係ねぇだろ……」
侑『さぁて。今回の宝物は……ファイ先生の大事なもの』
レ「ファイ先生の?」
黒「なんだそれ?」
フ「えー。恥ずかしいなぁ」
黒「恥ずかしいもんなのかよ」
フ「てゆーか、分かんない」
レ「えっ?」
黒「どういう事だ?」

レン先生と黒鋼先生は、同時に首を傾げた。
探す物は、ファイ先生の大事なもの。しかしそれを、ファイ先生自身は知らない。となると……今回の騒動も、軽く犯罪じみた臭いがする。

侑『今日、ファイ先生の一番大事なものを、この学園に預かりました。ファイ先生には無許可で』
黒「犯罪だろ!!」
フ「あはははっ」
黒「って、笑い事か!」
レ「……一番大事なものねぇ」
侑『ああ。「レン先生を除いた」ファイ先生の一番大事なものだから。そうしないとレン先生が、宝探しに参加出来ないでしょ?だから安心しなさい』
レ「あ、安心って!別に私そんなんじゃ!」
黒「不足だって思い切り顔に出てんだよ」
フ「だいじょーぶ。オレの一番はレンレン先生だからー」
レ「むー!うー!はーなーしーてー!」
侑『レン先生はツンデレねぇ。やっぱり、そんな相手にはファイ先生くらいがちょうど良いわ』

ファイ先生に頭を思い切り抱きしめられ、レン先生は顔を真っ赤に染めた。これは照れているとかそれ以前に、ファイ先生の愛情表現が強すぎて苦しがっているからだろう。
ようやくレン先生が解放された時、侑子先生から宝探しのルールが告げられる。

侑『タイムリミットは、これから1時間後。もし宝物を探せなかったら、3人は1ヶ月あたしの下僕になって貰います』
黒「……帰る」
侑『棄権は認めません』
黒「どんな理屈だよ!」
フ「侑子先生だからねー」
レ「侑子先生がルールだもの」
黒「……探しゃあいいんだろ、探しゃあよ。何だ。その宝物ってのは」
侑『それは秘密です』
黒「ざけんなよ!!」

今回ばかりは、黒鋼先生の血管が切れるのも仕方がない。宝物が明かされない宝探しなんて、探しようがないではないか。

フ「楽しそうですねー。でも、宝物が何か分からないまま探すの、ちょっと大変だなー」
侑『だから、ヒントを用意しておいたわ』
黒「ヒント?」
侑『宝物は……「同じだけど同じじゃないもの」』
レ「同じだけど……同じじゃない……」
黒「……なんだそれ」
侑『では、始めましょう!』

それだけのヒントで、宝物が何なのか当然分かる訳もなく。三人の先生達は、校内放送が消えた夜の校庭に、ぽつんと取り残された。

今現在のヒントは『同じだけど同じじゃないもの』それだけ。





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