1.宝探しゲームにドッキドキ!


──会議室──

聞き慣れたチャイムの音が、短い昼休みの始まりを告げた。
4限目が空いていたいつものメンバー、黒鋼先生、ファイ先生、レン先生、侑子先生は、会議室に集まり来年度の部活動の予算を決めていた。いくつかの議論を繰り返し、最後に侑子先生の確認を経て、話し合いは終わりを迎える。

侑「じゃ、運動部文化部、共に今年度予算はこの提案書通りという事で」
フ「わーい。お疲れ様でした、侑子先生。レンレン先生も、お手伝い有り難うねー」
レ「いいえ。これが新米教師の運命って、ちゃんと受け止めたましたから」

本来ならコーラス部顧問であるレン先生は、それ以外の役割を持っていない。しかし、黒鋼先生とファイ先生はそれぞれの部活動を担当する他に、運動部総括顧問と文化部総括顧問という立場も併せ持つ。当然仕事量も多く、時折レン先生の手を借りているのだった。

侑「黒鋼先生、ファイ先生、レン先生。予算組みご苦労様」
フ「いえー。文化部のみんな、喜びますー。運動部のみんなも。ねっ、黒様先生」
黒「おう」
侑「10月の恒例行事も、これで終了っと」

一つ大きく伸びをすると、侑子先生は立ち上がって窓を開けた。新鮮な空気が窓から入り込み、長い黒髪を揺らす。レン先生もそれに並び、秋風を受けた。
窓からは、校庭で駆け回る男子生徒がいたり、弁当を食べながらお喋りに没頭する女子生徒がいたりと、いつもの風景が広がっている。2人は平和ボケとも言えるように、表情を弛めた。

レ「んー、風が気持ちいい」
侑「ねー。はー……それにしても、平和ねー」
フ「ですねー」
黒「平和で良いじゃねぇか」
侑「良いんだけど、つまらないのよねー。平和は適度に乱れてこそよ」
黒「何さらっと不穏な事言ってんだ」
侑「つまんない時は、やっぱり楽しくしなきゃねー」

今までの経験上から、すぐさま黒鋼先生は危険を察知した。不敵に笑い、何かを含んだ言葉を侑子先生が放つ時、良い事が怒った試しがない。今回も同じようなパターンだ。
黒鋼先生は素早く立ち上がると、早々と書類をまとめだした。

黒「終わったな!?終わったよな!?俺ぁ次の授業の準備をしに行くから……」
侑「だから、ゲームをしましょう!」
フ「うわーい。ゲームー」
レ「何のゲームですか?」
黒「3人で仲良くやってくれ。じゃな」
侑「ええ。3人でやって貰うわ。貴方とファイ先生とレン先生で」
黒「何でだよ!」

結局は、いつもの落ちになるのだった。







──理事長室──

部活動会議があった、その日の放課後。有言実行の侑子先生は、早くも行動を起こしていた。

侑「さぁて!点呼とるわよー!さくらちゃーん!」
さ「はい」
侑「ひまわりちゃん」
ひ「はいっ」
侑「小狼君」
小「はい」
侑「小龍君」
龍「はい」
侑「百目鬼君」
百「はい」
侑「四月一日君」
四「はいっ」
侑「モコナ」
ソ「はーい!」
侑「モコナ」
ラ「はいっ」
侑「うん。全員揃ったわね」

理事長室に集まった生徒達を眺め、侑子先生は満足げに笑った。

四「侑子先生。質問があります」
侑「モコナは名字よ。ちなみに名前は、ソエルとラーグ」
四「まじっすかぁ!知らなかった……って、じゃない!!」

相変わらずというか何というか、やはり侑子先生と四月一日だった。イジらずには、そしてイジられずにはいられない。今回も本来の話題に入る前に、早くも脱線していつものコントが繰り広げられる。

四「なんでおれ達、放課後に理事長室に集められてんですか!?」
侑「まー。ご機嫌斜めねぇ。また女子に「四月一日君って、良い人だよね。でも、彼氏って感じじゃないかなぁ」……って、言われたのー?」
四「な!?ちょっと!」
ひ「言われたの?四月一日君」
四「いいいい、言われて……」
百「たな。昨日」
ラ「さらっとヒドいな」
小「そんな事ないよ。四月一日君」
さ「四月一日君は、凄く優しいし」
龍「料理も上手いな」
ラ「お裁縫だって」
ひ「うん!本当に!」
四「ひまわりちゃん……!」
ひ「お嫁さんに欲しいよね」
四「だあっ!?」
ソ「一番ヒドい!」

ネタの始めから落ちまで、もう見事としか言いようがない流れで運ばれたのだが。四月一日が不憫すぎて仕方がないのは、気のせいだろうか。特にひまわりの一言は、一撃必殺とも言えるダメージを与えた。
床にノビている四月一日をスルーして、侑子先生はパンパンと手を叩いた。

侑「さっ!四月一日でコントはこのくらいにして」
四「四月一日「で」って何ですか!「で」って!」
侑「理事長室に集まって貰ったのはね」
四「イジった上に流すんですかいっ!」
侑「ちょっと手伝って欲しい事があるのよー」
ソ「なぁに?侑子先生」
侑「宝探しをする時」
ラ「いつ?」
侑「明日の休校日。この堀鐔学園でね」
百「おれ達もですか?」
侑「いいえ。探すのは黒鋼先生とファイ先生とレン先生。貴方達には、その宝探しのヒントを与える役をやって欲しいの」
ソ「面白そう!」
ラ「面白そう!」

早くも協力の意を示したのは、モコナコンビ。2人の場合、単に楽しんでいるからに違いない。
他の生徒も案外みんな乗り気のようで、積極的に主催者である侑子先生に問いかけている。

さ「何処でやるんですか?」
侑「学校内よ」
小「何を探すんですか?」
侑「……ファイ先生の大事なものよ」

にやり、と唇が弧を描いた。
隠された宝物が何なのか、その場で明かされる事はなく、当日のお楽しみという形になったのだった。





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