Gift for you


 何回一緒に過ごしたって、クリスマスという言葉を聞くと特別な日だという気がしてしまう。二人が初めて出逢った日でもないし、初めてキスした日でもないけれど、鮮やかに輝く街並みを見ていると、その中を並んで歩きたいと思ってしまう。
 だから、普段は絶対に行かないような、夜景が綺麗なレストランに連れてきて貰えると、少し緊張するけれど、それ以上に、デンジ君も私と同じ気持ちだったのかなって嬉しくなる。特別な日にしたいって、考えていてくれたんだなって思う。
 この日のために買った新しい服を着て、いつもより少しだけ背伸びしたメイクをして、デンジ君の喜ぶ姿を想像しながら一生懸命悩んで選んだプレゼントをバッグの中に忍ばせた。
 「いつもより可愛いじゃん」と照れ隠しに目をそらしながらもそう言ってくれたり「ありがとうな」って目を輝かせてプレゼントを受け取ってくれたりする姿を見ると、またそれ以上に何かを返したくなる。私のほうがたくさん、プレゼント以上のものを毎日貰っている。
 だから、今年は、もう少しだけ、頑張って。

「レイン」

 キスをしながら服を脱がせるなんて器用だな、といつも思う。私はキスをしているだけで精一杯なのに、デンジ君は服に手をかけてキスの主導権を握り私の反応を楽しんでいるのだ。
 私には、そんなに複数のことを器用にこなせるような芸当はできない。最初から、これからのことで頭の中がいっぱいなのだ。
 やめておけばよかったかな。何を言っても今更どうにもならないけれど、でも。
 ふと、私の額をデンジ君の指先が弾いた。否応なしにコバルトブルーの視線が絡みつく。少しだけ、デンジ君は不機嫌そうだった。

「なーに考えてるんだ?」
「えっ?」
「集中してろ」
「!」

 バレてる。じゃなくっ、て。
 いよいよ、気まずい沈黙に包まれることになった。私が、ブラウスのボタンにかけたデンジ君の手をがっしり掴んで止めてしまったからだ。
 スカートとタイツはすでに、床に散らばっているのだろう。この、少し丈が長めのブラウスは、私の上半身からお尻ギリギリまでを隠している。
 つまり、これを脱がされたら、見られるわけで。
 デンジ君は相変わらず眉を顰めていたけれど、今度は不機嫌というより、心配そうな優しい視線だ。

「どうかしたのか?」
「や、あの!」
「体調でも悪いのか?」

 私が首を横に振ると、よかった、と目尻を下げて微笑んでくれる。こうやって、何よりも私のことを想いやってくれる、そんなところが本当に大好き。
 だけれど、それとこれとは話が別だ。再び、元の調子に戻ってしまったデンジ君の手を、私は掴んだままだ。

「それなら、どうしたんだよ。まさかとは思うが、今日はお預けなんて言わせないぞ?」
「そ、そういうことじゃないのだけど、あの、恥ずかしくなったというか」
「なにを今更。今まで何回抱いたと思っているんだ」
「そ、そういう意味じゃなく、て、っ」

 こんな、キス、ずるい。
 優しくも激しい、愛撫するようなキスに襲われて、全身から力が抜ける。私の手は、デンジ君の手に添えられるだけになってしまった。
 上から、一つずつボタンを外し、下へ下へ。最後の一つまで外し終えると、デンジ君はようやく私の唇を解放してくれた。
 ブラウスを肩から落とされようとしたところで、デンジ君の手が止まる。その視線が、私の体に向いていることが痛いほどわかるから、私は顔を上げられないでいた。
 きっと、今の私は林檎のように真っ赤だ。
 今日のために、お洋服と一緒に買った下着は、普段の私なら絶対に着ないようなデザインなのだ。雪のようなペールブルーを基調とした下着には、チュールとレースがふんだんに使われている。ここまでなら、普段私が着ているものより少し華やか程度だけれど、一番違うのはショーツのデザインだ。
 チュールの中に見える、二色の細いリボンで結ばれているだけのそれは、いわゆる紐パンというものだ。細いリボンだけで固定されているそれをはくなんて、私には勇気がいることだったけれど、やっぱり一年に一度のことだから素敵な夜にしたくて、それで。
 でも、やっぱり、恥ずかしくて頭がおかしくなりそうだ。こんな私を、デンジ君はどう思ったかしら。引かれては、いないかしら。
 熱が集まって真っ赤になった顔を、恐る恐る上げる。

「……」
「あ、あの」
「……この下着」
「は、はい!」
「なんか、可愛いけどやらしいし、イイな。レインがラッピングされているみたいだ……ああ。私をプレゼントします、ってことか」
「ち、ちが!」
「わかってるって。そこまでは考えてないだろうなとは思った。そんなに真っ赤になるなよ。ったく、いちいち可愛いな」
「!」

 私の腕からブラウスを抜き取り、そのまま抱きすくめられ、ベッドに沈む。耳元で囁かれた「一回で済むと思うなよ?」という言葉に、私は頷く代わりにデンジ君の首に腕を回した。
 早く、早く、愛し合いたい。一年に一度しかない特別な夜は、まだ始まったばかりだ。



2013.12.25


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