スイートジェラシー


愛し合った後の心地よい疲労感の中で触れ合う時間が好き。髪を撫でられたり、額にキスを落とされたりすると、どうしようもないくらい幸せになれるから。
こめかみにキスをくれた唇は、頬を滑って首筋へと降りていく。くすぐったくて首を竦めながら笑うと、デンジ君もクスクスと笑った。

「レインの肌は跡がつきやすいよな」

私の首筋を指先でなぞりながら、デンジ君は言った。きっとそこには、愛し合ったときにデンジ君が残した、私が彼のものである証が刻まれているのだろう。

「そうなの?」
「ああ。つきやすいし長く残ってる。オレの肌はつきにくいらしいけど」
「……そう」

赤い所有の印。私はそれをつけられるのが嫌いじゃない。寧ろ、好きなのだと思う。私の全てはデンジ君のもので、愛されている証だということが体に残るから。
それなのに、心にチクリと棘が刺さったようなこの感覚は何だろう。鋭い棘は心に小さな穴を開けて、そこからモヤモヤと重い感情が立ち篭める。

「どうしたんだよ」
「ううん……なんでもない」
「……ふーん?」
「……嘘。少しヤキモチを妬いただけ」
「ヤキモチ?」
「……誰と比べてるのかな、って」

デンジ君に恋していると気付いてから知ったこの感情は、時折私を弱くさせる。愛されている自覚はある。幸せすぎて怖いと思うことすらある。
それでも、私がデンジ君を、ううん、人が誰かを愛する限り、嫉妬という感情は少なからず生まれるのだと思う。

「私はデンジ君以外知らないし、デンジ君だけで良いって思ってる。でも、考えてみればデンジ君は私の前にも色んな人とお付き合いしてたな……って。変ね。昔は、デンジ君と当時の彼女さん達のことを応援してたのに、今じゃ嫉妬しているんだもの」

眠る前に見せる幼い子供みたいに甘える顔も、私を抱きしめるときに見せる男らしい顔も、私だけが知っていたかった。今までの誰にもそういう顔をして欲しくなかった。所有の証を残すのも、私が最初で最後が良かった。
なんて、身勝手すぎる我が侭を考えているのだろう。私は。

「それを言うならオレもだよ」
「え?」
「あいつにめちゃくちゃ妬くときがある」
「あいつって……?」
「あいつはレインの生まれる前すら知ってるんだからな」

デンジ君の言う『あいつ』が思い浮かんだ私の表情を見て、デンジ君は少し拗ねたように唇を尖らせた。
オレだってレインの全てを知りたかった。レインがレインとして生まれる前も、結ばれるのはオレが良かった。
そう言いながら、デンジ君は私の頭を自分の胸に引き寄せた。

「でも」

そうやって優しく落とされるキスだけで、抱えているモヤモヤが吹き飛んで、胸がストンと軽くなる。
デンジ君のちょっとした言動で一喜一憂してしまう私には、やっぱり彼しかいないのだ。過去があるからこそ、今の私達があって、こうして二人で抱き合っていられるのかもしれない。
そう考えたら、私が抱いた嫉妬なんてとてもちっぽけなものだと思える気がする。大切なのは今。私達は今、心から通じ合っている。

「オレの未来は全部レインのものだし、レインの未来はオレのものだ」

触れ合った唇に未来を誓う。ああ、なんて幸福な独占欲なのだろう。過去は変えられないけれど、未来は二人でいくらでも創っていけるのだ。





20130222


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