74.暗闇のラビリンス


 コンテストを終えた次の日。見事コンテストに入賞したことによってメリッサさんから認めてもらった私とヒカリちゃんとジュン君は、いざジム戦へとヨスガジム前に来ていた。でも『ヨスガシティ ポケモンジム リーダー メリッサ 魅惑のソウルフルダンサー』、と書いてある看板の前で、現在立ち往生中だ。目の前で火花を散らせ合っている二人を前にして、私もシャワーズもその口論をのんびりと見守っていた。

「だから! あたしが先に戦うの!」
「なんだってんだよー!? ヒカリだけずりーぞ!」
「だって、あたしのほうがコンテスト結果は上位だし」
「それならレインのほうが上だろ!!」

二人の顔が勢いよく私のほうに向けられた。二人はどちらが先にメリッサさんと戦うかで揉めているみたいなのだけど……私は苦笑して答える。

「私は最後でいいわ」
「じゃあ、やっぱりあたしが!」
「おれだっつーの!!」

 口論は止まないまま、二人の足はようやくジムの中へと向いた。中で挑戦者を待っていたアドバイザーさんは、二人の会話を聞いて豪快に笑った。

「あっはっは! じゃあ、ジムリーダーのところに早く着いたほうから戦うといい!」
「「「え?」」」
「このジムは中が迷路になってる上に、真っ暗だからな!」

 その瞬間、雷が落ちたような衝撃を覚えた。ジムの中が迷路……じゃなくて、後半。まっ、く、ら? 「大丈夫! 安心しろ! ライトは貸してやるから」って、全然大丈夫じゃない。
 何でも、部屋の中の暗闇のどこかにマークが隠されていて、そのマークと同じ扉を開ければ次の部屋に進める仕様らしい。辺りは真っ暗闇の上に、ライトを持ったジムトレーナーが不意に飛び出すことがあるなんて……なんて心臓に悪いジムなの。

「よーし! ヒカリより先におれがジムリーダーのところに着いてやる!」
「あたしだって負けないんだから!」
「っ……二人と、も……」

 烈火のように闘争心を燃やしていた二人は、私が何かを言う前にアドバイザーさんからライトを受け取るやいなや、迷路の中へと突入していった。
「きゃー!このジム、骸骨があるー!!」「なんだってんだよー! そんなとこからいきなり出てくんなよな!」「いやー! ごめん! ポッチャマ蹴っちゃったー! だって暗いんだもんー!」「つかこんな暗いところでバトルできねーよ!!」
 聞こえてくる悲鳴に、体の震えが止まらない。無理……絶対に、無理。

「ん? ……アイスブルーの髪と目にシャワーズ……もしかして挑戦者、レインって名前だったりするか?」
「は、はい……」
「なんだ! それならそうと言ってくれれば! こっちだ!」
「え?」
「ジムリーダーから言われてたんだ! レインというトレーナーが来たらすぐに通してくれってな!」

 アドバイザーさんは付いてくるよう私に笑いかけると、いったん入り口からジムを出た。そのままジムの裏口へと連れて行かれたところで、アドバイザーさんは元の場所へと帰って行った。
 連れてこられた先にあった扉を開ければ、そこには薄暗い靄のかかったバトルフィールドがあった。……ここも、若干怖いのだけど。
 扉の閉まる音に気付いたメリッサさんが、くるっと一回転して私のほうを向いた。

「オーッホッホッホ! お待ちしてました!」
「メリッサさん」
「レイン! コンテストは惜しかったデスね! でも、アタシが見込んだとおり! 次はきっと優勝できマース!」
「あの、それよりも迷路を通過しなくてよかったんですか?」
「デンジから頼まれました」
「え?」
「このジムを改造したのはデンジ。レインは暗いところが苦手だから勘弁してやってくれ、と頼まれました!」
「デンジ君が……ありがとうございます」
「これ、デンジにジムを改造してもらったお礼! だから気にしナーイ!」

 よかった……本当に……また、デンジ君から助けられちゃったわ。

「さあ、レイン! いいえ、チャレンジャー! アナタ、チャレンジしなさい。アタシ、勝ってみせます。それがジムリーダー!」

 踊るように優雅な動作で、メリッサさんの手の中にあったモンスターボールが高く投げ上げられた。
 さあ、いよいよバトルの始まりだわ。 





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