67.勇気と美しさの果実


「……っていうことなんだけど、誰か出てみない?」

 縋るような気持ちで、ジッとみんなを見つめる。でも、みんなはことごとく目をフイッと逸らせて……なんだか、嫌な予感。

(コンテストがどういうのかわからないし、シャワーズ、今回は見てるほうがいいな)
(わたし、この体の色がよく評価されるか悪く評価されるかわからないから)
(美しさ部門、自分には向いていないと思われる)
(ボク絶対やぁだよ! ダンスなんかできないよ!)
(ぼぼぼ僕も無理です! ううう美しさ部門なんてそんな!)

 見事なまでに一斉拒否……うん。みんなの性格を考えると、何となくわかっていたことだ。でも、今回はジム戦をするためにも、なんとかコンテストに出場しなければ。
 シャワーズかランターンが使える技が豊富だし、妥当とは思ったのだけど、コンテストは演技だけで勝敗が決まるわけではない。ダンス審査もあるようだし、総合的に見て誰が一番適しているか。
 ……よし。

「ヒンバス」
(え?)
「お願い。私と一緒にコンテストに出て欲しいの」
(ええええ!? 僕なんて絶対に無理です! 笑い物になるだけです!)
「どうして?」
(だって僕は世界一醜いポケモンですよ!?)
「そんなの関係ないわ。ポケモンの魅力をいかに引き出すかは、トレーナー次第だもの。それに、勝算もあるの」
(……)
「ヒンバス、お願い」
(……それがレインさんの望みなら)
「本当? ありがとう! ヒンバス!」

 水の中からヒンバスを抱き上げて、濡れるのも構わずに抱きしめる。この子の勇気を無駄にしない。絶対に勝ち進んで、メリッサさんに認めてもらわなきゃ。

「コンテストまであと一週間あるわ。それまでたくさん練習しましょう。ダンスの練習だったり、技を磨いたり」
(は、はい)
「みんなも協力してあげてね」
(シャワーズ、マスターとヒンバスが優勝できるようにお手伝いする)
(わたしにできることなら何でも言って)
(頑張るのだぞ、ヒンバス)
(仕方ないなぁ! ジムバッジを手に入れなきゃ先に進めないし、協力してやるよ!)
(みなさん……ありがとうございます)
「でも、今日は疲れたでしょう? もう少し水浴びを楽しんで、ポケモンセンターに行って、今日はゆっくり休みましょう」
(レイン、おやつのポフィンも忘れないでね)
「ふふっ、ランターンったら。わかってるわ。はい」

 ランターンに促され、ポフィンを入れた小さなバスケットを取り出した。それぞれが好んでいる味をみんなに配りながら、ふと考える。確か、ヨスガにはポフィン作りの教室があったわね。ポフィン作りの腕を上げるためにも、行ってみようかしら。

「はい。ヒンバスには貴方の好きな渋いポフィンよ」
(……ありがとうございます)

 いつも通り、青色のポフィンを渡す。
 私やヒンバス自身も知らないうちに、この子の変化はすでに始まっていたのだ。




- ナノ -