66.飾って踊って魅せて


「メリッサさん」

 話しかけると、メリッサさんは片足を軸に一回転してから、私たちに向き直るように止まった。これは彼女の癖だ。一つ一つの動きがまるでダンスみたいで、優雅で、見ていて楽しい。

「アラ! レイン、お久しぶりデース!」
「はい、お久しぶりです」
「ジムリーダーさん! あたしたちと戦ってください!」
「オー。アナタ、チャレンジャーですね! レインもですか?」
「ええ。いろいろあって旅をしてるんです」
「それなら、まずはコンテストに出てみてくだサーイ!」
「「え?」」
「コンテストの美しさ部門でアタシを楽しませてくれたら、アナタたちとの戦いマース!」
「えっ?ちょ」
「では! またコンテストの日に会いましょー!」

 クルリと、また優雅なターンを決めて、メリッサさんはコンテスト会場をあとにした。……なんだか大変なことになっちゃったわ。ヒカリちゃんなんか、口をあんぐりと開けて愕然としているし。その隣で、アヤコさんは苦笑している。

「ヨスガシティ、ジムリーダーのメリッサさん。たまにあんな条件を出すみたいよ。バトルだけでなく、コンテストの実力を持ったトレーナーを見抜くとね」
「コンテスト……あたしにできるかな」
「大丈夫よ。ママがいろいろ教えてあげるわ」
「ほんと!?」
「ええ。でも、娘だからって、コンテストで特別扱いはしないからね」
「わかってる! よーし、頑張ろう!」
「ポッチャ!」

 ヒカリちゃんはやる気満々、というよりも、メリッサさんからあんな条件を出されなくてもコンテストには出場していたかもしれない。
 コンテスト……私はどうしよう。美しさ部門……どの子を出せばいいのかしら。

「レインさん」
「え?」
「あたし、コンテストまでママが泊まってるホテルで過ごしますけど、どうしますか?」
「私はいつも通りポケモンセンターに泊まるわ。家族水入らずの邪魔をしちゃ悪いもの。ママにめいっぱい甘えてらっしゃい」

 「え、あっ……えへへ」と、ヒカリちゃん照れくさそうに笑った。まだ十代の半ばの女の子。やっぱり、お母さんと一緒が一番安心するはずだものね。

「レインちゃんも、わからないことがあったらいつでも聞きにいらっしゃいね」
「はい。ありがとうございます」

 ヒカリちゃんとアヤコさんと別れて、シャワーズと一緒に外に出て、少しだけため息。とんでもないことになっちゃった。あんな大きい会場だもの、ステージも相当大きいでしょうし、お客さんだって多いはず。
 コンテストの内容はテレビで何度か見たことがあるけど。……あのステージに私が立つと思うと、それだけで緊張してくる。私がポケモンたちの足を引っ張りそうで、怖い。

(マスター。シャワーズ、あそこに行きたい)
「え?」

 シャワーズは、触れあい広場方面を向いて鳴いた。旅の疲れを癒すために、このあとは、すぐにポケモンセンターに向かおうと思っていた。ミルちゃんの家からここまで、シャワーズばかりバトルで戦ってもらったから、シャワーズがいいと言えばいいのだけど……。

「ポケモンセンターに行かなくて大丈夫?」
(シャワーズ、まだ元気だから大丈夫だよ)
「そう。それなら、みんなを外に出してあげに行きましょうか」

 シャワーズの希望通り、私たちは触れあい広場へと向かった。
 受付を通過して公園へと一歩足を踏み込めば、都会の中とは思えないほどの大自然が私たちを迎えてくれた。色とりどりのお花、青々と茂る草木、透き通る水が貯まった池、そして公園の隅には太古の遺跡がそのまま残されている。
 シャワーズを連れて一回りしたあと、私たちはシンオウ地方の形をモデルに形作られた広い池に向かった。ここなら、みんなリラックスして過ごすことができると思う。
 四つのボールを宙に投げて、みんなを呼び出した。(気持ちいいー)(ここは水が綺麗だな)(ねぇねぇ、カラナクシって泳げるの?)(当たり前だろ! ボクはウミウシポケモンだぞ!)(ウミウシってなぁに?)(……ボクもよくわからない)と、みんながくつろぐ中、私はベンチに座ってぼんやりと思い耽る。
 コンテスト、美しさ部門、ステージ、衣装……頭の中はコンテストのことばかりグルグルと巡っている。ふぅ、と気付かれないように小さくため息を一つ。でも、気付けばヒンバスが私を気にして近付いてきてくれていた。

(レインさん、どうしたんですか……?)
「ええ、コンテストどうしようかな……って」
(コンテストって、どういった感じなんですか?)

 ヒンバスとコンテストについて話していると、みんなが集まってきたので、私はポケモンコンテストについて一から説明を始めた。
 ポケモンコンテストとは、ポケモンたちの魅力を競い合うイベントのこと。『かっこよさ』『美しさ』『賢さ』『たくましさ』『可愛さ』の五部門があり、それぞれ優勝のために求められる要素が違う。
 今回、メリッサさんが指定したのは美しさ部門。審査は『ビジュアル』『ダンス』『演技』に分かれて、総合ポイントが高い子が優勝になる。
 ビジュアル審査は、ポケモンにアクセサリーにつけて、与えられたテーマに見合うコーディネートをすることによって高得点がもらえる。ダンス審査は、その名の通り曲にあわせて踊る審査。演技審査は、ポケモンが技を繰り出してポイントを稼ぐ審査で、それぞれの部門にあった技で審査員にアピールするのだ。
 この三つの総合得点で、順位が決まる。これが、ポケモンコンテストだ。





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