65.煌びやかな世界の頂点
ここはヨスガシティ。シンオウで住みたい街ナンバーワンに選ばれるほどの人気を誇る、シンオウ東部最大の都市。多くの人やポケモンが集まり、商業の発展と共に出来上がった、友好の街。
人にもポケモンにも優しい街として、バリアフリーなど福祉が充実している。そのせいか、すれ違う人たちは老人や子供たち、ベビーカーを押した女の人も多く見られる。ポケモンとのんびりお散歩できるポケモン広場や、コンテスト会場やジム、噴水やベンチやポケモン大好きクラブなど憩いの施設も充実している。
煉瓦を敷き詰めた道やお洒落な街頭など、歩いているだけで楽しくなるような街並みに、私たちは胸を弾ませながら歩いた。そのまま、私たちはすぐにジムへと向かったのだけれど。
「えっ!? ジムリーダーがいない?」
ジムリーダーが不在というアドバイザーさんの言葉を受けて、ヒカリちゃんの口はあんぐりと開いたまま塞がらない。私はそう驚かなかった。デンジ君で慣れているから……と、この慣れがいいことなのかはわからないけれど。
アドバイザーさん曰く、ジムリーダーはコンテスト会場にいるとのことなので、私たちはすぐにそこに向かった。
豪華な飾りのついたドアを押し開ければ、そこには更に豪華な空間が広がっていた。キラキラと輝くシャンデリア、それに負けないくらい煌びやかな衣装を着た人たち。
その中からジムリーダーを探す前に、ある人物が目に入った。さっき出会したミミィさんと……え!?
「ママ!?」
「アヤコさん!?」
「あら、ヒカリ。レインちゃん」
なぜか、そこにはフタバタウンにいるはずのヒカリちゃんのお母さん、アヤコさんがいたのだ。私たちとアヤコさんの間で、ミミィさんは忙しそうに顔を左右に動かして、アヤコさんとヒカリちゃんの顔を見比べた。
「あ! さっきの! えっ! えっ! あなたアヤコさんのお子さん!?」
「はい」
「へー! じゃあ、コンテストすごいかも!?」
「?」
「さあ、どうかなあ? ヒカリとコンテストのこととか話したことないもんね」
「??」
アヤコさんはクスクス笑い、ヒカリちゃんは頭上にクエスチョンマークを飛ばしている。
……思い出したわ。初めて会ったときに感じた、アヤコさんに対する既視感。
「……アヤコさんと初めて会ったとき、以前も会ったことがある気がしてモヤモヤしてたんですけど……やっとわかりました。私、アヤコさんのことをテレビで見たことがあったんです」
「テレビ? ママが?」
「ヒカリちゃん。貴方のママは昔、トップコーディネーターだった人よ」
「ご名答」と、アヤコさんは悪戯に成功した子供のように笑った。目を点にして、硬直、またしても大絶叫、と、さっきと同じ一連の動作をヒカリちゃんは再び繰り返した。
私の記憶とは何の関係もなかったけれど、これでモヤモヤが一つ解決したわ。
「ママがポケモンコーディネーターって……しかもトップ……えぇ!?」
「もう引退したんだけど、ヒカリには内緒でたまに審査員として来てるのよ。それより、あなたたち知り合いなの?」
「そうだった! さっきのお礼!」
ぽんっ、と思いだしたように手を叩くと、ミミィさんは私とヒカリちゃんにキラキラしたパウダーをくれた。なんでも、ポケモンにつけるアクセサリーの一種らしくて、コンテストに出るときに是非つけて欲しいとのことだった。
「じゃあ、あたし審査員だから。よかったらあなたたちもコンテストに参加してみてね! じゃあ、アヤコさん。失礼しまーす!」
衣装を翻しながら、ミミィさんは会場の中に入っていった。その後ろ姿を見送っていたアヤコさんだけど、ジトリ、としたヒカリちゃんの視線に気付いて、また悪戯っぽく笑う。
「驚いた?」
「当たり前よ。ママったら、どうして言ってくれなかったの?」
「ママがトップコーディネーターだったって言ったら、ヒカリはトレーナーじゃなくてコーディネーターを意識するでしょう? そうじゃなくて、なにも知らないままヒカリにはヒカリの道を決めて欲しかったの」
「……ママ」
「アヤコさんはどうしてヨスガに?」
「今回は特別審査員として呼ばれたの。あなたたちはコンテストに出るの?」
「私たちはジムリーダーを探しに来たんですけど……」
「それなら、あそこに」
アヤコさんが指し示す指先は、私たちの後ろを向いている。振り向くと、少し離れた場所に、一際目立つ紫色のドレスを着た長身の女性――ヨスガシティポケモンジムリーダーのメリッサさんがいた。