64.これで主役は揃った


 遠くに、親指くらいの小さな光が見える。洞窟の出口を目指して、私たちは一気に走った。息を切らした先に、ちかり、目を指すような光が視界を満たす。

「っ……眩しい」
「ケー」
「ケーシィ、ここまでありがとう。はい、これお礼よ」
「ケーッ!」

 私がポフィンを一つ渡したあと、ケーシィはテレポートをして姿を消した。ここからは、また私たちだけの旅が始まる。
 私たちが歩く左手には、テンガン山から落ちる巨大な滝が、水の壁を作り出している。霧上の水しぶきが飛んできて、シャワーズは気持ちよさそうにスキップしている。水しぶきに太陽の光が反射して作られた、虹色のアーチをくぐって岩肌に架けられた橋を渡った。
 時折、山男さんたちとバトルしながら渓谷を進んだ。しばらく歩くと、眼下にふんわりとした草むらが見えてきた。さっきまでのゴツゴツした景色とは、まるで対照的の緑の絨毯だ。

「あら? あれは……」

 草むらの中に、小さな人影を見つけた。タッタッタッ、と階段を駆け下りて、その人のところに向かう。彼女は、何かに向かってモンスターボールを投げた。

「やったぁ! ラルトスゲットよ!」
「ポッチャ!」

 やっぱり、ヒカリちゃんとポッチャマだわ。

「ヒカリちゃん」
「あっ、レインさん! お久しぶりです!」
「シャワー!」
「ポッチャ!」
「さっき捕まえたのって、ラルトス?」
「はい!」
「手持ち、結構増えたのね」

 ソノオで最後に会ったときは、ポッチャマとパチリス、そしてフワンテの三匹だったはず。でもバッグにつけられたボールを見る限り、今は五匹にまで増えている。

「ハクタイの森でミミロルを仲間にして、さっきラルトスを捕まえて、あとは……これです」

 ヒカリちゃんは、バッグの中からあるものを取り出した。ラグビーボールほどの大きさで、でもそれよりも丸みを帯びた、すべすべの球体。私も見覚えがある、これは……。

「ポケモンのタマゴね!」
「はい。金髪の綺麗なお姉さんがくれて」
「……もしかして、シロナさん?」
「そう! そう言っていました! レインさん、知り合いなんですか?」
「知り合いだけど、それ以前に彼女は有名人だもの。シンオウリーグの現チャンピオンよ」

 そう言ったときの、ヒカリちゃんの顔。目を点にして硬直したかと思えば、次の瞬間には「えーっ!?」と、辺りをつんざくような絶叫が響き渡った。苦笑して耳を塞ぎながら、タマゴを渡したときのシロナさんの心境を考える。
 もしかしたらシロナさんは、ヒカリちゃんの実力を見抜いて、タマゴを渡したのかもしれない。赤と青のこの柄……シロナさんの手持ちの中でも特に強く賢い、あのポケモンが生まれるはず。きっと、ヒカリちゃんに幸せを運んでくれるわ。

「大切に育てなきゃね、そのタマゴ」
「は、はい……っ!」
「誰かその子を捕まえてー!!」
「「えっ?」」

 反射的に、二人同時に声が聞こえてきた方向を向いた。小さなミミロルが、こちらに向かって全力疾走をしてきている。
 突然のことに狼狽えていると、ヒカリちゃんは素早くタマゴをバッグにしまい、体を張ってミミロルにタックルをした。す、すごい……いろいろと……。
 ミミロルはしばらく暴れていたけど、観念したのかブスッとした顔で大人しくなった。

「大丈夫? ヒカリちゃん」
「は、はい。びっくりしたぁ」
「よかった! あなたたちが偶然そこにいて! そうでなかったらミミロルちゃん、どこまで逃げてたか……ミミロルちゃん、モンスターボールに戻ってね」

 このミミロルのトレーナーらしき女の人が息を切らして走ってきて、ミミロルをモンスターボールに戻した。それにしてもこの人の格好、なんだかハデというか、奇抜というか。このまま、何かのショーにでも出そうな格好だわ。
 私の視線に気付いた女の人は、にこっと笑った。

「あたし、ミミィ! コンテストの審査員してまーす」
「コンテスト?」
「それって、ポケモンの?」
「そうよ! お礼をしたいから、もしよかったらコンテスト会場に来てね!」

 そう言い残すと、ミミィさんは忙しそうにヨスガシティのほうへと走っていった。
 なるほど、コンテストの審査員だからああいう衣装を着ていたのね。まるで、ヨスガシティのジムリーダーみたい。

「ヨスガシティはコンテストで有名だものね。コウキ君も出るって言ってたわ」
「わぁ!コンテスト、楽しそう!あたしもジム戦が終わったら出てみようかな。レインさんもどうですか?」
「えっ? 私は人前に出たり、そういうの得意じゃないから……」
「えー!? 出ましょうよ! 絶対楽しいですよ!」

 そんな話をしながら、自然と二人足並みを揃えて歩き出した。私たちの後ろを、シャワーズとポッチャマが楽しそうに話しながらついてくる。
 コンテストの街、ヨスガシティはもう目の前だ。





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