053.巡り廻る花時計
そういえばナギサシティでも、デンジ君とオーバ君に挟まれてご飯を食べると、こんな状態だったな。私の周りにいる人は、外見も内面もその地位も、何かと目立つ人ばかりだから。
「レインちゃん、しっかり食べてる?」
「はい」
「たくさん食べなきゃね! そんなんじゃ、ジムリーダーに辿り着く前にへばっちゃうわよ!」
そう言って、シロナさんは自分の分のサンドイッチを私の皿に移した。
朝からこんなに食べられるかしら……普段から朝食もしっかりとるように心がけてはいるけれど、さすがにこんなには……
「誰あれ? 美人ー」「迫力あるな」「てか、どこかで見たことあるような……」と、聞こえてくる声をBGMにしながら食事を終えて、二人で預けていたポケモンを受け取りに行った。
モンスターボールを乗せたトレー持つ、ジョーイさんの手が震えている。チャンピオンのポケモンを預かっていると思うと、緊張するのかもしれない。
「レインちゃん。ジム戦、頑張っていらっしゃい。ナタネちゃんはくさタイプ使いだけど、レインちゃんが持っているバッジの個数に合わせてジムのレベルは低めに設定されるはずだから、レインちゃんの手持ちのレベルだったらきっと大丈夫」
「はい。行ってきます。頑張りましょうね、シャワーズ」
「シャワ!」
シロナさんに背中を押されたら、たくさん自信をもらえた気がした。彼女は気休めの慰めを言わないから、頑張ればきっと勝利への道筋が見えるはず。
シャワーズと並んで、ポケモンセンター横の南に伸びた道路を進み、ハクタイジムに移動する。
『ハクタイシティ ポケモンジム リーダー ナタネ 映える緑の草使い』
ペチッと両頬を叩いて気合いを入れて、ジムの自動ドアを開けたのだけど……中を見て、私はただ唖然とするしかなかった。
「何……これ……!?」
ジムの中はまるで植物園のように木々と花たちが生えていて、噴水の水音が心地良い空間を演出している。ここまではいいのだけど……ジムの中央には巨大な花時計があって、針が橋の役目をしているみたいだった。この上を進めっていうの……?
以前、デンジ君に連れられて来たときは森の迷路のようなジムだったのに、模様替えでもしたのかしら。私が入り口で立ち尽くしていると、アドバイザーさんが話しかけてきた。
「オーッス! チャレンジャー! ん? シャワーズを連れてるのか。みずタイプだけだと苦労するぜ! ナタネはくさタイプの使い手だからな!」
「あ、あの。その前にこのジムは……」
「おっと、ジムのアドバイスをしなきゃだな! 最近このジムは大改造を行ったんだ! ジムのあちこちにいるトレーナーを全員倒さないと、ジムリーダーに挑戦できない。トレーナーを倒すたびに花時計が回転して、ジムリーダーの部屋へ導くからな!」
「こんな大改造、ナタネちゃんが一人で?」
「まさか」
……何だかすごく嫌な予感がするわ。
「改造が得意っていうナギサシティのジムリーダーを呼んだんだよ! ジム戦の合間に一ヶ月かからずに仕上げてったから驚きだ!」
……やっぱり、デンジ君だったのね。そういえば数ヶ月前、ちょくちょくジムを開けてどこかに行っていたけど……このためだったのね。
「……行きましょうか」
「シャワー」
デザインはナタネちゃんが提案して、デンジ君が想像を膨らませて完成させた、といったところかしら。デンジ君の独断で改造したにしては、全体的にメルヘンチックなデザインだから。
巨大花時計が指し示す時間へ通じる針を渡れば、すぐにポケモン勝負が始まる。
「いらっしゃいませー! いきなりですけど勝負よ!!」
ハクタイジムのトレーナーも、全員がくさタイプ使いの女の子たちだった。チェリンボやロゼリア、スボミーなどの純粋なくさタイプばかりを繰り出してくる。
「ランターン! たいあたり!」
みずタイプの技はほとんど役に立たないと思っていいから、ノーマルタイプの物理技で攻めていく。そして、相手が繰り出す攻撃はできるだけ躱さなきゃ。くさタイプお得意の特殊攻撃を受けてしまえば、一気に体力を減らされてしまうから。
「うふふ……時計が回り出すわね」
トレーナーに勝つたびに、花時計の時が進む。刻まれた時に導かれれば、また新しいトレーナーとバトル。
そうして、トレーナーと戦うこと三人目。ついに、花時計の針はジムリーダーの部屋を指した。
「大丈夫? ランターン、ジーランス」
(平気。まだ戦える)
「キズぐすり、使いましょうね」
(助かる)
ここまで頑張ってくれた二匹にキズぐすりを使って体力を回復させる。これで、父さんからもらったものはすべて使い切ってしまったわ。
シャワーズはまだ戦闘に出していない。この子が、対ナタネちゃんの唯一の切り札だから。
「残るはジムリーダー一人よ。さあ、行きましょう」
そして、私たちは最後の扉を開いた。