051.時間と空間の創造主


――ハクタイシティ――

 ハクタイシティは、昔を今に繋ぐ街といわれている。近代化が進む街が数多くある中で、現代人が忘れつつある歴史が残る街なのだ。ポケモンジム以外に、歴史を刻んだポケモンの像があるらしく、それを見るのがとても楽しみ。
 他に目立つものといえば、街中どこから見ても一際目に付く怪しいビルと、そして……

「シャワァ……」
「こっちにおいで、シャワーズ」

 怯えるシャワーズを傍に寄せた直後に、私たちはギンガ団とすれ違った。この街には、普通にギンガ団が徘徊しているみたい。街の人たちも、その状況に慣れ切ってしまっているみたいだった。

「きゃ」
「っと、悪い……お! レイン!!」

 出会い頭に、前から走ってきた子と衝突して、勢いに負けて尻餅をついてしまった。もしかしたらと思ったけど、聞き覚えのある声で確信した。
 顔を上げれば、やっぱりジュン君が私を見下ろして手を差し伸べている。その手を取り、引っ張ってもらった。

「久しぶりね。クロガネシティ以来かしら」
「そういえば、そうだよな」
「相変わらず急いでるのね」
「おう! 強くなるためには一分一秒も惜しいからな! ここのジムバッチも手に入れたぜ!」
「本当?」
「ああ! ムクバードとポニータがいたから余裕だぜ! ブイゼルはちょっと相性が悪いから控えててもらったけどな!」
「そうだったのね。おめでとう」
「へへ! レインはハクタイに着いたばかりなのか?」
「ええ。まずはポケモンセンターに……」
「じゃあ、おれがあの有名なポケモン像まで案内してやるよ!」

 私の意見を聞く前に彼の中で決断が下されたようで、私がついて来るものと思って前を歩いていく。私は苦笑しながら後を追った。相変わらず、ジュン君はジュン君だわ。

「見えてきたぜ。あれが……なんだ?」

 心臓が、大きく音を立てる。素手で心臓を掴まれたような、そんな感覚。少しでも息を吸えば、そのまま握り潰されてしまいそうなほどに。
 思わず、ジュン君の背後に隠れた。ポケモン像の前に立っている、あの人は……

「……これがハクタイのポケモン像」

 シンジ湖で会った、アカギさんだ。

「この世界を形作るのは、時間と空間の二重螺旋。そして、シンオウに奉られるのは時間と空間のポケモン。シンオウの神話……その真実を調べるべきか」

 アカギさんはしばらくポケモン像を見上げたあと、運悪くこちらに向かって歩いてきた。
 ドクン、ドクン。震えが止まらない。ジュン君の陰に隠れたまま、私は目を合わせないように必死に俯いていた。

「……失礼、退いてもらおう」

 アカギさんがジュン君の横を通り過ぎるとき、二人の肩が軽くぶつかった。私の心臓は、未だに変な鼓動を刻んでいる。両手が冷や汗で湿って、気持ち悪い。
 ジュン君は無言でポケモン像を眺めている。

「っ……ジュン君?」
「……」

 いつもとは違う神妙な表情に、ハッとさせられる。まさか、彼もアカギさんに何か違和感を……?

「……」
「あの、ジュンく……」
「あっ!!」
「っえ?」
「レイン! おれさ、今ぶつかってすごいこと閃いちゃったよ!!」
「閃い……た?」
「ああ! 最強トレーナーになる簡単な方法だよ! 自分の技は全部当てる! 相手の技は全部かわす! そうすりゃ負けるわけない! 無敵のトレーナーだぜ!!」
「……」

 確かに、それはそうだけど……まさか、そのことをずっと考えていて……?
 「そうと決まれば特訓開始だ! レインはポケモン像でも見とけよー!」と走り去るものだから、さすがに少し呆然としてしまった。走り去るジュン君の後ろ姿を見送るのは、いつの間にか見慣れた光景になってしまった。
 しばらく私は気付いていなかったけど、いつの間にか手の震えはおさまっていた。





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