047.力を求めた先の願い
「まっ、いいか! あなたとのポケモン勝負、割と面白かったし!」
「おやおや、まさか負けるとはの」
「プルート」
白衣を着て作業をしていた老人――プルートさんが話しかけた。驚いた、まさか彼もギンガ団だったなんて。
「まあいいさ。電気はたっぷりいただいた。これだけあれば、相当凄いことができるはず。さあさ、マーズや。ここは引き上げるとしよう」
「煩いわね! あたしに命令していいのはこの世界でボスただ一人なの! 黙ってなさいよ、あなたは! 最近仲間になったくせに偉そうにしないでよね!」
「ほっほ。おまえは相変わらずじゃのう」
「ふん。じゃ、あたしたちはひとまずバイバイしちゃうから! また会いましょ、トレーナーさんたち」
マーズさんとプルートさんは、他のギンガ団を連れて引き上げていった。あまりにも潔い引き際に、しばし呆然と立ち尽くす。
数秒後、我に返ったヒカリちゃんは、急いで外に飛び出していった。
私は、残された男性――おそらくあの女の子のお父さんであろう人物に話しかける。
「あの、大丈夫でしたか? 怪我とかしていませんか?」
「ああ、大丈夫だよ。ギンガ団……とにかく、ポケモンやエネルギーを集めて宇宙を創り出す、と言っていてまるっきり意味不明でした」
ナナカマド博士が襲われたときと同じだわ。やっぱり、ここでもエネルギーを……彼らの本当の目的は、いったい何なの? 宇宙を創るなんて、そんなこと、人間にできるはずもないのに。
「パパー!」
扉が開いた瞬間、あの女の子が現れた。泣いてばかりだった女の子の笑顔を見るのは、初めてだった。お父さんに飛び付いた女の子は嬉しそうにはしゃいでいる。
ヒカリちゃんが連れてきてくれたらしく、彼女も女の子の笑顔を見ることができて嬉しそうだった。
「トレーナーさん、ありがと!」
「やっと娘に会えた! 君たちには感謝の気持ちでいっぱいだ!」
「いいえ」
「よかったですね。あの、娘さんを大切にしてあげてくださいね」
「ああ、もちろんさ!」
女の子を抱きしめる男性を見つめて、ヒカリちゃんの瞳の奥が揺れた気がした。微かに憂いた藍色、羨望が混じっている悲しい色。
二人に背を向けると、ヒカリちゃんは出口に向かって歩き出した。私は何も言わずに、その後ろ姿を追いかけた。
入ってきた扉を開いたとき、ヒカリちゃんは警戒するように固まった。そこには一人の男性が立っていたからだ。ギンガ団の残党……かと思ったけど、見覚えのあるロングコートに安堵の息を吐く。
「おお、きみか」
「ハンサムさん」
「え? え?」
「国際警察の者だ」
ヒカリちゃんに敬礼すると、ハンサムさんは辺りを見回した。
「この発電所にギンガ団がいると聞いて飛んできた……」
「それなら、あたしたちが倒しましたよ」
ヒカリちゃんの一言で固まってしまったハンサムさんは、確認するように私に向き直った。
「本当かね?」
「ええ」
「素晴らしい! 若くても、きみたちは一人前のトレーナーなんだな」
……コトブキシティで言われたことといい、どうしても腑に落ちないことがある。まさかとは思うけど、私、ヒカリちゃんと同い年くらいに見られてないわよね? ヒカリちゃんって大人っぽい顔付きをしてるし……まさかね。
でも、本当に、私のこの童顔はどうにかしたい。切実に。
「よし! わたしは逃げた連中を追いかけるとしよう!」
「行き先がわかるんですか?」
「ああ。なんでも、ハクタイにギンガ団のアジトがあるらしいのでな! では」
また敬礼を一つ残して、ハンサムさんは発電所を立ち去った。その後ろ姿を見つめて、ヒカリちゃんは眉を寄せて思案している。
「ギンガ団……」
「ヒカリちゃん? あまり深入りしないように……」
「あーっ!!」
その体のどこから声を出したのかと思うほど、大きな叫び声を上げたヒカリちゃんは、ある方向を指さした。
風を受けて、回る、廻る、風車の下。そこには、紫色の風船のようなポケモン、フワンテが浮遊していた。確か、オーバ君が進化系のフワライドを公式戦外の手持ちとして仲間にしていたはず。
「あの子です! あたしがゲットしたかった子!」
「そ、そう」
「よーし! 行くわよ、ポッチャマ!」
「チャマー!」
「レインさん、そこで見ていてくださいねー!」
先ほどまでの深刻そうな顔付きはどこへやら。ヒカリちゃんはポッチャマと共に駆け出した。
人の話を最後まで聞かず、感情のままに突き進む……絶対、ジュン君に似てきたと思う。でも、きっとそれが彼女たちらしさなのだと、心のどこかで安心した。