046.宇宙の惑星が集う


 発電所のキーをひねると、錠の外れる音が響いた。ヒカリちゃんと目で合図をして、頷き合う。
 ゆっくりと開かれた扉の先には、あのとき外で見張りをしていたギンガ団員が、驚愕した顔で立っていた。

「何!? おまえたち、鍵持っているのかよ!?」
「お花畑にいた貴方の仲間の落とし物」
「あんたたちって、ほんっとにマヌケ!」
「っ……くそ!」

 奥へと逃げ込むギンガ団を慌てて追いかける。発電用の機械の間をすり抜けて、ギンガ団は発電所の最奥へと向かった。

「幹部様! マーズ様!」

 幹部と呼ばれた女性――マーズさんは、燃えるような赤い髪をしていた。燃えているようといっても、オーバ君のように爽やかな赤色ではなく、少しの闇が混じった紅色だった。
 彼女だけは、他のギンガ団と制服が違う。その傍らでは一人の老人と……おそらく、女の子の父親らしき人が働いている。

「我々の計画を邪魔する奴らが!」
「なんですって?」

 マーズさんは、目を鋭く尖らせて私たちを睨み付けた。年齢は私とそう変わらないか少し年下のようにも見えるのに、放たれるこの威圧感は、幹部という地位が醸し出すものなのかもしれない。

「あたしはギンガ団の幹部の一人、マーズよ。今よりも素敵な世界を創り出すため、いろいろと頑張ってるのになかなか理解されないのよね。あなたたちも、わかってくれないでしょ?」
「当たり前よ! あんなに小さい子からパパを奪っておいて!」
「ナナカマド博士たちのことも襲っていましたよね。それが貴方たちのやり方なら、納得できません」
「やっぱり、理解してくれない。ちょっと悲しいけどね……だから」

 モンスターボールを手にして、壮絶に笑む姿は、彼女がバトルに絶対の自信があることを意味していた。

「ポケモン勝負でどうするか決めましょ! あたしが勝ったらあなたたちが出て行く! あなたたちが勝ったらあたしたち、ギンガ団が消えるわ!」
「望むところ!」
「待って」

 パチリスが入ったモンスターボールを、今にも投げ付けようとしているヒカリちゃんを慌てて止めた。どうして? と疑問を投げかける表情を返されて、私は静かに首を振る。

「相手は幹部を名乗っているわ。今までのギンガ団とは実力が違うはずよ。それに、ポッチャマはずっと戦い続けて疲労も溜まっているわ。パチリスだけでは危険よ」
「……わかりました」

 私の言葉の意図を理解したヒカリちゃんは悔しそうに下がった。
 私のポケモンたちは、シャワーズが少し戦ったくらいで、あとの二匹は万全の状態だ。相手の実力がどんなものかわからないけど『力』を使えば勝率は上がる。今はフェアじゃないとか言っていられない。『力』を存分に利用させてもらう。
 飛び出そうとしているシャワーズを制して、私はモンスターボールを投げた。

「行きなさい、ズバット!」
「ランターン、お願い!」

 やっぱり、相手はズバットだ。さらに『力』を使って探っていると、相手が厄介な技を覚えていることがわかった。食らってしまえば、一溜まりもないわ。

「どくどく!」
「光で目を眩ませて!」

 暗い場所を好むズバットは光が苦手、という習性を利用した。目が眩んだズバットは目標を見失い、ランターンはその攻撃を避けることができた。
 どくどくを受けてしまえば猛毒を与えられて、数分にして戦闘不能状態に陥る。次に技を放たれる前に、終わりにしましょう。

「一気に決めましょう! スパーク!」

 電流を帯びた体当たりが、ストレートにズバットへ決まった。効果は抜群。その上急所に当たったようで、一撃で戦闘不能へ。
 ズバットをモンスターボールに戻しながら、マーズさんは逆上している。

「あたしのポケモンに何するのさッ!! ブニャット、出てきな!」

 ブニャット、ニャルマーの進化系。まるまると太った体格は、実は相手を威圧するための見せかけのもので、素早さの値は高いポケモン。
 相手がどんなポケモンであれ、ランターンが怯むことはない。この子の心の強さを、私はよく知っているから。
 でも、マズいと思った。

「ランターン、みずでっ……」
「ねこだまし!」

 やっぱり、ねこだましを使ってきたわね。素早さが高い上に、先制して攻撃を出せるねこだましを使われたら、不意をつかれて技を出せなくなってしまう。ねこだましとはそういう技なのだ。

「まだまだ! ねこだまし!」

 ねこだましの連続で、ランターンはされるがままに攻撃を受けた。徐々に体力が減らされていく焦燥感にかられながら、私は勝算を見付けようと目を閉じた。
 技を先制して出されないようにするためには……隙をついて麻痺させるしかない。ねこだまし以外の技を仕掛けてきたときが、唯一のチャンス。

「さぁ! 終わらせるよ! ひっかく!」
「! 今よ、でんじは」

 頭のライトが煌めいて、微電流が流れる。攻撃と同時にランターンに触れたブニャットは、自らの体にも電流を移してしまった。これで、相手は思うように動けないはず。
 そして『力』で探る限り相手はきのみを持っている。体力を回復される前に、一気に反撃する。

「みずでっぽう!」
「ラーンー!」
「これが最後よ! スパーク!」

 みずでっぽうで攻撃して電気の通りをよくしたところに、とどめとなるスパークを放った。一歩二歩とブニャットはよろめくと、その場に崩れ落ちた。ギリギリではあったけど……なんとか、勝てたわ。

「あーらら! 負けちゃった!」

 勝負に負けたというのにどこか楽しそうに笑うマーズさんは、ブニャットをモンスターボールに戻していた。





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