045.理不尽な略奪者
木々に囲まれた花のあぜ道を、足早に進む。パキリと小枝を踏んだ音が森の静寂に消えていく。『力』を発動させなくても、野生のポケモンたちが何かに怯える気配が伝わってくる。
視界が開けると、そこには一面のお花畑が広がっていた。綺麗な景色に感動する暇もなく、そこに似合わない光景――ギンガ団たちと、彼らに囲まれた男の人が視界に飛び込んできた。
「さあ! 黙ってそのあまいミツを全部寄越せ!」
「ギンガ団はたくさんのポケモンをおびき寄せるために、それが必要なんだ!」
「あんたたち!」
勢いよく飛び出したヒカリちゃんとポッチャマに、私とシャワーズも続いた。
ナナカマド博士の時と同じだ。また、力付くで何かを奪おうとしている。さっきの会話から推測すると、男の人が持ってるあまいミツが入った壷が目的ね。
「おい! ガキと女がいるぜ! どうする?」
「誰かを呼ばれると面倒だ……まあいい。コテンパンにすりゃいいだけの話だろ!」
緊張感が風と共に駆け抜けて、その場にいる四人のトレーナーが戦闘態勢に入った。
ギンガ団は二人、私たちも二人。自動的に戦う相手が決まり、一人はヒカリちゃんに任せて、私は目の前の相手と向き合った。
ギンガ団が繰り出してきたのはズバット。私は瞬時に『力』使った。レベルは十一、控えのもう一体も同じ。
「大丈夫、勝てるわ」
「なんだと!?」
「シャワーズ」
「シャワッ」
「みずでっぽう!」
効果抜群というわけでも、急所に当たったわけでもない。それでも、シャワーズのみずでっぽうを受けたズバットは一撃で戦闘不能になってしまった。それだけ、ポケモン同士レベルの差が開いているということ。
「くそっ! 行けっ!」
思った通り、次に出てきたのもズバットだ。
「きゅうけつ!」
「避けて」
「シャワッ!」
軽やかにステップを踏み、急降下してきたズバットの攻撃を避ける。いくらズバットが素早い種族で、私のシャワーズがおっとりしていても、これだけレベルが開いていれば弱点も補える。
「おんがえし!」
二体目もあっさりと戦闘不能にしたところで、ヒカリちゃんの様子を見る。ちょうど、体に静電気をまとったパチリスをモンスターボールに戻しているところだった。その隣ではポッチャマがギンガ団を睨み付けている。
もちろん、勝負は彼女の勝利だ。
「おい! このガキ強いぞ!」
「こっちの女もだ!」
「くっ……仕方ない、ひとまず発電所に戻るか」
「覚えてろよ!」といかにも悪役らしい捨て台詞を残して、ギンガ団はお花畑から立ち去った。そのとき、キラリと光る何かが、私と戦ったギンガ団のポケットから落ちるのが見えた。
「……発電所のキー、ね」
なんて運がよく、相手にとっては不運な巡り会わせなのだろう。私は手に入れた発電所のキーをバッグにしまった。
「君たち、助かったよ! ありがとう!」
「無事でよかった! あの、あの人たちは何をしてたんですか?」
「あいつら、あまいミツを寄越せって無理矢理奪おうとしてね……これで花畑のポケモンを捕まえるとか、おかしな格好でおかしなことを言って、よくわからない連中だった!」
ヒカリちゃんと、ギンガ団に襲われていた男の人の会話を聞きながら、思案する。
ここでは、ポケモンを集めるためにあまいミツを奪おうとしていた。前――ナナカマド博士のときは、進化に関連するエネルギーの研究成果が目的だったわ。となると、谷間の発電所を彼らが占領している目的は……風力エネルギー? でも、今はそんなことよりも、一刻も早くあの女の子のお父さんを取り戻すために。
私たちは再び、発電所へと急いだ。