042.虹色が咲き誇る


――ソノオタウン――

 鮮やかな花が香る町――ソノオタウン。
 ソノオタウンを訪れたのは初めてだけれど、噂通りの町だった。赤、桃、黄、青、紫、様々な色の花が咲き誇っている。それは、自己主張するように競うような咲き方ではなくて、互いを高め合ってより美しく魅せるような、優しい咲き方だった。
 息が止まるような美しさに立ち尽くしていると、杖をついたおばあさんに話しかけられた。

「おや、見かけない顔だね。旅人さんかい?」
「はい。ナギサシティから来ました」
「まあまあ、あんなに遠いところからようこそ。小さな町だけど、自慢のお花畑があるのよ。ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」

 おばあさんは花たちに負けないくらい優しく笑って、シャワーズを撫でてくれた。
 人が行き交うコトブキシティでは、感じることができなかった優しい気持ち。咲き誇る花の香りがそうさせるのか、すれ違う人たちの表情が柔らかくて、優しい。きっと、ここは争いとは無縁の町なのね。

「本当に綺麗……あら?」

 花を眺めながら歩いていると、色とりどりの町に似合わない、無機的な色が飛び込んできた。
 町の外れに見えるそれに、覚えがある。忘れるはずもない独特なファッションは……ギンガ団だ。

「まさか、また何か悪いことを企んでるんじゃ……!」

 背丈の高い花の陰に隠れながら、彼らにギリギリまで近付いてみた。それでも、話し声は聞き取れない。耳があてにならないなら、『力』を使うまでだ。
 今までの経験から考えると、対象となるポケモンが見える範囲なら、この『力』は有効だ。ポケモンの想いが強ければ、離れていても『力』を発揮できる。
 私は、二人組のギンガ団の腰に下げられているモンスターボールに意識を集中させた。

(ギンガ団が花畑で仕事……格好悪いな)
(むしタイプやくさタイプのポケモン嫌いなんだよなー。戦いたくないなぁ)

 お花畑で仕事……? ポケモンと戦う……? ここで何をするつもりなの? ポケモンたちの思考を読んでも、間接的な情報しかわからない。
 今のところは周りに迷惑をかけてないみたいし、大丈夫かしら……?

「レインさん」

 高い声に声をかけられたのと、肩に手を置かれたのがほぼ同時で、思わずビクッと身を震わせた。ヒカリちゃんの声、だ。
 振り向いてみると、ちょうど彼女の頭の頂上で、そこに陣取っているポッチャマと視線が合った。彼女が首を傾げるのと同時に、ポッチャマも同じように首を傾げる。

「何してるんですか?」
「ポッチャ?」
「え、っと……お花を見てたの。綺麗よね」
「本当ですよね。見てるだけで嬉しくなっちゃう!」

 どうやら、ヒカリちゃんはまだギンガ団の存在に気付いていないみたい。「あっちに咲いているお花も綺麗じゃない?」と、さり気なくその場を離れる。ギンガ団の傍には、あまり近付けたくないから。
 ヒカリちゃんの頭の上からポッチャマが飛び降りたかと思えば、地面に降りてシャワーズを見上げて驚いている。進化してから初めての対面で、少し戸惑ったみたいだけど、すぐに前みたいにじゃれ合いながら私たちの後ろをついてきた。

「イーブイ、進化したんですね! おめでとうございます! 進化後の姿も可愛い!」
「ありがとう。ヒカリちゃんは、ポケッチを手に入れられたのね。ピンク色、図鑑とお揃いで可愛い」
「でしょう! あ、可愛いで思い出したんですけど、やっとニ匹目のポケモンをゲットしたんですよ!」

 肩から提げているバッグには、ポッチャマ用のモンスターボールとあと一つ、新しいモンスターボールが付いている。それを手に取って宙に投げれば、赤い閃光が煌めいた。
 出てきたのは、小さな可愛らしいでんきりすポケモン。

「パチパチーッ!」
「パチリスね」
「ソノオタウンの少し先の205番道路で捕まえたんです。もう可愛くて一目惚れで! でんきタイプだったけど、ポッチャマに頑張ってもらいました」

 えへへ、と満足そうに笑ったヒカリちゃんは、パチリスをモンスターボールに戻した。

「それから、この先にある発電所にも可愛いポケモンをたまに見かけるって噂を聞いたんです」
「粘っているところ?」
「はい!」
「仲間にできるといいわね」

 お互いに近状報告をし合いながら歩けば、いつの間にか町の中心まで来ていた。そこでカラフルな色に包まれた建物を見付けて、思わず足を止める。
 『フラワーショップ いろとりどり』
 どうやら、お花屋さんみたい。看板を見てみると、今はキャンペーン中できのみを分けてくれるらしい。
 ……そういえば。

「ヒカリちゃんと一緒にポフィン作りをする約束だったわね」
「覚えていてくれたんですか?」
「もちろん。このお花屋さんできのみをもらって、ポケモンセンターで作りましょう」
「やったぁ!」

 手を叩いて素直にはしゃいでくれると、こっちまで嬉しくなってしまう。もしも私に妹がいたら、こんな感じなのかしら。
 ナギサシティにいた頃、懐いてきてくれていたチマリちゃんを思い出して、二人の姿が重なった。





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