041.明るい陽射しの下を歩く


 テレビに出たその日は、コトブキシティに一泊することにした。ソノオタウンに行くまでには、荒れた抜け道がある。クロガネゲートの時のように、暗くなりかけてから出発して失敗しないように、少しでも明るい時間に出発しようと思ったのだ。
 ポケモンセンター内にある食堂は、トレーナーズカードさえ通せば格安で食事できるのだから有り難い。さらには、ポケモンフーズまで用意してくれるのだ。旅立ってから一番お世話になっている施設といっても過言ではない。
 軽い朝食をとりながら、そんなことをぼんやりと考えた。足下では、三匹がポケモンフーズをカリカリと美味しそうに食べている。微笑ましい光景を見ながら、ミルクたっぷりのミルクティーを飲んだ。

(レイン)
「あら。ランターン、ご飯食べ終えた?」
(うん。ねぇ、デザートをちょうだい)
「ふふっ。貴方は本当に食いしん坊ね。わかったわ」
(マスター、シャワーズにも)
「はいはい。ジーランスは?」
(いただこう)

 最初は聞き慣れなかったジーランスの声だけど、今はもうずいぶん慣れた。この子は、私にとって初めてのオスの手持ちで、落ち着いた男の人の声で考えを読みとれる。ジーランスという種族は歯がなくて、微生物を食べて生きるらしいけど、他の食べ物も食べられないわけじゃないみたい。
 私はポフィンケースからいろんな色のポフィンを取り出して、みんなに差し出した。道中、いろんなきのみが生っているので、こうしていろんな種類のポフィンを作ることができるのだ。

「シャワーズは苦い味ね。ランターンは甘い味。ジーランスは何味が好き?」
(辛い味はあるだろうか?)
「あるわよ。はい」

 美味しそうに食べてくれる三匹の姿を横目で見ながら、私は残りのミルクティーを喉に流し込んだ。腹ごしらえも済んだし、いよいよ次の町に出発だわ。
 ランターンとジーランスをボールに戻して、食べ終えたトレーを返却カウンターまで持って行き、ポケモンセンターを後にした。

「今日はどんな景色が見られるかしらね」
「シャワー」

 ご機嫌なシャワーズが、私の斜め後ろをついてくる。向かうのは、コトブキから北に伸びた204番道路だ。

 204番道路も、自然が溢れた素敵な道だった。木立が道の脇に立ち並び、小さな池がいくつも存在する。
 シャワーズは時折、池に飛び込んで水浴びをしながらついてきた。みずタイプに進化してから、水遊びが好きになったのかしら。シャワーズは元々、ナギサにいた頃から海が好きだったのだけど。
 すれ違うトレーナーとバトルを交わし、野生のポケモンと戦いながらしばらく歩くと、小さな洞窟の入り口が見えてきた。入り口の数メートル上には、その出口がある。コトブキとソノオを行き来するために、高台をくり抜かれて作られた――それが荒れた抜け道だ。
 入らなきゃ。クロガネゲートほど長くはないでしょうし。
 心の準備を兼ねて、入り口付近で深呼吸を繰り返す。
 すると、後ろから肩をトントンッと叩かれた。
 振り返った先には誰もいなくて、少し視線を下に向ければ、チマリちゃんくらいの男の子がそこにいた。

「お姉ちゃん、荒れた抜け道を通るの?」
「え、ええ」
「でも、今は岩が道を塞いでるんだ。ポケモンのひでん技がないと通れないよ……」
「それなら平気なの。私のポケモン、いわくだきを覚えているから」
「本当!? それなら僕も一緒に連れてって! 僕、おつかいでコトブキシティに来たんだけど、帰り道が岩で塞がってて帰れなかったんだ」
「もちろん、いいわよ。行きましょう」

 安心させるように微笑みながら右手を差し出せば、男の子は素直に自分の左手をそれに絡めてきた。正直、助かったわ。一人よりは、小さい子でも一緒にいてくれたほうが断然いいもの。
 荒れた抜け道の中は、クロガネゲート以上にデコボコしていた。男の子が岩と間違えてイシツブテを踏みつけてしまったときは、すかさずシャワーズがみずでっぽうで追い払ってくれて、それ以外は特に問題なく順調に進めた。
 荒れた抜け道の中にはイシツブテと見間違えるような大きな岩もたくさんあって、その中の一つが道を塞いでいる。きっと、横に積み上げられた岩が崩れてきてたのね。
 私はモンスターボールからジーランスを呼び出した。

「ジーランス、いわくだきでこの岩を壊してくれる?」

 かなり大きい岩だから壊せるか心配だったけれど、ジーランスはその自慢の岩よりも硬い鱗を持って、道を塞いでいる岩に向かっていった。
 直後、響く轟音。さすがは岩タイプを併せ持つ、力自慢のポケモンだ。一回のいわくだきで、岩は私たちが通れる大きさに粉砕されてしまった。

「わぁ! お姉ちゃんのポケモン凄いね!」
「ふふ。ジーランス、ありがとう」

 ジーランスをモンスターボールに戻して、はぐれないようにと男の子の手を引く。それは単に口実で、誰かの温もりがなければ私がこの薄暗さに耐えられないからなのだけど。
 クロガネゲートを通ったときに傍にあったゲンさんの体温を思い出して胸が疼いたとき、視界は一気に明るくなった。高台から下を見下ろしてみると、そこからはさっきまで通ってきた木立の道が見えた。

「お姉ちゃん、ありがとう! 僕、ママが待ってるから急ぐね!」
「ええ。転ばないように気を付けてね」
「うん!」

 元気よく男の子が走り去ったあとを、のんびりと歩いた。鼻を擽る甘い香りが、ここからでもよくわかって、自然と足取りも軽くなってきた。
 ソノオタウンは花に囲まれた、年中が春のような町なのだ。出会う人たちもきっと、暖かくて優しい人たちばかりなのでしょう。
 穏やかな気持ちを胸に抱いて、私は町のゲートをくぐった。



Next……ソノオタウン


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