039.銀河を巡る星屑達よ


 ギンガ団は雷にでも打たれたかのように愕然としていた。自分たちよりも明らかに格下と思っていたトレーナーに敗北した、その事実にショックを隠しきれないみたいだった。

「なんと、負けてしまった……!? 我々が?」
「これはいけません。作戦大失敗です」
「仕方ないです、ここは引き上げましょう」

 戦闘不能となったニ匹をモンスターボールに戻し、ギンガ団は足早にそこを立ち去った。少し離れた場所にいたナナカマド博士が、私たちの隣に並び、遠ざかっていく後ろ姿を見ながら顔をしかめた。

「あの困った連中、ギンガ団だと言っていたが……」

 ふうむ、とナナカマド博士は顎に手を当てて、考え込むように少し俯いた。

「確かにポケモンが進化するとき、何かしらのエネルギーを出しているのかもしれん。が、それは人にはどうにもできぬ、神秘の力だろうな。なのに、ギンガ団はそれが何かに使えるエネルギーなのか調べようとしていたようだ」
「どういうことですか?」
「レインさん、博士はポケモンの進化について研究しているんです。なんでも、博士の研究だとポケモンの九十パーセントは進化に関係するんだって」
「だから、さっきのギンガ団は博士の研究データを奪おうとしてきたのね」
「はい! そんなの、ダメですよね!」
「まあ落ち着きなさい。おまえたちのおかげで、なにも起こらずに済んだのだ。感謝しているぞ。レイン君もコウキも、互いを助け合った見事な戦いぶりであったな」

 コウキ君と目を合わせれば、彼は照れくさそうに笑っていたから、私もにこりと微笑み返した。
 ギンガ団の二人にはなくて、私とコウキ君にはあったもの。それは、組んだ相手を想う気持ちで、きっと今回の勝因の一つだ。シャワーズがヒコザルを手助けたように、ヒコザルがシャワーズを庇ったように。タッグバトルでは、組んだ相手との連携も大切な要因の一つだと、今回学ぶことができた。

「ところで、レイン君」
「はい」
「思ったのだが、旅のついでにシンオウ地方にある全部のバッジを集めてはどうかな?」
「ええ。せっかくシンオウを回りますから、ジム戦にもチャレンジするつもりです。そうすれば、より多くのポケモンに出会えますものね」
「うむ! ポケモン図鑑のページもどんどん埋まり、わたしも助かるよ。まあ、図鑑はきみに託したのだ。きみの好きなようにやってみなさい。行くぞ、コウキ」
「はい! レインさん、またどこかで!」
「ええ」

 まだコトブキに滞在するのか、それともマサゴタウンに帰るのか。二人はコトブキシティの街の中に消えて行った。
 二人と入れ違いに、スーツを着た男の人が近付いてきて……いきなり、手を捕まれた。

「いやー、今のいいっ!」
「きゃ」
「いいですよ! 本当に!」

 男の人は満面の笑みでそう言いながら、掴んでいる手を勢いよく振った。初対面の人の突拍子もない行為に目を点にして、私はただされるがまま。呆気にとられた私の様子に気付いたのか、男の人は慌てて手を離すと、名刺を差し出してきた。

「すみません。わたしテレビコトブキの者です」
「はぁ……ご丁寧にどうも」
「いいポケモン勝負を見せてくれたお礼にこれをどうぞ!」
「え? いえっ、そんな」
「遠慮せずに、ささ!」

 男の人はバッグから箱のようなものを取り出すと、半ば強制的に私に押しつけてきた。勢いに負けてそれを受け取り、開いてみると中にポケモンのアクセサリーが入っていた。キラキラしたパウダーや、ふわふわの綿毛、可愛らしいリボン、その他諸々。
 ……彼に何かをしたわけではないのに、いいのかしら。

「ところで、ご相談なのですが」
「え?」
「貴方とシャワーズ、お二人でテレビに出てみませんか?」

 ……テレビに出る? 私が?
 どちらかといえば、ううん、はっきりいうと、私はオーバ君と違って目立つことが苦手だ。無理です、と言い掛けたけれど、にこりと笑う男の人を見たとき、私はやっと気付いた。アクセサリーケースはその報酬のようなものだと。受け取ってしまったからには、返せない。
 そしてこの数時間後、私はテレビ局の撮影セットの中に座ることになるのだった。





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