038.1たす1は?


 ギンガ団が繰り出してきたのは、スカンプーとニャルマー。どちらも進化前の姿だし、見たところレベルもそこまで高くなさそうだわ。きっと、大丈夫。

「ヒコザル! 頼むよ!」
「シャワーズ! お願い!」

 コウキ君が投げたモンスターボールからはヒコザルが飛び出てきた。そして私が繰り出すのは、一連のことの流れを見ていてすでに戦闘態勢に入っていたシャワーズだ。
 タッグバトルをするからには、この子の使える技で試してみたい技があったのだ。

「シャワーズ。ヒコザルをてだすけ!」
「シャワー!」
「なるほど。よし! ヒコザル、ひのこだ!」
「ヒコーッ!」

 てだすけとは、タッグバトルでのみ威力を発揮する、組んだ相手が繰り出す技の効果が増す技。シャワーズの手助けを受けて発動したひのこの威力は、ヒコザルだけで繰り出すよりも増す。ニャルマーは一撃で戦闘不能に陥った。

「くっ!」
「情けない……スカンプー、どくガスを撒きなさい」
「「!」」

 スカンプーは見た目でもわかるとおり、どくタイプを持つポケモン。体中の毛を膨らませ、そこから紫色の悪臭を漂わせるガスを放つ。
 ヒコザルは素早く避けたけど、シャワーズは反応しきれずガスを吸い込んでしまった。
 ガクリとひざを突いて、苦しそうに息をしている。徐々に体力を奪われているのが、ここからでもわかる。

「シャ……シャワ……ッ」
「シャワーズ! 無理しないで!」
(まだ、頑張れる)
「シャワーズ……」

 足にグッと力を込めて、立ち上がるシャワーズの後ろ姿を見たら、モンスターボールに戻せないじゃない。……それならば、早くバトルを終わらせてあげたい。
 今の私とシャワーズなら、前よりもきっとこの技の威力は大きいはず。

「おんがえし!」
「シャワッ!」

 私の予想は外れていなかった。シャワーズが渾身の力を込めてぶつかれば、スカンプーの体力を残り僅かまで削ることができたみたいだ。でも、微かに残った体力で、シャワーズに反撃を開始する。

「みだれひっかき!」

 小さくも鋭い爪が、シャワーズを襲う。あの子にも体力はまだ残っている。でも、毒の周りが速くて上手く動けないみたいだ。
 次々に攻撃を受けているシャワーズを見ていられなくて、手で目を覆いたくなった。シャワーズ……!

「ヒコザル!」

 混乱する私の隣から聞こえてきた、コウキ君のはっきりとした声。ヒコザルは、シャワーズを横に押し出して、自らが技を受けた。そして、キッと相手を睨みつける。

「かえんぐるまだ!」

 ヒコザルは自ら回転して、その体に炎をまとった体当たりを繰り出した。もちろん、これでスカンプーは戦闘不能だ。
 私と同じくらいの身丈の彼が、なぜかとても大きく見える。初めてコウキ君のバトルを見たけど、バトルが苦手だなんてとんでもないわ。冷静な判断力と味方までも配慮する気持ちは、駆け出しのトレーナーにはとても身に付けられない能力だもの。

「レインさん! シャワーズにこれを!」
「ありがとう」

 コウキ君はリュックからどくけしを取り出すと、すぐに私に差し出してくれた。ぐったりしているシャワーズに駆け寄って、まずはどくけしを使って、それからナギサシティを旅立つときに父さんがくれたキズぐすりを使う。

「シャワーズ、大丈夫?」
「シャワシャワッ!」
「よかった……」

 私に心配かけないように微笑んで、元気よく立ち上がるシャワーズを見たら、心の底から安心できた。
 トレーナーズスクールで、ジュン君が言っていた言葉が頭をよぎる。ポケモンが傷つかないように頑張るのがトレーナー。……本当にそうだわ。
 ごめんなさい、貴方が傷付かないように私、頑張るからね。ひんやりとしたこの子の体を抱きしめながら、そう誓った。





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