031.時空を越えて巡り逢う
ヒョウタ君が進むままにしばらく歩いていると、彼はある場所で立ち止まり、地下通路の天井を見上げた。
「この辺は、実は海の下なんだ」
「本当? なんだか不思議な感じ」
「だろう? じゃあ、はい」
満面の笑みで渡されたのは、一組のハンマーとピッケルだ。とりあえず受け取ってはみたものの、使い方なんて素人の私にわかるわけもない。
ヒョウタ君に目で訴えかけてみると、彼は自分のハンマーを地下通路の壁に当てた。そこにはちょうど、小さな亀裂が走っていた。
「これで、ヒビが入った壁を叩くと……」
ヒョウタ君がハンマーで何度か強めに壁を叩くと、鈍い音が通路内に反響した。天井まで崩れたりしないわよね……? と、若干不安になってくる。
でも、大きな音を立てて崩れたのは、亀裂が入っていた部分周辺の壁だけだった。
「ブイッ!?」
「あはは。びっくりしたかい?」
「ブイー」
「こうやって掘っていけば……ほら、こんな風に何か埋まってるときがあるから」
崩れた破片の中からヒョウタ君が摘み上げたのは、虹色に光るハートの鱗だった。
なるほど。とりあえず、ヒビが入っている壁を叩けばいいのね。
「わかったわ。私もやってみる」
「じゃあ、僕は反対側の壁を掘るから、わからないことがあったら聞いてね」
「はい」
「ラムパルドを連れてきたから、崩れた壁は退けてもらおう」
ヒョウタ君の腰に下げたボールから、ラムパルドが飛び出した。デンジ君から聞いたことがある気がする。確か、この子はヒョウタ君が初めて発掘したずがいのカセキから復元したポケモンだっけ。
私も、化石を見つけることができるかしら。難しそうだけど、実は少し楽しみなの。ワクワクしながら、与えられたピッケルを握りしめた。
でも、そう都合よくことが運ぶわけもない。ヒビが入っていても壁は固くて、なかなか崩れない。ヒョウタ君からグローブを借りたけど、それでもすぐ手のひらにいくつか肉刺ができてしまった。
一時間ほど経過したあとも、出てくるのはただの石ばかり。反対側からは、「しらたまかー」「リーフの石が出てきた! 今度ナタネにあげようかな」「よしっ! かわらずの石が見えてきたぞ!」と、ヒョウタ君の嬉しそうな声が聞こえてくる……あ、また、ただの石が出てきたわ。
最初はため息をついて反応してくれていたイーブイも、今や欠伸までする始末。化石掘り、私には向いていないのかもしれない。
「レインちゃん、調子はどう?」
「んー……ヒョウタ君は?」
「絶好調だよ! 今日はいつもよりかなり調子がいい!」
「そう……あら?」
パラリと、薄く壁が崩れたところに、今まで出てきたものとは少し違う石が見えてきた。
「何か変な模様が入ってるわ……この石」
ハンマーからピッケルに持ち替えて、その石の周りを慎重に叩いてみる。私とヒョウタ君の間を往復していたイーブイも、私のところに戻ってきた。
「出てきた……」
周りの壁と一緒に、その石も崩れ出てきた。
私の手のひらより一回りくらい大きい、それ。表面がなんだかみずポケモンの鱗みたいにガサガサしている。考えるより、きっと聞いたほうが早いわね。
「ヒョウタ君、これなぁに?」
「え?……んん!?」
ヒョウタ君は壁を叩く手を止めて、眼鏡をかけ直しながら、まじまじと私が持ってきた石を見つめる。「変な模様の石よね」と言えば「石じゃなくて化石だよ!」と、吃驚する答えが返ってきた。
「見たことのない化石だ……この模様、鱗にも見える……もしかしたらポケモンかもしれない」
「本当?」
「うん! あとからクロガネ炭鉱博物館に行ってみよう。もしポケモンなら、復元してくれるよ」
「化石になる前のポケモンが見られる……ってこと?」
「そういうこと!」
ということは、ヒョウタ君の隣にいるラムパルドのように、手のひらの化石が息を吹き返すということだ。違う時を生きていた私たちなのに、現代でこうやって出会うなんて、すごく不思議だった。
ねぇ、貴方はどんな時代を生きていたの? 目覚めたら私に聞かせてね、たくさんの貴方のことを。