024.強さの証を手に
コトブキシティを見て回らないといけないけど、まずはポケモンセンターに向かいましょう。イーブイとランターンのおかげで202番道路での勝負にはすべて勝てたけど、ノーダメージというわけではなかったもの。二匹の体力を回復させることが、最優先だわ。
辺りを見渡せば、大きな道路を挟んだちょうど反対側に、真っ赤な色が目立った建物が目に付いた。真っ赤な屋根と、同じ色のP.Cの文字。それはシンオウだけでなく各地方でも共通した、ポケモンセンターの目印だ。迷うことなく、私は歩道を渡ってポケモンセンターに向かった。
「わぁ……ナギサシティのポケモンセンターより広いわね」
ポケモンセンターの中は、お昼を過ぎたくらいの時間だからか、少し慌ただしかった。ジョーイさんと助手のラッキーたちは右へ左へ動き回り、ポケモンの回復を待つトレーナーたちはポケモンセンター内のレストランで食事をとっている。少し、時間がかかりそうだ。
私はイーブイと、ランターンが入ったモンスターボールを受付カウンターに乗せて、ジョーイさんに話しかけた。
「すみません。回復をお願いしたいんです」
「はい。お預かりしますね。トレーナーズカードをご提示ください」
「実は、まだ届いていないんです。もう届く頃だと思うんですけど……」
「お名前を伺っていいですか?」
「レインです」
「少々お待ちくださいね」
ジョーイさんはにこやかにそう言うと、ポケモンセンターの奥に姿を消した。
それから、待つこと数分。眠りかけているイーブイを撫でていると、ジョーイさんが受け付けカウンターに戻ってきた。
「お待たせしました。トレーナーズカードが届いていましたよ。はい、こちらです」
ジョーイさんから差し出されたそれは、昨日コウキ君から見せてもらったものと同じだった。
薄いコンパクト状のトレーナーケースの中の、開いて上半分にはナギサシティで撮った全身写真や、私のトレーナーナンバーが記されたトレーナーズカードが挟まっている。これが、ポケモンセンターを利用するときやジム戦をするときに、身分証明となるのだ。
ケースを開いて下半分にはジムリーダーの顔写真があり、さらに底を開けると、ジムバッジを入れるスペースがあった。もちろん、デンジ君の写真とビーコンバッジを入れるスペースだってある。
「では、ポケモンをお預かりしますね。回復が終わりましたらお名前を呼びますので」
「はい。あの、少し外に出てきてもいいですか?」
「ええ。大丈夫ですよ。少々お時間をいただくと思いますので」
「よろしくお願いします」
軽く会釈して、私はイーブイに手を振りながら外に向かった。イーブイは少しだけ心細そうに私を見ている。なるべく、早く戻ってくるようにしないと。
外に出てみれば、太陽が傾きかけていた。お昼を回って、しばらく経ったくらいかしら。頑張れば、私もクロガネシティまで行けるかもしれない。
時間を無駄にしないために、一人でこの広いコトブキシティを回ることにした。でも、これだけ人が多いんだもの。きっと、知ってる人に会ってもわからないわね。
テレビ局やグローバルターミナル、ポケッチカンパニー、それからもう一度トレーナーズスクールにも行ってみたけど、収穫は何もなし。強いていうなら、街のいろんなところにいる風船を持ったピエロが気になるけど……それは、別の気になるという意味で。
アヤコさんに初めて会った気がしなかった感覚や、シンジ湖でアカギさんという人に会ったときのような感覚は、見付けられないままだった。
結局、気になるところは最後まで見付からなかった。でも、この広い街を回るのに予想外に時間がかかってしまって、ポケモンセンターに戻ったのは数時間後だった。
夕焼けに染まりつつある街を駆け抜けて、もう一度ポケモンセンターを訪れる。私に気付いたジョーイさんは、顔を覚えていてくれたのか、私を見るなり脇にいたイーブイを抱き上げて、手渡してくれた。
「すみません。ちょっと遅くなっちゃって」
「いいえ。ポケモンたちはみんな元気になりましたよ」
「ありがとうございます。イーブイ、遅くなってごめんね」
「ブイー」
私の胸に顔をすり寄せるイーブイに、思わず笑みが零れる。しっかりしているように見えて、この子は意外と寂しがり屋なのだ。……少し、私に似ちゃったかもね。
反対に、モンスターボールの中にいるランターンはリラックスしきった様子で、また別の意味で笑みが零れた。
「イーブイ、ランターン」
腕の中と、バッグに入れたモンスターボールから視線を向けられる。
ねぇ。貴方たちは、ただ私の旅についてくるだけじゃ物足りないでしょう?
「自分の力を試したい?」
野生のポケモンと戦って、トレーナーのポケモンと戦って、そして勝利して、自身に力がついてきていると、確実に手応えを感じているはず。
その力が本物だと、証明できる何かが欲しい?
そう問えば、イーブイは凛とした声で鳴き、ランターンは頭のライトを点滅させた。
「急げば、日没までにはクロガネシティに辿り着くわ」
二匹の答えに、私自身も決意を固めた。
「行きましょう。クロガネシティに。最初のジム戦に」
強さの証を手にするために、次なる目的地は定まった。岩肌に囲まれた炭鉱の街――クロガネシティへ。