023.負けられない人がいる


「隣の部屋。……あ、ここね」

 ジュン君がいた教室のさらに奥には、防音された特殊な造りの部屋があった。そこは、ポケモンバトルの実践練習をするための専用の部屋だった。
 半分はガラス張りになって室内の様子は見えるけど、防音されているからトレーナーが指示する声や技の音は聞こえてこない。他の部屋で授業をやっていても、これなら支障がなさそうだ。
 私は室内に入ると、バトルフィールドの片隅で、今まさに行われているバトルを観覧した。
 バトルフィールドの真ん中で戦っているのは、ポッチャマとムックル。ポッチャマのトレーナーは、もちろんヒカリちゃんだ。ポッチャマのあわ攻撃が見事に決まって、相手のムックルは戦闘不能になった。

「やったぁ! 勝ったわポッチャマ!」
「ポッチャー!」
「次はあたしと勝負してよ!」
「望むところ!」

 次は、同い年くらいの女の子とバトルするみたい。立て続けに大丈夫かしら……と思ったけど、いらない心配だったみたい。女の子が繰り出したビッパを相手に、ヒカリちゃんはポッチャマに的確に指示を出して確実に勝利へと導いている。
 勝負がつくまでに、数分もかからなかった。ビッパ相手に渾身のはたく攻撃を決めたポッチャマの、鮮やかな勝利が決まった。

「きゃー! やったー! ポッチャマありがとう!」
「ポチャポチャ!」
「おめでとう、ヒカリちゃん」
「レインさん! イーブイも!」

 対戦相手からファイトマネーを受け取ったあと、ヒカリちゃんはポッチャマを抱きかかえて私たちのほうに駆け寄ってきてくれた。
 ジュン君のときと同じように、ヒカリちゃんにも変化を感じる。さっきの戦いからも感じられた自信が、彼女から溢れているようだった。

「見てくれましたか? あたしのバトル。強くなったでしょ?」
「ええ。ポッチャマだけで二体の相手をするなんて、すごいわね」
「えへへ。あっ……そういえば、ごめんなさい。レインさんがポケモンと話せること、勝手にナナカマド博士たちに話しちゃって……」
「ううん、いいの。気にしないで。ヒカリちゃんは、他にはポケモンをゲットしてないの?」
「はい。なんかこう……可愛いポケモンがまだ見付からなくって」

 そういえば、コウキ君はコンテストを重視してバランスよくポケモンを捕まえていた。そう考えると、ヒカリちゃんはやっぱり若い女の子だ。バランスやポケモンのステータスよりも、見た目が可愛いらしいポケモンが好みなのかもしれない。

「レインさんもバトルをしに来たんですか?」
「私はヒカリちゃんを探してたの」
「あたしを?」
「はい。これ、お届け物のタウンマップよ」
「わぁ! ありがとうございます!」

 封筒ごと手渡すと、ヒカリちゃんは早速中身を開いた。真剣にタウンマップを見つめる眼差しは、ジュン君と同じように、次なる目的地を定めている。きっと、目指す場所は同じ。

「んー、次はクロガネシティでジム戦でもしようかな。よーし! 今度こそジュンより先に……」
「ジュン君ならもう行っちゃったわよ?」
「えー!? 本当ですか!? また先を越されちゃったぁ!」
「さっき飛び出していったから、急げばまだ間に合うかもしれないわ」
「じゃあ、あたしたちも急ぎましょう! ポッチャマ!」
「ポチャー!」
「レインさん! またどこかで!」

 私に大きく手を振りながら、ヒカリちゃんもバトルフィールドを飛び出していった。少しだけ、ジュン君に似てきたんじゃない……? とは、本人たちの前では言わないけど。思わず、クスリと笑みが零れた。
 ヒカリちゃんのパートナー、ポッチャマはみずタイプのポケモン。ジュン君のナエトルと同じように、いわタイプには強い。きっと、二人ともヒョウタ君を相手に、いい勝負ができるでしょう。そしてまた、次なる高みを目指すのだ。

「いいライバルがいて羨ましいわね」
「ブイブイ」

 互いを認めて刺激しあい、より互いを高めあえる。幼馴染にして最高のライバル。それが、ヒカリちゃんとジュン君の関係なのね。





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