172.痺れて熱く燃え上がれ


〜DENJI side〜

 レインはオレのバトルを何度も見てきた。だから、オレが何を出すか。どんな戦い方をするか。既に知っているだろう。
 さあ、みずタイプのポケモンだけでどう攻略するつもりだ?

「サンダース。でんこうせっか」
「シャワーズ! アクアリング」

 攻撃するためではなく相手を翻弄させるためにでんこうせっかを使った。それに惑わされず、シャワーズは自身に水の輪を纏わせた。
 レインらしいと言えば、らしいな。ポケモンのためにまずは回復源を確保させるか。

「チャージビームだ」
「避けて!」

 みずポケモンはでんきタイプの技に極端に弱い。それを一撃でも食らったら速効でダウンだとわかっているだろう。だから、指示を出すレインも、それを聞いて避けるシャワーズも必死だ。
 最初の一撃は避けれたようだが、次もそうはいかないだろう。サンダースの俊足に匹敵するポケモンはそういない。このスピードについて来られるか?
 オレはサンダースにチャージビーム連発させた。シャワーズは電気の光線を左へ右へと必死に避けた。
 しかしそのとき、シャワーズが足を滑らせた。

「もらったな」

 シャワーズに向かって、光線が一直線に飛んでいく。するとシャワーズは、自身の輪郭をドロリと崩して、寸前でチャージビームを避けた。とける、か。
 再び形をなして現れたシャワーズに、サンダースはまた攻撃を仕掛ける。

「でんこうせっかで間合いを詰めてアイアンテールだ」

 動体視力が低い者の目には、サンダースがまるで瞬間移動したかのように映ったことだろう。数秒とかからずシャワーズの目の前まで移動し、鋭い針の尾をさらに硬化させてシャワーズに叩きつけた。
 しかし、シャワーズは数回ふらついたくらいで、そう大きなダメージを受けていないようだ。
 どうもおかしい。あれだけ連発したチャージビームも、たった一発しかシャワーズを撃ち抜く機会はなかった。そして、このアイアンテールだ。いつもに比べて明らかに威力が低い。

「……サンダース。おまえ」
「……」

 サンダースは申し訳なさそうに、微かに耳を垂れた。……ああ。惚れた弱み、か。

「れいとうビームよ!」

 シャワーズが放った冷気の光線はサンダースを直撃し、さらにはその足下を凍り付かせた。

「ハイドロポンプ!」

 サンダース、戦闘不能。
 仕方がなかった、と言えば言い訳に聞こえるだろうか。しかし、オレにはサンダースを責められない。オレだって、テンガン山でレイン自身に攻撃を仕掛けるとき、本気で攻撃なんてできなかった。

「行けっ、レントラー」
「シャワーズ、戻って! ジーランス!」

 次は物理受けに特化した、みずタイプといわタイプを併せ持つポケモンか。物理攻撃力が高いレントラーに対して出してきたことは、考えていると言えるだろう。

「もろはのずつき!」
「迎え撃て。かみくだく」

 あえてジーランスの攻撃を受け止めて、その堅い体に噛み付かせた。ゴリゴリっという音がした。想像以上のダメージに、レインは目を見開き、呟いた。「闘争心……」そう、ご名答。オレのレントラーはバトルのとき、同性であるオスのポケモンに対しての攻撃力が上昇するのだ。

「っ、ジーランス! げんしのちから!」
「避けろ」

 レントラーは盛り上がる岩の合間を掻い潜ると、素早くジーランスに近付いた。

「かみなりのキバ」

 再びその堅い皮膚に噛みつき、傷口から直に電流を流し込めば、ジーランスは戦闘不能となった。
 さあ。次は何を出す?

「ラプラス! れいとうビーム!」

 レントラーの特性を警戒してメスを出してきたか。しかし、まさかそれだけでこいつを攻略したつもりとは言わせない。

「ほのおのキバ」

 れいとうビームを熱い牙で受け止めて、噛み消した。オレのレントラーは炎、雷、そして氷の三つの牙を覚えている。どんな相手にも対応することができるのだ。

「ほうでんだ」

 バトルフィールド中に電流が満ちた。焦げ臭い臭いが鼻を突く。煙が晴れる前から結果はわかっていたが、やはり戦闘不能になったのはラプラスのほうだった。
 レイン。おまえの実力はこの程度なのか?

「ミロカロス、お願い! アクアリング」

 またオスを出してきた、か。何か策があるのか、それとも頼れるポケモンにオスしかいないのか。
 どちらにせよ関係ない。向かってくる者は倒す。ただそれだけのことだ。

「でんげきは、だ。終わらせろ」
「ひかりのかべ!」

 レントラーの頭上に作られた雷球から迸った雷撃は、ミロカロスを守るように作り出されたひかりのかべに、その威力を半減された。そんな壁、壊してやるさ。

「あやしいひかり!」
「!」

 壁に守られているうちに、状態異常の技を仕掛けてくるか。しかも、うまいこと混乱してしまったようだ。今日は運が悪い。

「壁が消えるまで物理で攻めるぞ。かみなりのキバ」

 でんきタイプの技を使って早いところ片を付けようとしたが、混乱しているせいかうまく狙いを定められないようだ。その隙に、ミロカロスは次なる技を放ってくる。

「どくどく!」

 混乱していて視界さえも定まらず、攻撃を避けることさえままならないのだろう。ミロカロスが放つ猛毒を、レントラーは易々と浴びてしまった。じわじわと体力が奪われていき、混乱は未だ解けない。
 なるほど。回復源を確保して、ポケモンが傷付かないように守りを固めた上で、ポケモンが有利に戦える状態に状況を持って行く。自分のポケモンのことを第一に考える――それがレインの戦い方か。
 しかし、オレにもレントラーにも意地がある。これで終わらせるわけがないだろう。

「レントラー、よく狙いを付けろ。かみなりだ」

 邪念を振り払い、精神を集中させ、最大電圧の雷を落とす。それは見事、ミロカロスに命中した。その威力に破れ、光の壁も崩れた。
 しかし、雷はさらに威力を増してレントラーに返ってきた。

「ミラーコート」

 レントラー、戦闘不能。――ぞくり。少しだけ胸が震えた。

「ライチュウ。十まんボルト!」

 これでミロカロスも戦闘不能だ。
 続いて、レインはランターンを繰り出してきた。ランターンの特性の一つに蓄電がある。電気技は効かないと思ったほうがいいだろう。

「ランターン!」
「ライチュウ!」
「「シグナルビーム!」」

 二つの光線がバトルフィールドの中心でぶつかり、爆発し、相殺した。発生した煙を目眩ましとして利用し、ライチュウはランターンに近付いていく。そして煙から抜け出して高くジャンプすると、空中で一回転して尻尾を振り下ろした。

「行け! アイアンテールだ!」
「バブルこうせんで目眩ましよ!」

 眼下から泡が大量に発生し、視界を奪われたライチュウは狙いを外した。それと同時にダメージが与えられ、体勢を崩したライチュウは地面に激突してしまった。
 オレは唾をゴクリと飲み込んだ。このランターン、強い。レインの指示をよく聞き、絶妙なタイミングで体を動かし、強力な威力の技で相手を沈める。さすが、レインを守ると強く誓っただけはある。

「もう一度、バブルこうせん!」
「でんこうせっかで掻い潜れ!」

 想いの強さは、オレのポケモンだって負けてはいない。ライチュウは強烈な泡の光線にも怯まずに、その中に飛び込んでランターンに体当たりをかました。同時に、ランターンは麻痺状態に陥った。ライチュウの特性である静電気だ。

「終わらせろ! きあいだま!」

 巨大な玉を頭上に出現させたライチュウは、勢いづけてそれをランターンへと叩き付けた。
 ランターン、戦闘不能。これでレインの手持ちは残り二体のはずだ。
 ありがとうと呟いてランターンを戻したレインが続いて繰り出したのは、トリトドンだった。
 トリトドンはみずタイプだけでなく、でんきタイプ使いが最も苦手とするじめんタイプを併せ持ったポケモンだ。じめんタイプのポケモンが相手ならこおりタイプの技で何とかなるが、それに水が入るとなるとこおりタイプの技の威力が軽減される。対オレへの切り札、か。

「トリトドン! じしんよ!」
「ひかりのかべだ!」

 今度は速効で終わらせるつもりか。だが、そうはさせない。ひかりのかべを作り出すことにより、ライチュウは何とか持ちこたえた。素早さはこちらが遙かに上だ。一気に攻めさせてもらう。

「でんこうせっかに続いてアイアンテールだ! 行け!」

 一気に間合いを詰め、アイアンテールを繰り出させる。攻撃する暇を与えないよう、次々と連続で堅い尻尾を叩きつけていく。レインはぐっと唇を噛む仕草を見せたが、すぐに冷静なる判断を下した。

「トリトドン! のしかかってライチュウの動きを止めて!」

 時を見計らい、骨のない体をうねらせて攻撃を避け、トリトドンは粘着性のある体全体でライチュウにのしかかってきた。ライチュウは逃れようとジタバタ足掻いたが、地面とトリトドンの間に密着するように挟まれて脱出は不可能だった。最後の悪足掻きとして電撃を放ったが、やはりトリトドンには効果がない。

「だいちのちから!」

 ライチュウ、戦闘不能。オレはライチュウをモンスターボールに戻した。
 ……ああ、ぞくぞくする。ここまでオレの本気を引きずり出してくれたトレーナーが、今までにいただろうか。この前、戦いを挑んできたヒカリとジュンだって、オレに相棒を出させるまでに至らなかった。それをレインが、しかもみずタイプのポケモンたちとのバトルで叶えてくれるとは!

「なるほど! 確かに強くなったようだ! だが、オレたちだって強いぜっ! こいつが! オレの! 最後の切り札!!」

 エレキブルを繰り出して、速効でギガインパクトを叩き込んだ。トリトドン、戦闘不能。残るはシャワーズのみ。
 追いつめられた者同士、ギリギリのバトルをしよう。痺れ火花を放つような、スパークする戦いを繰り広げようじゃないか!

「レイン! お互い最後の一体だ! 悔いが残らないようなバトルにしよう!」
「ええ!」

 弾んだ声がバトルフィールドの反対側から聞こえてきた。声色から、レインが嬉しそうに笑っているように感じた。ああ。オレも楽しいし、嬉しいよ。こんなに痺れるようなバトルを、まさかレインとできるとは思わなかったから。
 今のオレにとって、勝つか負けるかはさほど重要ではなかった。この楽しい時間を少しでも長く続けたい。ただそれだけだった。
 オレたちは同時に指示を出した。黄色と青の閃光が、バトルフィールドを激しく揺らした。



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