162.因縁に錠をかけて


〜DENJI side〜

 アカギはヘルガーを繰り出してきた。ならば、こちらはレントラーだ。

「かえんほうしゃ」
「ほうでん!」

 赤と黄色、二つの熱がちょうど中間で激突する。双方の力は今のところ同等、激しく押し問答状態だ。
 確かに、強い。しかし。

「オーバのヘルガーに比べたら、なんてことないな。レントラー!」
「ガルッ!!」

 いつも、オーバのヘルガーの激しく燃えさかる火力を受けているレントラーにとって、この程度の炎なら大したことはない。
 地獄の業火を押し切り、炎と雷の両方をヘルガーに浴びせる。ヘルガーは戦闘不能となった。

「強くなったな、デンジ」
「ふん」
「マニューラ。れいとうパンチ」

 アカギの隣に控えていたマニューラが、疾風の如く速さで動いた。氷をまとった拳がレントラーに叩き込まれ、そこだけ凍り付き凍傷のようになってしまった。さすがに、速い。
 オレはレントラーをモンスターボールに戻し、その隣のモンスターボールに手をかけた。

「行け! ライチュウ!」
「ラーイッ!」
「アイアンテール!」

 ライチュウは宙でくるりと一回転をして勢いづけ、鋼の如く硬化した尾をマニューラへと振り下ろした。それを両手で挟み込むようにして受け止めたマニューラは、そのままライチュウを地面へと叩きつけて。

「シザークロスだ」

 鋭い爪でライチュウを切り裂いた。地面を滑るように弾き飛ばされたライチュウの左脇は、摩擦により真っ赤に腫れてしまった。それでも、ライチュウはよろよろと立ち上がった。
 ライチュウも、怒っているんだ。自分が懐いているレインを傷付けられて、やり場のない怒りを放とうと静電気をバチバチ鳴らしている。

「行けるか?」
「ライライッ!」
「よし! ボルテッカー!」
「避けろ。マニューラ」

 しかし、避けようとした瞬間、マニューラは体を強ばらせてその場に膝を突いた。どうやら、運はこちらに味方をしたようだ。

「ライチュウの特性、静電気か……」
「行け!」

 でんきタイプの最強物理技、ボルテッカーが炸裂した。体に高電圧をため込んだライチュウは勢い付けて走り出し、そのままマニューラにぶつかって戦闘不能へと追い込んだ。
 アカギはマニューラを戻し、オレもまた体力を削られたライチュウを戻した。続いて、同時に繰り出したのは水辺のポケモン。

「ギャラドス」
「ランターン!」
「りゅうのまい」
「あやしいひかり!」

 りゅうのまいの勢いに遮られ、あやしいひかりは効かなかった。その効果により、攻撃力素早さ共に上昇したギャラドスは、その巨体を感じさせない速さで宙を泳いだ。

「ギガインパクト」

 ボルテッカーのノーマルタイプ版といえる強烈な技が、ランターンを押し潰した。恐らく、ギリギリまで体力を削られてしまっただろう。
 しかし、ただで負けるわけにはいかない。相手はみずタイプとひこうタイプを併せ持っているポケモンだ。でんきタイプの技を一撃でも与えることができれば、巨体は地に沈むだろう。

「ランターン! かみなりだ!」
「避けろ」

 かみなりの命中率はそう高くない。その上、素早さが上昇したギャラドスにとって、避けることは造作ないということか。

「たきのぼりだ。終わらせろ」

 滝を登る勢いそのまま、ギャラドスはランターンにぶつかって来た。恐らく、これでランターンは限界だろう。しかし。

「!?」
「よし」

 ランターンは最後の悪足掻きとして、頭のライトから微量の電気を流し、ギャラドスを麻痺させた。戦闘不能になってしまったが、次に繋げてくれたのだ。

「エレキブル、頼む。かみなりパンチ!」

 麻痺をして動けなくなった巨体に電気を帯びた拳を叩き込めば、ギャラドスは戦闘不能となった。

「あのときのエレキッドか……ここまでわたしを追い込んだこと。それは認めてやろう。クロバット、ちょうおんぱ」

 モンスターボールから飛び出した瞬間から、クロバットは耳障りな音で空気を揺らした。これはレインを追い込んだ技。確かに、相当な威力だ。音源からだいぶん離れているオレでさえも、耳に詰め物でもしたくなるほどの不快音波だ。

「どくどく」
「十まんボルトで弾き飛ばせ!」
「飛び上がれ。エアスラッシュ」

 クロバットは宙高く飛び上がり、切り裂いた空気の波動をエレキブルへと放つ。真正面からそれを食らい、一度は怯んだかに見えたエレキブルだったが、その目に宿る闘志は消えていなかった。
 負けない。負けたくない。……負けられない。

「かみなりだ!」
「当たるまい」
「もう一度、かみなり!」

 エレキブルはかみなりを連発し、クロバットを翻弄する。かみなりの命中率がそう高くなく、いくらクロバットが素早く、ありとあらゆる攻撃を避けても、苦手な電気の柱を何本でも作られたらどうだ?
 心は自然に追いつめられ、それは次第に体にも影響を及ぼす。ほら、技を放つ余裕さえなくなるほどに、クロバットが狼狽えてきた。
 ポケモンの焦りは、トレーナーにも伝わったようだった。

「まさか、まさか、まさかっ! わたしが負けるかもだと!!」
「行けっ! かみなり!」

ついに、雷の一つがクロバットに的中した。焦げ臭い臭いが鼻を突く。クロバットは目を回して地に落下した。
 アカギが次のポケモンを出してくる気配は、ない。アカギの絶望した表情こそが、オレが勝利を掴んだ証となったのだ。





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