153.重ねた手で正義を貫け


〜HIKARI side〜

――やりのはしら――

 長い階段を上り詰めた先に、外へと通じる光が満ちていた。
 光を抜けた先には遺跡があった。槍のような柱が左右に突き出ていて、その間には祭壇へと通じる道が伸びている。祭壇があるからには神聖な場所であるはずなのに、ここは禍々しく邪悪な気で満ちていた。
 早く先に進まなきゃ取り返しのつかないことが起こるような気がするというのに、またしてもギンガ団の下っ端があたしたちの前を塞いだ。デンジさんじゃなくても舌打ちしたくもなる。
 ポッチャマに指示を出そうと構えたとき、コウキがあたしたちとギンガ団の間に割って入った。

「ここはぼくに任せて」
「でも! コウキ、一人で大丈夫?」
「大丈夫。きっと、先にはもっと強い敵がいるはずだから。……みんなで先へ!」

 ゴウカザルの他にもう一体、フーディンを呼び出して、コウキはギンガ団を迎え撃った。……ここはコウキを信じるしかない。
 あたしはデンジさんとオーバさんと共に先を急いだ。しかし、祭壇まであと半分というところで、またしても敵が現れた。エイチ湖にいた紫の髪の女幹部と、発電所にいたマーズだ。

「どこに行くつもり? ボスの邪魔はさせないわよ。この先に進みたいなら、あたしが相手をするわ! あなたには今まで散々コケにされてきたしね!」
「その次はあたし。あなた、強いって噂があるけど、本気のあたしたちに勝てるかしら?」
「ヒカリ。おまえ何したんだ? 相当恨まれてんな」
「オーバさん、ほっといてください」

 この先にはアカギがいるはず。だったら、強い人を先に行かせたほうがいい。幹部二人を相手でも……大丈夫、あたしは一人で戦える。

「デンジさん! オーバさん! 先に行ってください!」
「えっ? でもよ、さすがにヒカリ一人じゃ……」
「いいから先に行っ」
「待てってんだよ!」

 聞き慣れた声が聞こえてきて、心臓が揺さぶられるように音を立てた。ジュン、だ。ジュンが来てくれたんだ。
 ジュンは乱れた息を整えながらあたしの隣に立った。額には汗が光っている。彼の背後を飛んでいたアグノムは、宙に消えていった。

「ジュン」
「おれがいないのに、勝手におもしろそうなこと始めるな!」
「はぁ?」
「あのときの! リベンジしてやるってんだよ!」
「ハッ! 誰かと思えばエイチ湖で泣いてた男の子じゃない。ちょっとは強くなったのかしら?」
「当たり前だろ! いつまでもへこたれたままのおれじゃないぜ!」
「いいわ。二対二で戦いましょう!」

 あたしを置いて行くことを躊躇っていたオーバさんとデンジさんが、動く気配がした。オーバさんがウィンクを一つ残して、デンジさんと共に走っていく。ここは、あたしたちに任されたんだ。
 相手はスカタンクとブニャットを繰り出した。そして、あたしはポッチャマを、ジュンはドダイトスを繰り出した。
 先手は相手に打たれた。スカタンクがえんまくを撒き散らし、視界を奪う。そこにブニャットがシャドーボールを飛ばすものだから、どこから攻撃がくるのか判断が付かない。

「ヒカリ!」

 名前を呼ばれて、ジュンに手を引かれた。そこをシャドーボールがものすごい勢いで飛んでいった。ジュンが手を引いてくれなかったら、おそらくあたしにシャドーボールが当たっていただろう。腕に鳥肌が立った。
 ポッチャマたちはあたしたちをえんまくの外まで誘導すると、そこから飛び出してくるシャドーボールをあわやはっぱカッターを駆使して落としていった。その間も、あたしの手は、ずっと、ジュンと繋がったままだ。

「っぶねー」
「あ、ありがと……」
「? なに赤くなってんだよ」
「なにって」

 あたしの視線の先に、繋がれた手があることに気付いたジュンは、ニカッと笑った。

「手を繋ぐくらいで、なに今更意識してんだよ。昔からそうしてきただろ?」
「!」

 なに、それ。なにそれ、なにそれ! あたしばっかり、こんなに意識してるの?
 そりゃ、ジュンにとってあたしは今も昔もこれからも、ずっと幼馴染みかもしれないけど、でも、あたしは。

「意識しちゃ悪い!?」
「な、なんだってんだよ!? なに怒ってんだ!?」
「意識するわよ! 昔と同じじゃないんだもん! 当たり前じゃない!」
「ひ、ヒカリ?」
「あたしはジュンが好きなんだから!」

 ……あーあ、言っちゃった。ほら、なに言ってんだこいつって顔で、ジュンはキョトンとしてる。好きの意味を今までと同じに捉えてるのかもしれない。それこそ、なにも意識されてない証拠だわ。
 もう、あたし一人で馬鹿みたい。こんな場所で勢い任せで、ムードもなにもありゃしない。ただの空気が読めない子供じゃない、あたし。
 徐々にえんまくが晴れていく。すると、今度は前方からかえんほうしゃが飛んできた。
 あたしはジュンと手を離して反対側に避けようとした。でも、ジュンは手を離してくれなかった。あたしの手を引いて、庇うようにしゃがみ込んだ。

「ジュン」
「ヒカリ。今は、さっきの保留な」
「え?」
「ちゃんと、意味、わかってる、から」

 ぎゅっ。力強く手を握り返してくれた。不本意だけど、なんか、ちょっとだけ、かっこいいなって、思ったりして。

「おれとおまえ、二人で勝つぞ!」
「うん!」

 ねぇ、ジュン。繋いだ右手の温度をこんなに逞しく感じる日が来るなんて、思わなかったよ。





- ナノ -