152.ゲート・オブ・ヘブン
――テンガン山――
オレたちは最初、テンガン山の山頂へ降りようと試みたが、そこは大気が荒れていて叶わなかった。まるで、山頂で何かとんでもないことが起ころうとしていて、それを邪魔されないために人為的な妨害が施されているようにさえ思えた。
嘆いていても仕方がないので、オレたちは山の中部に降りて、中から頂上を目指すことにした。
薄暗い洞窟をしばらく進んだところで、前方に人影が見えた。まだ少年と呼べる年齢だ。頭上には黄色いポケモンがプカプカと浮いていた。
「あ! コウキー!」
「ヒカリ!」
どうやらヒカリの知り合いのようだ。……よく見たら、ポケモンコンテストでルクシオを連れていたトレーナーだ。「遅くなってごめんなさい! この人たちを連れてきたの」と、ヒカリはコウキと呼んだ少年にオレたちを紹介した。
オレたちも名乗るべきかと考えたが、コウキの様子を見ていると、どうやら必要ないらしい。コウキはオーバを見上げたあとに、穴が空くのではと思うほどオレのことを見つめて、唇を震わせた。
「四天王のオーバさん、と……ナギサジムリーダーのデンジさん!? ほ、本物だぁ……!」
「ああ。おまえ、コンテストでルクシオを連れてただろ? 大事に育てているんだな。見ていてわかったよ」
「あ、ありがとうございます!」
「……」
オレとコウキのやりとりを見ていたオーバが「俺も一応有名人だけどなぁ……なんだこの差」と嘆いた。そんなこと、至って単純な理由である。スターかアフロかの差だろう。
ヒカリは、コウキが突っ立っていた先に目を向けた。そこには、明らかに人為的に空けられた巨大な穴があった。
「コウキ。ここは?」
「この穴が頂上に続いているみたいなんだ。以前、ぼくが来たときには大昔の壁画があったんだけど、さっき着いたときには壊れていたんだ」
「アカギが来たんだわ。急がなくちゃ! あ、エムリット!」
「ユクシー」
ピンクと黄色のポケモン――エムリットとユクシーは穴の中へ飛んでいった。まるで、ついて来いというように、時折オレたちのほうを振り返る。
まず、ヒカリとコウキが穴へと飛び込んだ。オレとオーバもそれに続き、あとを追う。
「なあ。ギンガ団は何をしようとしているんだ?」
「シンオウ三大湖にいた伝説のポケモンを捕まえて、赤い鎖というものを作ったみたいなんです。それが何をするものかはよくわからないけれど、新しい宇宙を生み出すとか意味不明なことを言ってて」
「宇宙を創るー!? なんだそりゃ!?」
「さっきのポケモンたちが伝説のポケモンか」
「はい。あの子たちを助けにギンガ団のアジトに侵入したんですけど、レインさんはそこで……」
あの映像のような目に遭わされた、というわけか。「レインさんがどうかしたの?」「ギンガ団のボスに捕まっちゃったの」「ええっ!?」コウキが発した声が木霊する。それが余計にオレを急かした。早く、早く、早く! と。
洞窟を抜けると、滝がある空間に出た。そこには、何やらおかしなファッションの奴らが、オレたちが進む道を塞ぐように立ちはだかっていた。
ああ、こいつらがギンガ団か。正解だとしても、違うとしても、どうでもいい。オレたちの進む邪魔をする奴は、みんな敵だ。
モンスターボールを構えるヒカリとコウキを押しのけて、オレは奴らの前に進み出た。
「我々の最後の作戦だ! 邪魔はさせないぜ!」
「……退けよ」
「ギンガ団が世界の全てを奪うの! 貴方たちが足掻いても、どうにもならないのよ!」
「……退けって……聞こえなかったか?」
――プツリ。オレの怒りは、元より高くもない沸点を瞬く間に越えて上昇した。諦めたように「あーあ」と言った、オーバの声が聞こえたような気がした。
相手がポケモンを出したのと同時に、オレはエレキブルを繰り出した。何を指示したか覚えていない。気付けば、相手のポケモンを全て戦闘不能にしていた。「強っ! というか、容赦ないですね」「かっこいー……!」「あいつ、ああ見えてだいぶ焦ってるな」後ろで何やらごちゃごちゃ言っているが、知るか。
愕然とするギンガ団を置いて、オレたちは再び走り出した。途中、同じような奴らが出てきたが、次々に倒して行った。オーバはブーバーンを、ヒカリはポッチャマを、コウキはゴウカザルを出して応戦した。
しばらく行くと、長い階段が見えた。オレの肩にしがみついていたリオルが、ピクリと動いた。
『レインさまの波導、感じます! 本当に小さいけれど……間違いありません!』
レインだけじゃない。この先に何かがある。そんな予感がする。
外へと通じる光を目指し、オレは一気に階段を駆け上がった。