151.集結するは聖なる山


〜GEN side〜

 レインちゃんを見送ってから丸二日ほど経った今日も、わたしはルカリオと共に波導の修行をしていた。まだまだ満足に波導を扱えなかった子供時代とは違い、今やわたしたちはシンオウ全土まで波導を張り巡らせるほどの力を身につけた。十年以上も修行して、身につけられないほうがおかしいと言われればそれまでなのだが。
 さらなる経験を積むべく、わたしたちは常時修行を欠かさない。常時というのは、普段から様々なところへ波導を広げて、様々な場所で起こった情報を得ているのだ。
 二日前に、リッシ湖から痛烈な波導を感じた。さらに深く探ってみれば、湖の水が全て干上がってしまっていたからのようだった。
 なぜ、そんなことが起こったのか。そこまでは、さすがにこの足で湖に向かい直に波導を使わないとわからない。しかし、すぐにそこに集中的な雨が発生し、湖を満たしたので、誰かが解決したのだろうとぼんやり思っていた。
 そして、わたしは今日、また、ある波導を感じた。いや、『あるべき波導が消えた気配』を、感じた。それはルカリオも同じだったようだ。

「ルカリオ」
『はい……レイン様の波導が……』
「消えた」
『まさか……』
「いや」

 消えたという表現は正しくない。これは、死とは違う波導だ。熟練した波導使いでないとわからないほど、消えたと感じるくらいに、レインちゃんの波導が弱まっている。

『リオルの波導は感じます。レイン様とリオルが別れたときから変わらずに、ナギサシティ辺りにあります』
「あの子は無事か。ならば、わたしたちはレインちゃんの波導を追おう。彼女に何があったのか……気がかりだ」

 ここまで命の波導が弱まっているということは、彼女に何かがあったと考えるのが自然だ。
 彼女は、今も昔も、わたしの大切な人だ。彼女が危険に晒されているのなら、救いたい。守りたい。もう二度と、彼女を死なせたりはしない。
 わたしは一度小屋に戻り、ルカリオ以外の手持ちたちが入ったモンスターボールをとった。そして、窓辺に立ち、もう一度神経を研ぎ澄ます。波導を風に乗せて、シンオウの隅々まで行き渡らせる。

「……」

 消える寸前にまで弱まった、彼女の波導を探す。極限まで集中しなければ、位置を正確に特定することができない。わたし自身が持っている波導を最大近くまで解き放ち、彼女の行方を追った。
 ……数秒、数分、どれくらいの時間を要したかわからない。本当にふとした瞬間、靄のように曖昧だった彼女の波導が、はっきりと瞼の裏に映った。
 彼女の波導は移動している。方角から察するに、向かっているのは……。

「……テンガン山」

 わたしはボーマンダを呼び出し、ルカリオと共にその背に飛び乗った。行き先だけを告げると、ボーマンダはすぐに翼を広げ、空に舞い上がった。
 東へ東へ、飛ぶ。消え入りそうな波導を見失わないように、いつもよりも丁寧に波導を張りながら。

『レイン様の波導は見付かりましたか?』
「ああ。テンガン山に向かっているようだ。……?」

 もう一つ、動いている波導が、ある? それをルカリオも感じたらしく、房がゆらゆらと揺れていた。

『ゲン様。リオルの波導もテンガン山に向かっているようです』

 シンオウ地方を西と東に分かつ聖山――テンガン山。そこでいったい何が起ころうとしているのか、想像もつかない。波導は未来などを視ることはできないのだ。それが叶ったのなら、十年前も、わたしがわたしでなかった頃も、あの結末を避けられたのだろう。
 首を振り、余計な考えを払う。今は過去を振り返るときではない。過去の過ちを繰り返さないよう、今度こそ、彼女を救う。それが、今のわたしにできる、贖罪と使命なのだ。



Next……やりのはしら


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