143.世界に反旗を翻す者


『ギンガ団の諸君! 改めて名乗ろう。わたしがアカギである』

 アカギさんがマイクに向かって喋り出した。彼はギンガ団員一人一人と目を合わせるように、壇上から眼下を右から左へとゆっくり見渡したあと、再度口を開いた。

『さて。我々はこの不完全な世界で苦しみながら生きてきた。この世界に生きる人もポケモンも不完全であるがために、醜く争い傷付け合う。わたしはそれを憎む。不完全であることを全力で憎む。世界は完全であるべきだ。世界は変わらなければならない』

 ギンガ団員たちから一斉に歓声が上がった。それがおさまるのを見計らって、アカギさんは話しかけるように語り出す。

『では、変えるのは誰か? それはわたしアカギであり、きみたちギンガ団である。我がギンガ団は神話を調べ、伝説のポケモンを捕らえた。そして、我がギンガ団は世界を変えるエネルギーを! 夢の力を手に入れたのだ!』

 アカギさんがそう言い切り、一瞬の静けさが広間を支配した。ギンガ団員たちは皆、目の前に神が降臨したかと思うほど、忠誠心と信仰心が込められた目で壇上を見上げている。

『そうとも諸君! わたしが夢に描いてきた世界が現実のものとなる。テンガン山に行く者、ここアジトに残る者。それぞれ成すべきことは違えども、その心は一つである。我々ギンガ団に栄光あれ!』

 爆発するような歓声の中、アカギさんは舞台脇へと姿を消した。彼がいなくなったあとも、歓声と拍手はしばらく止まなかった。やはりアカギ様に仕えてよかっただとか、次の作戦も頑張らねばだとか、近くにいる団員に熱弁している人もいる。
 しばらくしてようやく彼らの興奮も静まり、ギンガ団員たちは散り散りに元の持ち場に帰っていった。広間に誰もいなくなったことを確認して、私たちは柱の陰から出た。

「今のがギンガ団のボス……アカギ……」
「あれでまだ二十七とは、全く恐れ入るよ」
「うっわー。老け顔」
「ひ、ヒカリちゃん……!」
「……それにしても、ギンガ団のためだけの世界を創るだと? なんだか頭がくらくらするな。新しい世界とは何だ? 不完全な世界とは何だというのだ? ……テンガン山に行けばわかるのか」

 テンガン山。演説中に出てきた地名だ。察するに、アカギさんとギンガ団員の一部は、近いうちにテンガン山に向かうらしい。そこで、私たちには想像しがたい何かが行われようとしているのだ。

「わたしはこれからテンガン山を調査しに向かおう。きみたちは……」
「あたしたちはまだ帰れません」
「ええ。伝説のポケモンを助けます」
「……わかった。くれぐれも無理をするんじゃないぞ。きみたちが強いことはわかっているが、相手はギンガ団だ。捕まったらどうなるかわからないからな」

 忠告を残して、来た道を引き返していくハンサムさんの背を見送った。例え待ちかまえるものが危険しかなくても、それでも、進むしかないのだ。
 人間の悪行により、ポケモンたちが傷付いた。ならば、失われた信頼を取り戻す努力をするのは人間でなければならない。人間とポケモン。同じ世界に住むたった二つの種同士、いがみ合うようなことがあってはいけないのだ。
 私たちは広間を横切り、大きな扉の前に立った。私に向けて一度頷いてみせると、ヒカリちゃんはその扉を静かに押し開いた。





- ナノ -