142.渦巻く目論み


――ギンガ団アジト――

 ギンガ団の服装からも想像がつくとおり、ギンガ団アジトの内部はとても無機質な造りをしていた。至る所に巨大な機械やランプが設置されていて、迂闊に触ろうものなら警報がけたたましく鳴り響きそうで冷や冷やする。固く冷たい床は、歩く度にブーツの底とぶつかってコツコツと音を出すので、私たちは忍びのように慎重に進んだ。まるでこちらが悪いことをしているような、変な感覚だ。

「ん? 行き止まりか……?」

 先を歩いていたハンサムさんが立ち止まった。通路を進んでいると突き当たりに出てしまったようだ。左右に扉はない。しかし、今までに分かれ道らしい道もなかった。道を間違える要素など無かったはずだ。
 ハンサムさんは首を傾げつつ、私たちのほうへ一歩足を踏み出した。すると、彼は突然私たちの前から姿を消したのだ。目の前で神隠しのような出来事が起きた事実に面食らう。ふと我に返って、今し方までハンサムさんがいた場所に慌てて駆け寄った。
 他とは色が違う床のパネルを踏んだ瞬間、お腹が捩れるような浮遊間に包まれた。ヒカリちゃんのエルレイドがテレポートを使うときの感覚に似ている。不快な感覚から解き放たれたとき、目の前にハンサムさんが再び現れた。……違う、彼がいる場所に私たちが現れたのだ。壁に描かれているフロアを指す数字は先ほどまでとは別のものだし、今まで無かった観葉植物が通路の隅に置いてある。

「二人とも、足元を見てみたまえ」

 ハンサムさんは私たちの足元を指さした。足を退けてそこがよく見える状態にする。私たちがさっきまで立っていたパネルは、周りにあるパネルと色が違っていた。

「どうやらこのアジトは、侵入者に入られても先に進ませないよう、このワープ装置を使って迷路のように造られているみたいだな。おそらく、ポケモンセンターなどにある転送装置やポケモンの技のテレポートの原理から造られたのだろうが、それを独自で発明するギンガ団の科学技術は恐ろしいな。……気を付けて進もう」

 それがわかってからは、私たちはさらに慎重に進むようになった。パネルに乗るときは、ワープした先でどんな状況に襲われても対応できるよう、モンスターボールに手をかけておく。フロア案内のようなものがあれば現在地を確認できるけれど、そのようなものは一切見当たらない。一度来た場所だとわかるように、私たちは通った道の壁に小さな傷を付けながら先を急いだ。
 ワープをしたり、階段を上がったり下ったり、正解かもわからない道を進む。いつ、どこでギンガ団と出会すと思うと緊張する。無意識のうちに喉が渇く。しかし、意に反してギンガ団は現れない。

「なんだか、おかしくないですか?」

 ポッチャマを頭に乗せて、いつでも戦闘態勢に入れるようにしているヒカリちゃんが、ぼやいた。進入当初よりも緊張が弛んできたようだった。

「朝早いとはいえ、ここまで誰にも会わないなんておかしいです。幹部クラスはともかく、下っ端とかその辺にいるはずなのに」
「まさか……私たちが来ることを見越して、おびき寄せているんじゃ」
「いや、そういうわけではなさそうだ」

 えっ? と二人してハンサムさんを見上げる。彼は人差し指を立てて自分の唇に押し当て私たちを黙らせると、もう片方の手を広げて私たちを止まらせた。
 柱の陰に誘導され、ハンサムさんが指さす方向を見て息を呑んだ。そこには大きな広間があった。さらに、そこにはザッと見ても百人近い数のギンガ団がいたのだ。男女の区別は付くものの、男性は男性、女性は女性で格好を統一されていて、不気味という以外に言葉が見付からない。

「ギンガ団ってこんなにいたんだ……」
「この広間に集まっていたから、私たちは誰とも会わなかったんですね」
「ああ。しかし、ギンガ団の連中、集まって何を始めるつもりだ?」

 私たちの疑問はすぐに解決された。ギンガ団たちはふと私語を止め、兵隊のように姿勢を正し、一斉に壇上を見つめたのだ。そして、彼らの視線が一点に集まる壇上、そこに、ギンガ団のボスであるアカギさんが現れた。





- ナノ -