141.いざ戦いの場へ


――トバリシティ――

 ムックルたちが目覚める早朝。私とヒカリちゃんはテレポートを使って、トバリシティに到着した。未だ眠っている街はとても静かで、微かに霧が出ている。響く足音は私たち二人分以外に聞こえない。歩みを止めれば、それさえも聞こえなくなり自分の心音がやけに目立つ。
 高台にあるギンガトバリビルを見上げて、固唾を呑んだ。刺々しい装飾が特徴的な鏡張りに造られたこのビルは、表向きには宇宙エネルギー研究施設となっているが、その実体はギンガ団の本部なのだ。コウキ君のピィを取り戻しにここを訪れたときに、その実体を垣間見た。捕らえられたポケモンたち、怪しい機械の数々、まるでロボットのように忠実に任務をこなすギンガ団員たち。今から私は、ヒカリちゃんと共にここへ乗り込むのだ。

「あの……昨日はあんな風に威勢よく言っちゃったんですけど……」

 沈黙を破り、ヒカリちゃんが言いにくそうに呟いた。

「見付からないように突入する当てとか、全然ないんです。……あたし一人なら正面突破でもいいんですけど」
「えっ!?」
「レインさんまで危険に晒すわけにはいかないし」
「私がいなくてもダメよ! そんな危険な方法!」
「ですよねー」
「……やっぱり、ヒカリちゃんとジュン君って、どこか似てるわね。猪突猛進というか、なんというか」
「なっ!? なんであたしがジュンと! 似てません! 違います!」
「そ、そう?」

 ヒカリちゃんは全力で首を横に振り、否定を示した。なぜかその頬はヒカリちゃんが着ているコートと同じくらい赤い。キッサキシティにいる間に風邪を引いたのかしら。あそこはとても寒いところだから……。
 ヒカリちゃんのことを心配していると、背後から「きみたち!」と強めに声をかけられた。この声、もう顔を見なくても誰かわかるくらいには覚えてしまった。

「「ハンサムさん!」」
「きみたちはここがどんな場所か知っているだろう? あまり近付かないほうがいい」
「ハンサムさん。ここに伝説のポケモンが捕まっていて、私たちそれを助けたいんです」
「なんだと?」
「ギンガ団はアグノムとエムリットとユクシーの力を使って、また悪事を働こうとしているの!」
「……」

 私たちの話はハンサムさんに衝撃を与えたようだった。彼は大きく目を見開き、閉じて、低く唸った。
 そしてしばらく考え込んだあとに「女子供にこういうことを頼むべきではないが……」と躊躇いつつ、茶色のロングコートに手を突っ込んで、カードを取り出した。

「これはわたしがギンガ団に変装して潜入調査をしていたときに手に入れた、ギンガ団倉庫のカードキーだ。正面突破は無理だけど、これさえあれば地下を通過してアジトに入ることができる」
「「!」」
「これを手に入れたとき、わたしもアジトまで探ろうとしたんだが、正体がバレそうになったんで撤退したんだ。しかし、ここまで尻尾を掴んでおいて、国際警察が諦めるわけにはいかない……だが」
「何か問題があるんですか?」
「いや、恥ずかしながら、わたしはポケモンバトルが全くと言っていいほどできなくてな。一応相棒はいるのだが……いざギンガ団とバトルとなったときのことを考えて、潜入できずにいたのだ」
「じゃあ、あたしたちが一緒について行けば!」
「……危険は承知なんだな?」

 ここにいる時点で覚悟はできている。危険は百も承知だ。私たちは静かに頷いた。ハンサムさんは「こっちだ」と私たちに背中を向けて、ギンガ団倉庫前まで歩いた。
 以前、ヒカリちゃんとコウキ君がタッグを組んでギンガ団を退けた際に、はかいこうせんで壊してしまった倉庫の扉は、幸いなことに未だ修理がされていなかった。青いビニールシートで入り口が隠されただけの状態であるそこへは、簡単に外部から進入を果たせた。
 倉庫内に入り、あのときは進めなかった扉の前に立つ。ハンサムさんが慎重にカードキーを挿し込むと、カチリという音を立てて、青いランプが灯された。





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