133.鋼鉄を打ち破れ


 鋼鉄島を出て一時間が過ぎた頃。私は再び、トウガンさんと対峙していた。

「悪夢の件では世話になったな。しかし、それとこれとは別の話! 全力で相手をしてくれる!」
「はい。よろしくお願いします」
「鋼鉄島で鍛えた実力、見せてみろ!」

 トウガンさんが最初に繰り出したのは、レアコイルだった。ランターンか、それともトリトドンか。私は手をモンスターボールの上で彷徨わせた。
 しかし、あえて別のモンスターボールを手に取った。みんな、修行で格段に強くなった。だから、きっと大丈夫。
 私はミロカロスを繰り出した。それを見たトウガンさんが眉をつり上げた。

「わざわざ苦手タイプで来るとはな! きんぞくおんで特防を下げるまでもない! 十まんボルトで終わらせろ!」
「ミロカロス!」

 電撃がミロカロスを直撃した。しかし、特訓の成果が幸いしてギリギリで持ちこたえることができた。
 ほう、と目を細めるトウガンさんの表情を崩して見せる。

「ミラーコートよ!」

 ミロカロスが鏡のような壁を作り出し、電撃をそのまま跳ね返した。ミラーコートは、受けた特殊技のダメージを倍にして返す技。こちらも大ダメージを受けたけれど、それを倍で返すことによりレアコイルは戦闘不能になった。

「やったわ! ミロカロス、ありがとう!」
「おお! 成長したようだな! では、次だ!」
「ラプラス!」

 相手はハガネール。はがねタイプとじめんタイプを併せ持つポケモンだ。

「一気に決めるわ! なみのり!」
「なぁに! 耐えるさ!」

 宣言通り、ハガネールは重い水圧の波を耐え抜いた。

「ラスターカノン!」
「れいとうビーム!」

 二つの光線がぶつかる。双方のちょうど真ん中で押し比べを続けている。特殊攻撃能力はこちらが上のはず。だから、負けない!

「ラプラス!」

 ラプラスは体の底から力を振り絞り、さらに強い光線を放つ。ラスターカノンを気合いで打ち破り、れいとうビームをハガネールまで届かせた。ハガネールは戦闘不能だ。

「なんと! 最後の一匹か! ここからが本番だな! トリデプス!」
「頑張って! ランターン!」

 トウガンがジム戦で使う切り札、トリデプス。修行中にゲンさんから教わったわ。メタルバーストに気を付けろ、と。

「守りが堅いこちらに、みずタイプが物理攻撃をしてくる気はなかろう。ならば、てっぺきを使う意味はない。攻撃あるのみというわけだ! ストーンエッジ!」

 バトルフィールドに転がっている鋼が、鋭さを増してランターンを攻撃した。攻撃は次々に急所へと当たる。
 私は次に電気技を指示しようと考えていた。でも、こんなピンチに相性がそうよくない技で攻撃するわけじゃない。攻撃技が全てのポケモンにとってそうだとは限らないのだ。

「ランターン、自分に十まんボルト!」

 ランターンの特性は蓄電だ。電気技を受けることで体力を回復することができる。

「トリデプスにも十まんボルト!」
「そんな攻撃、痛くも痒くもないぞ! メタルバースト!」

 鋼の塊が爆発してランターンにダメージを与える。ミラーコートほどの効果はないけれど、確かにこれも強力な技だ。メタルバーストは全ての攻撃技を一.五倍にして相手に返す技らしい。
 でも、ランターンはたびたび自身に十万ボルトをかけて体力を回復させている。そうなると、よほどのダメージを受けない限り先に倒れるのはあちらだ。
 トリデプスの体力を半分くらいまで減らしたところで、私は止めなる技を命じた。

「最大水量でなみのりよ!」

 高い波がトリデプスを襲う。バトルフィールドが大量の水で満ち溢れた。トリデプス、戦闘不能。
 勝った……勝ったんだ、私たち。みんなの努力が実った気がして、嬉しくて、私はにこにこと笑っているランターンに抱きついた。

「勝てた、勝てたわ! ランターン! みんなも、本当にありがとう!」
「グハハハ! まさしく修行の成果だな!」

 マインバッジを差し出しながら、トウガンさんは反対の手で私とランターン頭を順番にわしゃわしゃと撫でた。

「わたしの自慢のポケモンたちを倒したその強さを認め、このマインバッジを渡そう!」
「ありがとうございます!」
「今度はわたしが修行する番だな! どれ、久しぶりにゲンにでもバトルを申し込んでみるか!」
「ゲンさんとよく勝負をするんですか?」
「ああ! あいつはジムリーダーと張るほどに強いからな! このミオジムの跡継ぎを頼んでいるのだが、ヒョウタがいるからとなかなか首を縦に振ってくれん! 勧誘がてら、鋼鉄島に行ってくるとしよう!」

 そういえば、確かシロナさんもそんなことを言っていた気がする。ゲンさんがジムリーダーなんて、あまり想像がつかないけれど、きっと彼もまたトウガンさんのように高く厚い壁になってチャレンジャーを苦しめるんだろうな。
 結局、ゲンさんには一度も勝つことができなかった。また会えたら、もう一度手合わせしてもらいたい。そんなことを考えながら、私はミオジムを後にした。



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