122.力の在り方


「? どうかしたましたか?」
「……いや」

 ゲンさんは言葉を濁し、帽子を深く被りなおした。その表情を読み取ることはできない。もしかしたら、ランターンが色違いだから驚いているのかもしれない。

「バブルこうせんよ!」
「もう一度、インファイト」

 バブルこうせんでルカリオを倒すことは敵わなかった。こちらはというと、やはりインファイトが強力で多大なダメージを受けてしまったみたいだ。やっぱり、ゲンさんの言うとおり全てのポケモンたちの防御面を鍛え直したほうがいいのかもしれない。
 技を発動し終えたルカリオが綺麗に着地したとき、私はランターンを戻すためにモンスターボールを向けた。そのとき、ランターンの赤い目が、鋭く尖った。

「!」

 突然、ランターンはほうでんを使ってルカリオを攻撃したのだ。ルカリオは波導でバリアを作ろうとしたものの、突然のことに反応が遅れて全身に電撃を浴びてしまった。
 私は片膝を突くルカリオとランターンの間に入り、手を広げた。

「ランターン! 指示してないのに、技を出しちゃダメじゃない。ゲンさんもルカリオも、修行に付き合ってくれているのに」
(……)
「すみません」
「大丈夫だよ。波導を読めたはずなのに防ぎきれなかったルカリオも悪いのだし」
『まだまだ修行不足です』

 ゲンさんもルカリオも気を悪くした様子はなくて、よかった。
 私は今度こそランターンをモンスターボールに戻した。なんだか、この子の気が不安定でピリピリしていたのが気になるけれど……。今度キチンと謝らせなくちゃ。

「だいたい、ポケモンたちの限界はわかったかな?」
「はい」
「では、今日はここまでにしようか。波導と、レインちゃんの『力』でポケモンたちを回復させてあげよう」
「え? どうして、私がポケモンの傷を癒せるって……?」
「あ、ああ。……君の『力』はわたしの波導と限りなく似ているからね。もしかしたらできるんじゃないか、と言ってみたんだ」
「そうだったんですね」

 隣に立つゲンさんの顔を見上げながら歩く。後ろからは、あれだけの戦闘をこなしたのにピンピンしているルカリオと、クタクタになって眠たそうなシャワーズが少し離れて付いてきている。
 ゲンさんはさらに言葉を続けた。

「君の『力』はきっと波導の一種なんだと思う。だから、君自身も『力』の訓練をしたほうがいいかもしれない」
「私も、ですか?」
「そう。波導もそうだけれど、『力』を使うと精神的に疲労しないかい?」
「あ、します。ときには倒れることもあって……」
「きっと、使い慣れたり、訓練したりするうちにその疲労の度合いも減ってくると思う。だから、修行をする間は積極的に『力』を使ってみてはどうかな? どうせ周りにはわたしたちしかいないわけだし」
「そう……ですね」
「訓練すれば、例えば相手のポケモンが次にどんな技を出そうとしているかとか、そういったことも自然とわかるようになると思うんだ。今まではポケモンにしか働かなかった『力』が、それ以外にも通用するようになるかもしれない。波導と同じ要領で訓練できると思うから、たぶん教えられると思うよ」
「ええ。バトル中に倒れたりしても困りますし、もしゲンさんがいいなら、よろしくお願いします」
「了解したよ」
「重ね重ね、すみません」
「いや、本当に気にしないで大丈夫だよ。というより、嬉しいんだ」
「?」
「波導使いをわたし以外に知らないから、レインちゃんもそうかもしれないと思うと、仲間が増えたみたいでね」
「そう、ですね。私にとっても、同じような能力を持つ人ってゲンさんが初めてだったんです。だから、心強いというか」
「ふふ。それは、わたしもしっかりしないとね。……着いた。ここが家だよ」

 ゲンさんの家は、船着き場から少し離れたところにある隠れ家的な外見をした木造の平屋だった。ゲンさんが開けてくれたドアから、私はその中に足を踏み入れた。ここにしばらくお世話になるのね。
 この家の中に漂う匂いは、ゲンさんのものかしら。なんだか、とても懐かしくて、心が落ち着く気がした。





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