121.限界突破訓練


 ゲンさんは、今日から修行に付き合ってくれると言ってくれた。
 はじめに、私はトウガンさんとのバトルの詳細を話した。レアコイルに全滅させられたことを話すと、ゲンさんは顎に手を当ててふむと唸った。

「レインちゃんがチャレンジしたように、でんきタイプを持つレアコイルにはシャワーズたちを戦わせないほうがいい。じめんタイプででんきタイプの技を無効化するトリトドンか、特性が蓄電のランターンで戦うほうが賢いね。もしくは、一撃で倒されないように特殊防御を鍛えるか」
「はい。でも、レアコイルの攻撃が強力で……」
「氷漬けにされたのは運が悪かったね。トライアタックを受けたときに状態異常に陥ってしまったのが火傷や麻痺状態だったら、また結果は変わっていただろうけど」
「……」
「とにかく、トウガンさんは強い。シンオウ地方のジムリーダーとしても最年長で、修羅場をくぐってきた数も多い。その経験も彼の強さの一つだ。豪快な人だけど、頭の中でバトルの流れを本能的に叩き出して勝利に導くスタイルもあるしね」
「……やっぱり、勝つことは難しいんでしょうか」
「弱気になってはダメだよ。みずポケモンたちは、基本的に体力がある。特殊攻撃力も高い部類に入るね。その点は、特殊防御が低いはがねタイプへの大きな武器になる。ただ、少し物理攻撃に弱い面があるから、攻撃力が高いはがねタイプの攻撃を受けると一撃で瀕死まで追いやられる恐れがあるというわけだ」
「みずタイプとはがねタイプ、お互いのタイプがお互いの弱点でもあるんですね」
「そう。だから、特殊攻撃を強化しつつ防御の訓練をすれば、光がきっと見えてくるはずだよ」
「……わかりました。私、精一杯頑張ります」
「うん。では」

 ゲンさんは、腰に下げていたモンスターボールを一つ手に取り、帽子を深く被りなおした。

「今からわたしとバトルをしてみようか」
「え?」
「この攻撃を繰り出したら、このくらいのダメージになる。そういう感覚を掴んでおいたほうがいい。逆に、自分のポケモンがどのくらいの攻撃まで耐えられるかも、知っておくべきだね」
「は、はい」
「今から、一体ずつバトルをしよう。レインちゃんが先手で、こちらは攻撃を避わさない。その次はこちらが攻撃を仕掛けるから、あえて避けないでポケモンたちに守らせてみるんだ。わたしのポケモンたちはみんな攻撃力が高いからね。いい訓練相手にはなると思うよ」
「わかりました。よろしくお願いします!」
「では、始めよう」

 ゲンさんの手の中から赤い閃光が弾けた。光が形を成し、現れたのは白い体毛に黒い肌を包んだアブソルだった。確かに、アブソルは攻撃力に恵まれたポケモンだと聞く。でも、逆にそれ以外の種族値は低い。

「シャワーズ! なみのりよ!」
「こちらはつじぎりだ」

 対トウガンさんの主力になるであろう技を繰り出すと、思ったよりも大きなダメージをアブソルに与えることができた。でも、相手が繰り出したつじぎりも強力だった。つじぎりは急所に当たりやい技で、それを攻撃力の高いアブソルが繰り出したものだから、シャワーズは瀕死寸前になってしまった。
 アブソルを引っ込めて、ゲンさんが次に繰り出したのはメタグロスだった。体の芯まで堅い合金で構成されている相手には、生半可な攻撃じゃ傷一つ与えられない。こちらも、最高の技を繰り出さないと。

「ミロカロス! ハイドロポンプよ!」
「なかなか強力だね。メタグロス、コメットパンチ」

 ハイドロポンプ突き破り、メタグロスは重く鋭い拳をミロカロスに叩きつけた。重量級の攻撃に何とか耐えたミロカロスを見たゲンさんは「なかなか防御力が高い」と片眉をつり上げた。
 次の相手は、リングマだ。

「げんしのちからよ! ジーランス!」
「シャドークロー」

 私のジーランスは元々防御力が高い。リングマの鋭い爪を受け止めてゲンさんを唸らせることができた。
 次の相手はボーマンダだ。さっきから思っていたことだけれど、ゲンさんはシンオウ地方では珍しいポケモンばかりを持っている。

「確か、ラプラスがいると言っていたね? 四倍ダメージを狙って倒してみてごらん」
「……ラプラス! ふぶき!」

 ドラゴン・ひこうタイプのボーマンダに対し、こおりタイプトップの威力を誇るふぶきは効果抜群だ。ボーマンダは一撃で戦闘不能状態に陥った。
 「お見事」とゲンさんは笑うと、ボーマンダを引っ込めて、隣でバトルを傍観していたルカリオにはっけいを命じた。ラプラスも戦闘不能の一歩手前だ。

「いくらこおりタイプがかくとうタイプの技に弱くても、威力の低いはっけい一撃でこれだけダメージを受けるのは厳しいな。きみは元から防御に優れているみたいだけど、もう一度防御面を鍛えたほうがよさそうだ」
(むーかーつーくー!)
「こ、こら! ラプラスったら!」
「悪態をつく元気があるなら大丈夫だね」
「すみません……」
「続けようか。残りはルカリオで行くよ」
「わかりました。次はトリトドン! だくりゅう!」
「インファイト」

 だくりゅうで命中率を下げられつつも、ルカリオはかくとうタイプ最強ともいわれている技のインファイトを見事命中させた。トリトドンは戦闘不能だ。
 でも、インファイトはその威力の代わりに、自分の防御力と特殊防御力が下がってしまう代償がある。もしかしたら、次の攻撃で倒せるかもしれない。

「最後ね……ランターン!」

 私がランターンを繰り出した、そのとき。ゲンさんの濃紺の目が微かに見開かれたような気がした。





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