119.孤島の中心で
ミオシティと鋼鉄島を往復する船は、一日に二度しか行き来しないらしい。船乗りさんが、次の便は夕方だと教えてくれた。鋼鉄島にはポケモンセンターがないらしいから、一日の終わりはミオシティに帰るしかない。
船が来るギリギリまでは修行をするつもりだけど、調子がいい日はもう少し遅くまで修行したいというのが本音だった。鋼鉄島にポケモンセンターがあるのが一番よかったのだけど……ないものを言っても仕方がない。今は時間を有効に使って、早く強くならなくちゃ。
鉱山の中に足を踏み入れる。中は外に広がる景色よりもさらに殺風景で、薄暗い。少しだけ足が竦んでしまい、情けないけれどランターンにモンスターボールの中からフラッシュをお願いした。
光が辺りを照らすと、ゴツゴツした岩や、下の階へと移動する為のリフトや、リフトを動かす燃料が入ったタンクなど、内部の様子がはっきりとわかった。
「足場が不安定ね。でも、リフトがあるわ。やっぱり、今でもトレーナーが修行のために使ってるのね。野生のポケモンだけじゃなく、ここに修行に来たトレーナーさんたちとも戦わせてもらえるかも……」
そのとき、野生のゴローンが飛び出してきた。私はすぐさま、隣を歩いていたシャワーズに指示を出した。
「シャワーズ! みずでっぽう!」
(シャワーッ!)
シャワーズの口から水が勢いよく吐き出され、野生のゴローンを直撃した。でも、苦手タイプのを受けても相手は怯まなかった。野生のゴローンはその重い体を揺さぶり、地面を震動した。揺れは私が立っている場所まで伝わってきて、立っていられず近くにある岩に手を突いた。
「これは、じしん! 強力な技を使うのね……! シャワーズ、なみのり!」
「シャワー!」
みずでっぽうよりも威力の高いなみのりを繰り出せば、水圧に気圧されて、野生のゴローンはようやく逃げ帰った。嬉しそうに戻ってきたシャワーズを褒めてやると、この子は誇らしげに尻尾をピンと立てた。
「確かに、ここの野生ポケモンは強いわね。頑張って打倒、トウガンさんを目指しましょう」
(うん! シャワーズ、頑張るよ!)
そういえば、トウガンさんも鋼鉄島には修行に来るのかしら。ヒョウタ君が言っていたことを今まで忘れていたけれど、トウガンさんとゲンさんは修行仲間だという。トウガンさんに聞けば、ゲンさんの居場所ももしかしたら……という期待がわき出てくる。
そのとき、岩陰から再び野生のゴローンが飛び出してきた。今度は二体同時に、しかも先ほどのゴローンよりも体格が大きい。さっきのバトルで自信がついたのか、シャワーズは自ら進み出た。
(シャワーズだけで大丈夫だよ)
「本当?」
(うん! また、なみのりで……)
そのとき、二体のゴローンの体が光り輝きだした。この技は、確か。
「まさか、捨て身の技の!?」
自ら戦闘不能になる代わりに、相手に多大なダメージを与える技。じばく、だ。
そう判断したときにはすでに遅く、爆風が私とシャワーズの体を包んでいた。でも、ゴローンが爆発する寸前に何かから手を引かれて、重力が後ろにかかり、爆心地から僅かに遠ざけられた。地面に倒れ込んでしまったけれど、なぜか痛くなかった。
そんなことより、私の頭の中はシャワーズの安否の心配でいっぱいだった。爆煙が消えるのも待たずに、私はその中に飛び込んだ。
「シャワーズ! どこ!? シャワーズ!」
(マスター)
「!」
少しずつ煙が晴れてくると、シャワーズの姿をそこに確認できた。シャワーズは、無事だった。安心と疲労感がどっと押し寄せてきて、思わずその場にへたり込む。歩いてきたシャワーズの体をぎゅっと抱きしめた。
「よかった……! でも、どうして無傷で」
(助けてくれたんだよ)
シャワーズの視線を私も追いかけて、そう高くはない位置を見上げた。私たちからそう離れていない場所に、ルカリオが立っている。その両手からは青白い波導が放たれていて、それは弧を描くようにバリアを張っていた。この波導バリアのおかげでシャワーズは助かったのだ。
ルカリオというポケモンはとても珍しく、野生はもちろん手持ちとしているトレーナーも少ないと聞く。そんなポケモンが、どうしてここに現れたのか。考えられることは、一つしかなかった。
「貴方は……まさか、あのときの……」
「怪我はないかな?」
懐かしい声にドクリと心臓が鳴った。ゆっくりと振り返る。黒いスラックスが視界に入り、青いジャケットまで視線を上げる頃には、私の中でその人が誰なのか答えが出ていた。
会いたくて、会いたくて仕方なかった、ゲンさんがそこにいたのだ。さっき、私の手を引いて助けてくれたのも、きっと、彼だった。